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坂の上のレストラン   作者: 黒宮湊
7/13

坂の上のレストランと休日

「うぅ…寒いー…」

 今日は俄然と冷え込み、ベッドからなかなか出られない。

「昨日はこんなに寒くなかったはずなんだけどなぁ…」

 そう文句を言いながらも私は素早く起き上がってストーブを点け、素早くまたベッドに潜り込んだ。

「…早く起きないとなぁ…」

 しばらくするとストーブから音がし始め、ボンッと音を立てて点いた。

「あー…寒い寒い寒い寒い……。うっわ…服冷たい…」

 急いでストーブの前に行って座り込み、氷のように冷えきった服に着替え始める。

「何で今日はこんなに冷え込んでるんだろ…」

 もともと朝が得意というわけでもないのだが、寒がりな私は冬の朝がキツい。

 そして冷たくなっていた服にやっとの事で着替えれた私はリビングへ行った。

「あ、姉ちゃん、おはよ」

「あれ!? 悠太!?」

 昨日言っていた4つ下の弟は現在大学生。

 今は大学の寮に住んでいたはずなんだけど…

「どうしたの!? 大学は!?」

「そんな驚かないでよ。ちゃんと毎日行ってるから大丈夫。今日は休みで予定も無いからここ来ちゃった」

「何で実家じゃなくて私の家なのさ…。……ってゆうか、何で中にいるの? 鍵は?」

 私はマンションで1人暮らしをしている。

 合鍵は母しか持っていないはずだし…、もしかして鍵掛けるの忘れてたとか…?

「ん? 合鍵使ったけど?」

「何で持ってんの!?」

「何でって、合鍵を作った時に俺の分も作っといたから」

「何で作ったの!?」

「細かい事は気にしない気にしない」

「気にするわ!!」

 意味分かんないな…。

 てゆうか悠太…久しぶりに会ったのにあんま変わってない…。

 2年ぶりくらいかな…?

 相変わらず突拍子のない行動するし、見た目も変わってない。

 ずっと黒髪のままでいるのかな。

 左だけ少し跳ねてるけど、もともと完全な直毛だし、しかもちょっと長めだから女の子みたいだ。

 年頃の若い男とは思えない…。

「そういや今週から大寒波が来るらしいよ」

「えっ、やだなぁ…」

 勝手に郵便受けから持ってきた新聞を指差した悠太を横目に見ながら私はカーテンを開けた。

 すると、

「わぁ…! 真っ白!!」

 家の前一面に雪が積もって真っ白になっていた。

 どうりで寒いわけだ。

「本当、雪降るとか聞いてなかったから来るの大変だったよ。駅から歩いて来たからね?」

「だったら尚更何で私の家に来たの。家だったら父さんが来てくれたんじゃないの?」

「さすがにもう仕事に行ったでしょ」

「え?」

 その言葉に時計を見る。

「………8……時……?」

 ……………ん?

 ………はっ8時!?!?

「8時ぃぃぃ!?」

「え、何!?」

「遅刻だよ遅刻!! 大遅刻!!」

 予想外の時間に急いで身支度をする。

「あ、今レストランでも働いてるんだっけ?」

「そうだよ!! 7時に出勤なのにもう1時間も遅刻しちゃってるんだよ!!」

「電話しなくていいの?」

「あっ電話!! ………あれ!? 携帯が……あっ! 部屋だ!!」

 携帯を部屋に忘れた事に気付き、急いで取りに行く。

 そして部屋に駆け込んで携帯を手に取り、電源をつけると…

「うわっ!?」

 電源がついた途端に電話がかかってきた。

 表示された名前は、"青山隆介"。

 そういえば登録名を変えるのを忘れてたな、と思いつつ、急いで電話に出た。

『もしもし、麻理さん?』

「はい! あの! すみません…! 寝坊してしまって…!」

『あ、大丈夫ですよ』

「…………はい?」

 大丈夫?

 何が?

『こっち雪が凄くて、店の前の坂が凍っちゃっていて滑るんです。それで、危ないので今日は休みにしようと思って電話したんです』

「あ、休みになったんですか…」

 よかった…。

 と思ったら失礼なんだろうけど、本当にホッとした…。

「あ、休みになったの?」

 ふいに扉の方から悠太の声がし、振り向くと悠太が勝手に部屋に入ってきて勝手にくつろいでいた。

「ちょっ…! 悠太! 勝手に入って来ないでよ!」

 と、驚いた私は思わず叫んでしまい…、

『………悠太……あ、では…』

「えっ!? あの! 隆介さ…!?」

 弟の名前を呟いた隆介さんはそのまま電話を切ってしまった。

「嘘っ…!?」

 絶対誤解されたよね!?

 隆介さんには弟がいることなんて言ってないし!

「今日休みならここら辺案内…」

「ゆ〜う〜た〜!!」

「えっ!?」

「どうしてくれんの!? 隆介さん誤解しちゃったじゃんか!!」

「は? 知らないよ? ってか、誤解って何が?」

「何って……!」

 ……………何だろ?

 そういや私…隆介さんのことを少しでも知るたびに嬉しく…

「……ふーん」

「な、何?」

「いや、やっと姉ちゃんも色気付いたのかって」

「しっ失礼な!」

「あ、俺さっ! 姉ちゃんの働いてるレストランに行きたいっ!」

「はっ!?」

 なっ、え、きゅ、急に話変えてきた!?

 あ、でも、

「……うん、行きたいなら連れてってあげる。でもその代わり…」


「お〜っ! ここがレストランがある町〜っ?」

 という事で、私は弟を連れてレストランの近くまでやって来た。

「いい町だね〜っ」

 さすが私の弟。

 感性が似てるんだな〜。

「うん。こういう所が好きな友達いるよ。今度連れてくるね」

「ありがとう」

 ここに来るにあたって私が悠太に出した条件は、"レストランや町の事を周りに広めてほしい"、というもの。

 弟は顔が広いため、すぐに友達を連れてきてくれるだろう。

「ほら、あの坂の上にあるレストランが私が働いて…」

 あれ…?

「ん? 姉ちゃんどした?」

「………隆…介さん…?」

 私が指差した先のレストランの前に隆介さんがいた。

「あれ? 誰かいるよ?」

「……う…ん…」

 1人…なの…?

 何で…?

 何して…?

「こんなに積もってるのに1人で雪かき? 大変だね〜」

「!」

 雪かきしてるの…?

 1人で…?

「えっ姉ちゃん!?」

 それに気付いた私は、思わず弟を置いて走りだしてしまった。

 が、

「きゃあっ!? 痛っ!?」

 凍っていた坂で滑り、思いっきり転んでしまった。

「姉ちゃん大丈夫!?」

「いたたた…」

「麻理さん!?」

 恐らくさっきの叫び声で気付いた隆介さんが駆け寄っ…

「だっ、大丈…!? おっとっとっ痛っ!!」

 隆介さぁぁん!?

 そういえばドジでしたね!!

「だ、大丈夫ですか!?」

「すみません…ありがと…うございます…」

 悠太が隆介さんに手を貸しに行った。

「あ、麻理さん、大丈夫…でしたか?」

「あ、はい…」

「今日は休みなのに、こんな所でどうしたんですか?」

 何故かいつもより語意が強くて、少し怒り気味に言った隆介さんが悠太をチラッと見る。

「あ、あの! これ弟なんです!」

「え? 弟さん?」

「はい、悠太って言います。姉がお世話になってます」

「いえいえ、お姉さんがいてくれて大変助かっています」

 よかった!

 誤解とけれた!

「でも何で弟さんとここに? 危ないって言ったじゃないですか」

 何故かまた少し怒り気味に話す隆介さん。

「悠太がここに来たいと言ったので…」

「でも現に転んじゃってるんですよ。だから危ないって言ったんじゃないの?」

 あれ…?

 心配してくれて…?

「ちょっと、さっきから何なんですか? 姉ちゃんに怒らないで下さい」

「ちょっと悠太!」

 今度は悠太が誤解した!

 隆介さんは私のこと心配してくれて怒ってくれてるんだよ!

 なんてそれを言った本人の前じゃ言えないし!!

「あぁ…すみません…」

「すみません弟が…!」

「……ふんっ」

 何でこんな毛嫌いしてんの!?

 馬鹿なのコイツ!?

「姉ちゃん、もう行こうぜ」

「は!?」

 ちょっと!

 隆介さん置いていく気!?

 1人で雪かきなんて大変に決まってるじゃんか!!

「私は…!!」

「俺は大丈夫ですよ」

「でも…!! …………ん?」

 今、"俺"って言った?

「……………涼介さん?」

「え"!? 違いますよ〜!」

 え、え?

 どっち?

 もう本当に分かんない!

 でもよくよく考えたら隆介さんは怒らないよね!?

 で、でも、もし仮に涼介さんだったとしても何で隆介さんのフリなんかして…!

「さあ、早く弟さんに町を案内してあげて下さい」

「あ、は、は…い…」

 彼がどっちなのか分からないまま、優しい笑顔で送り出されてしまった。

 本当にあれは…隆介さん…?


「なぁ、姉ちゃん、あれ何?」

「………」

「姉ちゃん? 姉ちゃん!」

「へっ!?」

 あ…、柄にもなくぼーっとしちゃってた…。

 さっきの人…本当に隆介さんだったのかな…?

 それとも普段は一人称、"俺"なのかな…?

 その事ばっかり気になって考えてしまう。

「あれ、麻理さん?」

「え?」

 ふいに呼ばれ、声がした方に目をやると…、

「あ、やっぱり。……こんな所で何してんの? 今日お休みなのに」

「りょ涼介さん!?」

 ってことは、さっきのはやっぱり隆介さんだったのか!!

「あれ? さっきの人?」

 悠太が不思議そうな顔で涼介さんを見つめる。

「この人とさっきの人は双子なんだよ。あ、涼介さん、これは私の弟の悠太です」

「姉がお世話になってます」

「……弟だったんだ…。…てゆうか…あっちにも会ったんだ…」

「何か言いましたか?」

「いや、何でもだよ。こちらこそお世話になってます」

「?」

 ん?

 なんか…おかしい…?

「双子って本当にそっくりなんですね。でも、さっきの人とは服装の系統が違いますね」

 今日の涼介さんは黒いコートを着ている。

 いつもは隆介さんと似たような服装なんだけど…。

「あ、確かに。でも涼介さんの私服ってこんな感じでしたっけ? いつもより少し大人っぽい…」

「そ、そう?」

 ……あれ?

 涼介さん…って…こんな感じの人だったっけ…?

 もっとキツい喋り方してた気がするんだけど…?

 あ、弟を連れてるから気を使ってくれてるのかな。

「じゃあ、俺、もう行くよ。また明日」

「あ、はい。また明日」

 なんか変な感じ。

 何かに引っ掛かっている気がしてモヤモヤするんだよね…。

「あ、姉ちゃん! お昼食べに行こうよ! ここの隣町に美味しいハンバーグ店があるんだっ!」

「え、あ、うん…」

 そんなモヤモヤが残ったまま、その日は町を後にした。


 次の日。

「おはようございます」

「あ、おはよ」

 私が裏口を開けると涼介さんがすでに来ていた。

「あれ?」

 今日は隆介さんみたいなナチュラル系の格好なんだ。

 私服も似てると見分けるの大変だけどね。

「ん? 何だよ?」

「昨日みたいな格好はもうしないんですか?」

「は?」

「えっ?」

「おはようございます! あっ…! 麻理さんのが早かった…!」

 涼介さんが反応したと共に隆介さんが出勤してきた。

「今日は随分とお早いんですね。あ、昨日は雪かき1人で大丈夫でしたか?」

「え?」

「えっ、え?」

 あれ?

 何で2人とも昨日の話をすると変な反応…?

「「………」」

 顔を見合わせた隆介さんと涼介さんは暫く沈黙し、そして、同時に頷いた。

「さて、着替えましょうか」

「そうだな」

「えっ!?」

 何の沈黙だったの!?

 何で頷いたの!?

 まだモヤモヤが晴れないまま、2人は着替えに行ってしまった。

「ちゃーっスぅ!」

「あ、マサキさん。おはようございます。何だかやけにテンションが高いですね」

「あ、別に何かあったわけじゃないんスよ。ただ、店の前に雪だるまがあったもんスから…」

「子どもかっ!」

「痛っ!?」

 更衣室に行ったはずの涼介さんが素早く戻って来て、何故かいつもより強くツッコみ、そのままマサキさんを引きずって更衣室に連れて行った。

「…………双子って……便利ですよね…」

「え?」

 マサキさんの後ろにいたハヤトさんがぼそっと呟いた。

「いえ、何でもありません。俺も着替えてきます」

「え、あ、はい…。いってらっしゃい…」

 なんか…マサキさん以外が変なんだよね…。

「……さてと…、私も着替えてくるか…」

 考えていても分からないか、と思った私は考える事を諦めて、制服に着替えるために2階へと上っていった。

 実は昨日、1つ分かったことがある。

 悠太は、まだシスコンだ。

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