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団結ロボット

掲載日:2025/09/13

団地管理業務に取り組むロボットの物語です。

「このロボットは我が社の最新機種であり、優れた実務能力で皆様のよりよい生活のお役に立つことは、間違いありません。」

そんな売り文句に誘われて、私たちの団地管理組合は、ロボットの購入を決めた。

団地の管理組合の役員は、住民の中から選ばれ、半年ごとに改選されるのだが、誰も面倒な団地の管理組合の役員をやりたがらないのが実情だった。


そこで、団地管理組合としてロボットを購入し、そのロボットに管理組合業務をやらせる話が持ち上がったとき、どこからも異論は出なかった。


管理組合の役員の中で比較的若かったため、ロボットの初期設定を頼まれた私は、娘とともに早速、納品されたばかりのロボットを起動してみた。

「何か光った。お母さん、ロボットの目が光ったよ。」

「そうね、ロボットが起動したからね。」

「このロボットが団地のお仕事とか、してくれるんだよね?」

娘はロボットの起動を間近で見ることは初めてだからか、少し興奮した様子だった。

「そのはずだけど。」

私がサイトの取扱動画を見ながら答えると、娘はロボットのお腹の部分のパネルを触っていた手を離して振り返った。

「ねえ、お母さん、このロボットは優秀なの?」

「そうねえ、そのはずだけど。本人に聞いてみたら?」

「答えるの!?」

びっくりした様子で娘はロボットを振り返り、まじまじとロボットを見つめて言った。

「あなた、優秀なの?」

そう問われたロボットからは、低い作動音が聞こえ、その音が徐々に高音になり、そしてその音が消えた後、ロボットは娘に顔を向けて言った。

「ぼちぼちです。」


その後、私はロボットに業務の概要をインストールし、翌日からロボットは、管理組合の業務を開始した。

しかし、結論から言って、ロボットの性能は何とも微妙だった。

例えば、敷地内の除草を行った際は、きちんと働くことは働くのだが、ロボットだからといって、何か、あっという間に綺麗に片付けてしまうといったことはなく、人間と同じように2本の腕で抜いていくので、人がやるのと少しも効率は変わらなかった。

それに、たまに間違って花壇の花まで抜きかけるものだから、それを見つけた娘に大いに怒られ、その度、ロボットは申し訳なさそうに頭をペコペコ下げ「面目ないです。」と謝った。


ロボットが花壇の花を抜きかけるのを見て以降、娘はロボットの監督官を自任して、その後をついて回って、指導と称して、いろいろ小言を言うようになった。


そんなある日、団地内に設置されているゴミ捨て用のコンテナに、不法投棄が相次ぐという事件が起こった。

これに対し、団地住民から、不法投棄する者を見張ってほしいという要望が上がったため、ロボットに見張りをお願いし(当然、娘も監督官としてロボットと見張りをしたがったが、子供にそんなことはさせられないので)ロボットは夜通しコンテナを見張ることになった。


数日間見張りを続け、とうとうロボットは、不法投棄の現場を押さえることに成功した。

そこまではよかったものの、事前に、不法投棄をする者を発見した場合は、直ちに、私やその他の役員に通報するように伝えていたにも関わらず、ロボットは不法投棄している者にゆっくりと近づき

「大変申し訳ないのですが、このコンテナは居住者用なので、不法な投棄は、お止めください。」

とペコペコ頭を下げて、お願いし始めた。


当然、不法投棄などをするような輩は、ロボットの言葉などに耳を貸さず、かえってロボットがお願いする様を面白がり、不法投棄しないようにお願いするロボットを蔑み、叩いたり、蹴ったりした。

そして、叩かれたり、蹴られたりしたロボットは、「不法投棄をしないでください。」

とお願いするのと併せて

「パンチやチョップは、お控えください。」

とペコペコ頭を下げてお願いしたが、暴行は止むことはなかった。


結局、ロボットが、かなり強く蹴られた音が団地内に響き渡り、私や他の住人たちが何事かと部屋の明かりをつけ、団地内が騒然となったことで、不法投棄をしていた者は、あわてて逃げて行った。


その後、私はコンテナに駆けつけて、ロボットを助け起こした。

幸い、外装のパネルが何箇所かへこんでいたが、大きな破損はなく、ロボットの機能に問題はなかった。

そこで、私は、事前に不法投棄をする者を見つけた場合は、私や他の役員に、その旨を伝えるように指示していたはずなのに、どうして一人で不法投棄をやめるように言いに行ったのか、と尋ねたが、相変わらずロボットは頭をペコペコ下げて「面目ないです。」と謝るばかりだった。


確かに、ロボットはこちらの言うことを聞いて、一生懸命働いてくれている。

しかし、事前に聞いていたロボットの性能と実際の活動には、大きな差があるので、私はメーカーに連絡を入れ、一度メンテナンスの人に来てもらうように手配した。


コンテナの件があった次の朝、ロボットが除草作業の続きをしていたところ、いつものように娘がロボットの様子を見に来た。

「…何でへこんでるの?」

娘はそう言ってロボットの顔を指差した。

「面目ないです。」

ロボットは草を抜きながら答えた。

「いや、謝らなくてもいいけど。」

娘はロボットの顔を覗き込んだ。

「うわー、痛くない?」

娘の質問にロボットは草を抜く手を休めない。

「痛くはないです。」

ロボットは、抜いた草をゴミ袋に入れながら答えた。

「そっか、ロボットだもんね。…でも、少し待ってて」

娘はそう言うと、家へ駆け出し、しばらくすると大きな絆創膏を持って帰ってきて、ロボットの顔に大きな絆創膏を貼り付けた。

「視界の37%が遮断されました。」

ロボットは周囲を確認するように首を巡らせた。

「せっかく貼ってあげたんだから、文句言わないの。」

娘は口をとがらせると、ロボットの横で一緒に草を抜き始めた。

ロボットは、やはり娘に頭をペコペコ下げて

「面目ないです。」と謝った。


やがて、娘と共に、へこんだ頭部に大きな絆創膏を貼って草抜きを行うロボットは、住民たち、とりわけ団地の子供たちの興味を引き、子供たちは娘を倣って、ロボットの後をついて回ったり、ロボットの横で一緒に草を抜き始めたりした。


子供たちがロボットと共に草を抜きだすと、親たちがこれを見守った。

子供たちを見守りつつ雑談をする保護者の間で、自然とロボットの活動の様子が話題になった。

効率的とは言えないし、むしろ愚直なロボットの活動は、団地の住人の口から口へと伝わり、その愚直さゆえに、そのうちに「こうした方がいい」と言いながら、ロボットの活動に口を出す者も現れた。

中には、いっそロボットと一緒に管理組合の役員をやってもよいという者まで現れ、団地内での管理組合の活動に対する住民たちの意識は、明らかに以前と異なるものになっていた。


そんな変化が団地に見え始めたころ、連絡していたロボットのメーカーからメンテナンスの技術者がやって来て、私というか、主にロボットにくっついている娘から、ロボットの活動の様子を聴取した。

「うーん、おかしいですねぇ。この規模の団地の管理業務であれば、充分に対応可能なはずなのですが。」

「ううん、違うの。ロボットは、ちゃんとやっているの。」

娘は、ロボットに、いろいろと小言を言っている割には、他人がロボットを低く評価することは、腹立たしいようだった。


「とりあえず、見てみますね。」

技術者はそう言うと、ロボットの背中のパネルを開いて点検を始めたが、すぐに手を止めて、私たちを振り返った。

「あぁ、はいはい、分かりました。これですね、団結スイッチが入っていますね。」

「団結スイッチ?」

娘がロボットの背中のパネル内部を覗き込む。

「ええ、ここですね。この団結スイッチが入っていると、ロボットの能力が大幅に制限されて、ロボットの行動方針が、周囲の人間に対して、団結を促すものになるんです。ロボットの性能が発揮されなかったのも、このスイッチが入っていたからですね。」

ロボットの背中のパネルの内部の奥の方、技術者が指差す先には、配線で見えにくいが「団」と表記された小さなボタンがあった。

技術者は団結スイッチを押してオフにし、パネルを閉めた後、私たちに「これで問題なく、ロボットは本来の性能を発揮します。」と太鼓判を押して帰って行った。


しばらく私と娘は何も言わず、微妙な空気が流れたが、やがて私たちは、互いに顔を見合わせると、無言で頷きあった。

そして、娘はロボットに後ろを向かせ、背中のパネルを開けて、団結スイッチを入れた。

「このモードでは、大幅に性能が低下しますが。」

娘は、そう言うロボットの肩を持って、くるりと前を向かせた。

「いいの。それより、草抜き、まだ半分も終わってないよ。一緒に行こう。」

そう言うと、娘は玄関で靴を履き、ロボットに手を差し出した。

絆創膏越しのロボットの顔は、少し戸惑っているように見えた。

「そうでしたら、ますます、本来のモードの方が合理的ですが。」

「いいって言ったでしょう。もう、何度も言わせないの。」

娘の少し怒ったような口調に、ロボットはいつものように頭をペコペコ下げて「面目ないです。」と言い、娘の手を取り、2人は外へ駆け出した。

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