2026.2.19 不審者って恐ろしい。
ふと、小学生の思い出が蘇った。
一人で歩く帰り道、歩道橋に差し掛かるところで、後ろから小柄な禿げたおじさんがやってきた。急いでいるのか、キビキビとした足取り。
近づくにつれ、何かブツブツ言っているのが聞こえてきた。
「あの野郎、殺してやる、くそやろう」
そういうことを、かなりの勢いでブツブツ言いながら、やっぱりキビキビ早足で、こちらに向かって歩いてくるのだ。
私は震え上がった。小学校の、三年生くらいだったと思う。世間知らずだが、まったく何も知らないわけでもなく、想像力のたくましい時期。
当時、メガネをかけた名探偵の漫画にはまっていた私の頭によぎるのは、もう殺人を犯した、ないし、今から犯そうとしている危ないオジサン、そういう想像だった。
まあ実際に何があったのかはともかくとして、通常の精神状態でなかったことは確かだろう。そこで、かつての私はかなり賢明な判断をした。
当時の私はこう考えた。まず、刺激してはいけない。どうやらあの人が言っているのは別の人のことのようだから、刺激しなければ殺される(本当にそういう思いだったのだ)ことはない。
だが、この場から離れるに越したことはない。
そんなわけで、私は刺激しないようにだんだんと歩く速度を上げていき、おじさんの視界から消えたあたりで一気に走り出した。
この事件、と言ってもその後特に物騒なことはなかったのだが、これはかなり強く印象に残っている。
それからこれは中学生の時だ。
友人と二人、朝の8時頃、登校中に、そこはかなり人通りも車通りも多い通りだったのだが、目の前を歩くこれまた男性が、妙にフラフラしていることに気づいた。
私は相手を刺激しないよう(またこの配慮だ)、声の大きさに気を使いつつ酔っ払っているのだろうか、などと友人と話した。
まあ、どうやらその爽やかな朝の時間帯から、その男性はしたたかに酔っ払っていたらしい。薬物の可能性もあるかも、とひそかに警戒する私たちの前でふらふらと壁の格子につかまり、立ち止まってしまった。それ以上歩いていられなくなったのだろう。
恐る恐る横を通る時、気付いた。スーツのズボンの股の辺りが、濡れている。この男性、酔っ払いまくってどうやらやらかしてしまったらしい。
ともかく速やかに横を通り過ぎ、無害だった酔っ払いの恐怖から解放され、私たちは一息ついたのだった。
と、このような、なかには忘れられたものもあるだろうが、学生の登校中の怖い体験はかなり覚えている。
それは主に不審者への恐怖である……いかのおすし、だとか、幼い頃から教育され、教え込まれた恐怖である。
登下校での些細な大冒険。ミッション・わりとポッシブル、とでも言おうか、そういう私の内面だけでの緊張が、静かに、私のなかで一つの経験として息づいている、そんな気がする。




