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第十八章 星の階



 那由他の海。

 果てしない永劫の時の流れ。

 一が千となり、千が万となり、――溝、澗、正、載……。

 いにしえの人は、この悠久の流れを知っていたのだろうか。

 捉えることもできない。

 次元の彼方。

 手を伸ばす。

 宇宙そらを繋ぐ。

 星の彼方。

 心の呪縛を解放して、目指すその先は。


 命のきざはしが見えていた。






 渦が見えた。

 それは渦潮のような流れに見えた。

 親潮と黒潮がぶつかり合う混合水域のような……。

 じっと目を凝らしてみる。

 渦は流れを変えながらその場を永遠に回っているかのように見えた。

 わかる。――溢れようともがいている。

 あの渦は、変化を求めていた。

 それが何に起因するのかはわからない。

 例えて言うならそれは……人の感情のような。

 苦しくて、辛くて、でも逃れられなくて。

 運命から懸命に抗っているかのようだった。

 その流れの中に。

 外的因子が入りこんだ。


(朱音……?)


 その瞬間。

 世界が弾けた。

 渦がついにその呪縛から逃れた。

 閉じられたままだった世界が、外からの流入を自ら受け入れる世界へと、変貌を遂げた。

 朱音の胎内。

 彼女が意識をそれに写した瞬間に、それは起きた。


(朱音が世界を変化させた……?)


 違う。

 直接の要因ではあるが。

 渦はもともと、変化を求めていた。

 なぜかはわからない。だがきっかけさえあれば、なんでもよかった。

 朱音はたまたまそのきっかけになっただけ。

 それでも。

 彼女はそのすべてを、知ってしまった。


(……かわいそうに……)


 察してあまりある。

 瑚太朗に何も言うことが出来なかったのも無理はない。

 あの渦は――。

 因果律が交わる基点。

 並列世界の隙間。

 世界と世界の層を繋ぐ場所だった。

 かつての朱音の言葉を思い出す。

 一枚の紙の表と裏。

 その紙の表と裏の中間にあたる場所。

 紙の存在そのものだと思えばいい。

 交わることのない世界。

 そこに同一個体の意識が二つ並存してしまった。

 朱音が聖女の本能で意識を次代に繋ごうとして行ったことが。

 図らずも世界の矛盾を生んでしまった。

 質量保存の法則。

 その因果が、矛盾を生んだ。


(篝は……そのために生まれたのか)


 矛盾を矯正するために。

 閉じられたままだった世界が、外部の系を流入しやすい――いわば因果律の破綻を招きやすい世界に変えられた。

 並列する世界。

 瑚太朗はそこで、たくさんの可能性世界を垣間見た。

 なぜあれほどたくさんの世界が存在するのか不思議にすら思った。

 だが、あれらの中のどれにも、今までいた世界は存在しない。

 矛盾を生むからだ。

 因果の流れは常に一定でなければならない。

 この流れは不可侵のもので、いわば世界の法則そのものだった。

 この並列世界を創造した者の意志なのか。

 わからないが、とにかく、この矛盾を取り除かないと可能性世界そのものが破綻する。

 このたくさんの可能性世界を存在させるために。

 篝という、人工来世の世界を滅亡させる鍵が誕生する必要があった。


(ならば……俺は?)


 自分自身の存在。

 矛盾を抱えたままだ。

 なぜなら自分がいたから、篝は生まれた。

 正確には自分と朱音がいたから……。

 朱音はすべてを知っていた。

 命を落とすとき、残されていた聖女の力をすべて使って、篝に自分の意識を融合させた。

 篝ごと世界から弾かれるために……。

 可能性世界。

 ふと見ると、そこには違う存在の朱音がいくつもいた。

 あれらは自分の知っている朱音ではあるけれど、自分のいた世界の朱音はもうどこにもいない。

 存在そのものが篝ごと消去されている。

 そうする必要があったから。

 だが、そうすると……。


(俺が消えていないのは……なぜだ?)


 自身の内を探る。

 篝を愛する気持ち。朱音を愛する気持ち。

 最後の瞬間。

 鍵である彼女そのものを愛した。

 その気持ちはいまでも変わらない。

 だがそれでは矛盾を抱えたままだ。

 世界の法則から外れている。

 ここにいる自分は……何者なんだ?


 ――生きて……!


 あの言葉は。

 間違いなく瑚太朗に向けての願い。

 篝が最後に残した意志だった。

 その意志が届いた結果なのか。

 篝が何をしたのか。

 それをなんとしてでも知る必要がある。

 瑚太朗は目の前に聳えるきざはしを昇った。

 あの先に――。

 答えはあるような気がした。






to be continued……


説明になっていない気がする……(苦笑)

わかりにくい話ですね。すいません。うまく書けなくて申し訳ないです。

つまり篝が生まれたのは因果律を閉じた状態に戻す『ディリクレ世界』に事象干渉させるためでした。

瑚太朗と篝がいた世界は『ノイマン世界』といって、因果律が外部の系に流れやすい世界なので、並列世界に矛盾が生じやすいのです。

月ではアウロラが並列世界を構築して生存模索をしているので、月の篝ちゃんが「えいっ」と瑚太朗と篝のいた世界をポイ捨てしちゃいました。

不純物を取り除くみたいな感じです。(そういっちゃミもフタもないが……)

ただこの話、まだ続きます。

瑚太朗の中に因果律が収束したままの状態です。

それが本当のテーマというか、書きたかったことなので、頑張ります。

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