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坂の上のレストラン   作者: 黒宮湊
3/13

坂の上のレストランと新展開

 私がこのレストランでバイトを始めた初日になんとお客様が来た。

 多少失礼な発言だけど、本当に人が来る気配がなかったから、本当に嬉しい。

 でもまさか、その2人のお客様が……になるとはね。


「2名様でよろしかったでしょうか?」

「はい」

 お客さんは私よりも若そうな2人の男性だった。

 1人はメガネをかけていてストレートな短髪で、 もう1人は隆介さんやもう1人のお客さんよりも 背が低くて襟足が外に跳ねている人。

「こちらへどうぞ」

 隆介さんが2人を席へと案内し、2人は町がよく見える窓側の席に座った。

「ごゆっくりしていって下さい」

 そう言いながら私は水を出した。

「あなたが麻理さんですか?」

 お客の1人のメガネをかけた方が私の顔を明るい顔で見ながら尋ねてきた。

「え、あ、はい…?」

「俺たち、あなたのブログを見てここに来たんですよ」

「えっ!? ほっ、本当ですか!? ありがとうございます!」

「あなたの写真、凄く綺麗で、角度とかも見たい位置から撮られてて見やすいですし、いつも更新されるのが楽しみなんです」

「俺もっス!」

 私の写真のファン!?

 本当に!?

 写真家としての私を知ってくれている人がいたんだ!

「俺たちはいつもあなたがオススメしている店に足を運んでるんですよ」

「あなたがススメた店がハズレたことないっスからっ!」

「本当ですかっ!?」

 わぁ〜っ!

 どうしよっ!

 すっごく嬉しいっ!

 冗談抜きで飛び跳ねたいくらい嬉しいっ!

「この店もハズレじゃないみたいですね。景色もいいですし、店内も綺麗ですし」

「はいっ! そうなんで…!」

「ありがとうございます」

「わっ!?」

 突然後ろから隆介さんが会話に入ってきた。

「あ。あなたが噂のオーナーさんですか?」

「噂?」

「はい。麻理さんがブログで…」

「わあぁぁぁ!!?」

「?」

 あああ危ない!!

 本人の前でそれ言う!?

 それ公開処刑でしょ!?

「あ、すみません。デリカシーがなかったですね」

「アハハ…すみません…」

 とんでもない方だな──…

「あ、俺このパスタでっ!」

 このタイミングで注文!?

「かしこまりました」

 お客様は"冷静沈着"な人と、"自由人"な感じの人だった。

 "自由人"な方は何だか隆介さんと合いそうだなぁ…。

「じゃあ俺は、この川魚のムニエルでお願いします」

「かしこまりました」

 あ、今日完成したての新メニューだ。

 早速注文してもらえるなんて何だか嬉しいっ。

「麻理さん」

「あ、はい」

 隆介さんは私を呼ぶと、通り際に小声で、

「お客様を楽しませてあげて下さい」

 と囁いて厨房の方へと入っていった。

 "お客様を楽しませる"、それが私の、隆介さんから初めて任された仕事なんだ…。

「はいっ!」

 何だか、初めて隆介さんに頼られた気がして嬉しくなり、もう隆介さんは行ってしまったというのに遅れて返事をしてしまった。

「どうしたんスか?」

「あっ、いえ何でも…!」

 "自由人"な方──後で名前を聞いたので"マサキ"さん──が、私の顔を見て不思議な顔をする。

「噂の彼、やはり噂通りのイケメンさんですね」

 "冷静沈着"な方──同じく後で名前を聞いたので"ハヤト"さん──がニヤニヤと私の顔を見ながら言う。

 "噂"とは、私がブログに書いた隆介さんについてのコメント。


──このレストランのオーナーは見た目も中身も良い人です。時々子どものようにはしゃいだりもするので可愛らしい人です。でも、仕事は完璧にこなすので本当に格好良いんですよ──


 まさかレストランに来たお客様に言われるなんて思ってもいなかったから、気にせずに思った事を書いたんだけど…、

「…ん? 何でしょう?」

 このハヤトさんという人は空気が読めない人なのかもな…。

 そうでなければただの性根の悪いSだよこの人…。

「なんか麻理さんって思ってた通りの人だったっス!」

 マサキさんが無邪気に笑いながら私に話しかける。

 それにしても声の大きい人だなぁ…。

「そ、そうですか?」

「俺も想像通りの人だと思ってました」

「あ、ありがとうございますっ」

 想像通り?

 私ってどんなイメージなんだろ?

 悪くなかったらいいんだけど…。

「あ、お客様は普段、どんなお仕事をされてるんですか?」

 "写真家"としての私の話ばかりではつまらないだろうと思い、違う話題に持っていこうとした。

「あっ、いや…、その…」

「…えっと…」

 だが、今まで明るく喋っていたマサキさんの顔からは余裕が無くなった。

「あっ……聞いたらまずい話…でした…か…?」

 恐らく失敗した。

 だって、明らかに変な空気になってしまったから。

「……俺達、クビにされてしまったんですよ。働いていた会社の経営が苦しいからって突然…」

「…で、でもまぁ! 暇になったからここに来られたんス! 不幸中の幸いってやつっスよ!」

「そう…だったんですか…。すみません…無神経なことを聞いてしまって…」

 どうしよう…。

 隆介さんからは楽しませてって言われてたのに…、早速困らせてしまった…。

「じゃあここで働きませんか?」

「えっ?」

 またもや隆介さんが突然現れた。

「ここでですか?」

 ハヤトさんが隆介さんにやや驚いた表情で尋ねる。

「人手不足で困っていたんです。どうでしょうか?」

「いいんスか…?」

 あんなに無邪気だったマサキさんが控えめに尋ねる。

「お客様方が良ければ、僕はいつでも歓迎いたしますよ」

 そう言って優しく微笑む隆介さんに2人は顔を見合わせ、

「「よろしくお願いします!」」

 と声を揃えて頭を下げた。

「よろしくお願いしますね」

 隆介さんも明るく笑っていて楽しげだった。

 でも、お客さんが来ないのに店員だけ増えるのって…、その負担は隆介さんにいくんじゃ…?

 そんな不安げな視線に気付いたのか隆介さんは"安心して"と言わんばかりに優しい顔をした。

 安心…していいのかな…?

「あれ…? 何か焦げ臭い…」

「あっ!! 川魚の火をかけたままでした!!」

 ……不安だなぁ…。

 色んな意味で…。


「ちわーっス!」

「おはようございます」

 次の日の朝。

 少し早く来ていた私の後にマサキさんとハヤトさんが来た。

 その後、7時になっても隆介さんはまだ来ない。

 どうやら今日も隆介さんは寝坊のようだ───…

「セーフっ!!」

「アウトですよ」

 時間がギリッギリ過ぎた頃に隆介さんが駆け込んできた。

 また頭ボサボサ…。

 絶対寝坊だ…。

 オーナーなんだから皆が来る前にいてほしい、なんて、隆介さんには高望みかな…。

「あ、これ制服…! どうぞ…!」

「あ、ありがとうございます」

「ありがとうございますっス!」

 走って来たのであろう隆介さんは疲れ果てた声で2人に真新しい制服を渡した。

「ふぅー…疲れた…。あ、そういえば明日。僕の私情でお店を休みにしますので、麻理さんもそこのお二方もお休みにしますね」

「あ、はい、分かりました」

「了解っス!」

「はい」

 私情…?

 何だろう…?

 お店を休みにするくらい大事な用なのかな…?

「制服格好良いっスねー!」

「マサキ、そろそろ敬語ってもんを覚えなさいよ」

「敬語じゃなくてもいいですよ。話しやすいようにどうぞ」

「ありがとうございまっス!」

 そこは敬語なんだ。

 と、心の中でツッコみつつ、楽しげに話す3人を見ていた。

 隆介さん、すごく楽しそう。

 男性店員が入ってくれたから嬉しいんだろうなぁ。

 でも…、


 午後2時。

「…やはり今日はダメでしたか」

 隆介さんが寂しさを隠すかのような声で言った。

 今日は誰一人としてお客さんは来てくれなかった…。

「お客さん…来ないっスね…」

 あんなに元気だったマサキさんも椅子に腰掛けて机に頬杖をついている。

「今日はもう閉めましょうか」

「もう閉めるんですか? まだ2時ですよ?」

 ハヤトさんが不思議そうに隆介さんに尋ねる。

 隆介さんは扉の方へ歩いていき、鍵を閉めた後、

「……もう誰も来ないでしょう」

 と呟いた。

 やはりその顔は寂しそうで、心なしか潤んでいるように見えた。

「では、お疲れ様でした。明日はゆっくり休んで下さい。鍵は最後に僕がかけますので。…少し出てきますね」

 私達3人にそう告げると隆介さんは厨房に入って行き、制服を着たまま裏口から落ち着いた足取りで出ていってしまった。

「麻理さん…。オーナー…大丈夫なんスか…?」

「これが現状だったんですね…」

「…はい…」

 マサキさんもハヤトさんも心配しているみたい…。

 昨日の調子が良かっただけに、隆介さんの町の活性化に対する期待へのショックが大きかったのかもしれないな…。

「俺! このレストランの事、色んな人に勧めてみるっス!」

「俺も広めてみます」

「ありがとうございます。私も頑張りますね」

 3人で広めればお客さんが来てくれるかもしれない。

 それに…、早くお客さんが来てくれないと隆介さんの身がもたなくなってしまう…。

 隆介さんの事だからきっと見栄を張って、私達を不安にさせないようにして無理してるはず…。

「あの、2人とも、写真、撮っていいですか?」

 だから私は、早急に写真を撮った。

 レストランの新メニューも、新しい店員も、許可をもらってブログに載せる事にした。

 お客さんを寄せるにはとにかく興味を持ってもらいたい。

 だから私は、

 "写真家"としてもレストランに、町の活性化に協力する事にした。


 というわけで、せっかくお休みをもらったので、私はこの町をもっと知るために散歩をしながらブログに載せる写真を撮っていた。

 すると、

「ん…? 何の声…?」

 少し離れた所から何か騒がしい声がし出した。

 その声の方に足を運ばせると、そこにいたのは町の人達と1人の男性だった。

 しかも、その男性には何やら見覚えがある…。

「……あれ…? …隆介さん…?」

 真っ黒な礼服を着てるけど、確かに隆介さんだと思われる。

 その隆介さんらしき人物と、町の人達が向かい合って何かを話している。

 何の話をして……

「青山んとこのせがれが何をしに来た!」

「自分の故郷に帰ってきて何が悪いってんだよ?」

「ここはお前の故郷なんかじゃねぇ! 余所へ帰ぇれ!」

「ぁんだと?」

 ええぇぇ!?

 隆介さんが町の人とケンカ!?

 い、急いで止めないと…!!

「こら!! 何してんだよ!!」

「!」

 ケンカをしていた団体の横から止めようとした人が入ってきた。

 でもその人───……

「えっ!? 隆介…さん!?」

 また真っ黒な礼服を着た隆介さんが現れた!?

 隆介さんが2人いるよ!?

 どういう事!?

 突然の出来事に混乱する私だったが、この後、町の若者が少なくなった理由を知る事となった。

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