Epilogue.
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己の『願い』を賭け、黒と白の陣営に分かれ戦う。
勝利条件は、互いの陣営のキングを討ち取ること。
勝者には、栄光と未来永劫の幸福を。
敗者には、呪いと未来永劫の絶望を。
この世には、常に、何かを為し得るためには『対価』が求められる。
ヒトが運命を変えるには、犠牲がツキモノだ。
己の運命を恨み、ヒトとしての禁忌を侵してまで、その運命とやらは、変える価値があるモノなのだろうか。
自分の代わりに、他の知らない誰かが、己の運命を恨むことになるなど、知ったことではない。
自分の運命を変えることに必死な『俺たち』は、とにかく自分ひとりのことで、精いっぱいなのだから。
――運命を変えたくば、王である我に勝利をもたらせ。
――さもなくば、我が駒となり手足となった者たちには、祝福を与えよう。
――ただし、勝利をなせなくば、…………果てなき闇へ。
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そのはずだった。
オレ達、黒軍は最後の最後で、王手をかけられ、敗北が決定した。
しかし、オレ達は誰一人として、果て無き闇に堕ちることも、ありとあらゆる呪詛や絶望に苛まれるというモノは居なかった。
白軍の中に、こんな『願い』をかけた奴がいたのだ。
「敵陣営の救済を」
そんな願いを掛けたのは、何を隠そうあの僧正官……最後の最後でオレの動きを封じ、シエルに王手をかけた、あのガートレイだ。
そんなわけで、オレ達は、戦争に負け願いは叶わないが、絶望に苛まれることもない、という、非常に不思議な感覚でいた。
しかし、戦争で失われた命が戻ってくるわけではない。自ら手に掛けた妹も、もう一人の自分の親友であった男も、もう二度と、会うことはない。
勝った陣営の願いは、最終的な兵の命の有無に関わらず達成されるようで、世界は平和になり、オレ達黒軍は救済され、その他、存命でないと叶わない『願い』以外は全て叶えられたようだ。
それほどまでの『願い』を叶える為の『対価』は、いったい何なのだろう。
戦争時には高ぶっていたはずのオレの感情は嘘のように鎮まり、「ウェイルド」はいつの間にかオレの中からいなくなっていた。
いや、正確には「いなくなった」という表現は正しくはないかも知れない。たまにオレがウェイルドになったような気がするときもあるし、すぐそばにウェイルドを感じるようなこともある。
だが、もしかしたら、ウェイルドのそばにオレがいるのかもしれない。本当はウェイルドこそがオレであり、暴走した感情が刃となっていろいろなものを傷つけてしまったのかもしれない。
真相は、神のみぞ知る、と言ったところだろうか。
もちろん、神なんて存在がこの世界にいるのだとしたら――『願い』を叶えるだなんてエサで戦争をさせるような神がいるのだとしたら――こう言ってやる。
チェックメイトだ!
あとがきのようなもの
チェス盤戦争『CHECK!』、これにて完結です。
初出掲載(2013年3月6日、こちら→【http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=2083419】にて)から随分と経ってしまいました。
無計画さ故に連載作品を増やしてしまい、結果として更新が遅れ、読者の方にはとてもやきもきとさせてしまったかもしれません。(初出から追ってくださっていた方がいるかどうかは別として)
現在(2015年1月24日……書いている間に日付が変わってしまいました(笑))までの長い間、掛かった時間と文量が比例しないモノで申し訳ないですが、感想や評価、ブクマなどで応援下さった方、ありがとうございました!
最後に、登場キャラや世界観の設定として使わせて頂いた、Twitter向け診断メーカー「チェス盤戦争」【http://shindanmaker.com/286476】及び診断メーカー作者様に厚くお礼申し上げます。
2015.1.24 華月蒼. 拝