chapter:2.
「ブレイドについて、何かわかったのですか!?」
いきなりのシエル騎士官の台詞に、つい力んでしまう。しかし、シエルはそんな俺にも特に態度は変えず、先を続けていった。
「いや、さっぱりだ」
持ち前のランスでばっさりと切り捨てるような発言に、俺はあからさまに肩を落としてしまう。
「そうですか」
「ただ、少しばかり、面白い情報が聴けてな」
にやりと笑みを浮かべる騎士官に、俺はごくりと生唾を飲んでしまう。
「どういった、情報でしょうか……?」
シエルの顔色を窺うように、ゆっくりと尋ねる。
俺だけを敢えて呼び出してまで聞かせるような情報だ。注意するに越したことはないだろう。
「……先日、ある黒兵を捕虜として捕えたんだが、その時のことだ」
俺の様子を見てなお笑みを崩さずに、シエルはそう続ける。
「捕虜……ですか? その階級は?」
「単なる歩兵だ。名はギルドレイというらしい。ただ、そいつの尋問、というか、拷問の後のことなんだが…」
シエルは声を落としてさらに続ける。
「拷問の後、何らかの処置を施して、向こうの軍に送り返したそうだ」
「……」
「意味がわからない、といった様子だな?」
黙り込んだ俺を見て、シエルはそう判断したらしく、フンと鼻を鳴らす。
「つまり、洗脳を施した、もしくは何等かの催眠術をかけてスパイとして送り込んだと考えるのが妥当ではないか、とオレは考えているんだが?どう思う、ウェイルド僧正官?」
さらに声を落として俺に問うシエルに、俺は慌てて返事を返す。
「は、騎士官殿のお見立てに意義はないと存じます」
背筋を伸ばしてそう答える俺に、シエルはさらに声を落とし、畳み掛けるように言った。
「つまり、オレ個人としての意見だが、お前の言うブレイド僧正官についても、コレが関与しているんじゃないか、と思うんだが?」
シエルの突拍子もない言葉に、俺は声が出ない。しかし、全く腑に落ちないわけでもなく、どことなく納得できるような気すらしてくる。
俺たち軍兵は、軍に入った時に、願いとともに能力が付与される。人によってその能力はさまざまだが、もしかしたら今シエルが言ったような能力を保持している兵士もいるのかもしれない。俺自身『魔物を召喚する』だなんて馬鹿げた能力をもらっているわけだから、一概に「そんな能力はありえない」だなんていうことはできないのだ。
結局、シエル騎士官とはそこで別れ、俺は悶々としたまま、拠点へと戻る道を辿って行った。
「遅かったなぁ、ウェイルド!」
拠点へと戻った俺に、レオンハルトが陽気に声をかけてきた。どうやら酔っているらしく、葡萄酒の匂いがキツく漂ってくる。
「うわ、レオンお前酒臭いぞ」
「いやぁ、勝利の美酒ってのはどうしてこう美味いモンなのかねえ」
今日も前線で鎌を振り回し、功績を上げたレオンハルトは、朗らかに酒を煽った。コイツの願っている『世界平和』だって、結局はコイツに薙ぎ払われる敵の犠牲なしには叶えられないというのに、ずいぶんとお気楽なものだ。
シエルとの一件もあり、皆と陽気に宴会をする気にはならなかった俺は、早々と自分の寝床に向かうことにした。
「お酒はお嫌い?」
寝所に向かおうとした俺に、女の声がかかる。
「なんだ、お前か、メルセデイズ」
暗闇から声をかけてきた水色の髪にワインレッドの瞳の女は、メルセデイズというルーク階級の女兵士だ。ルーク階級は別名『戦車番』と揶揄されることも多く、戦況が有利なこの状況ではまだそれといった活躍はない。しかしいざ戦車が投入される機がくると、メルセデイズほど的に砲弾を命中させる狙撃手も俺は知らないのだ。軍という環境上、男女で差別されてしまう環境の中で、そう言った区別なく評価をする俺を、この女はえらくお気に召したようで、こうして会話することも少なくはない。
「そう言う気分じゃないだけだ」
「あらそう。私もなのよ。ちょっと話さない?」
「ちょっとだけ、な」
クツクツと笑うメルセデイズと並んで、少しばかりの雑談を交わした俺は、今度こそ寝床に潜った。
既に宴会騒ぎも静まりかけていた頃だった。
人物データ
シエルは白のナイト。薄紫の髪に桃色の瞳。武器はランス。精霊を召喚する事が出来る。毒舌な性格。白のポーンとは恋人同士。願い事は「不死の体を得る」です
ギルドレイは黒のポーン。青の髪に亜麻色の瞳。武器は大剣。感情を操る事が出来る。情に厚い性格。黒のクイーンとは幼馴染。願い事は「生まれ変わりたい」です
メルセデイズは白のルーク。水色の髪にワインレッドの瞳。武器はハンマー。音を操る事が出来る。怒ると怖い性格。黒のルークとは血縁関係。願い事は「大切な人を守る」です