第68話 休符の精、ナイチンゲイル=レストライン
夜半、祝灯が一呼吸ぶんだけ暗くなり、すぐに戻った。戻る刹那、白い細糸が空気の隙間に縫い付く。羽音はないのに、耳の奥がやわらかく空く。呼吸の背骨が一本、静かに置かれた感覚。
|休符の精《ナイチンゲイル=レストライン》「命令ニ従ウ習性ハ無イ。条件文ヲ」
夜菜「『私が“返す規範”を破らない限り、あなたは休符の位置を可視化する』」
レストライン「代償ハ——“約束ナキ沈黙”一夜。言イ訳禁止」
言い訳は心の即時解熱剤だ。封じられると、熱は意味に変わる。私は頷き、火帳に朱で脚注を入れる——『代償:弁明の禁止(可逆)』。この夜だけ、私たちは“理由”を口にしない。結果と段取りだけが紙に乗る。
エイリク「今夜だけ、僕は“待つ”を増やす」
零雅「刃は出さない。沈黙を護る役ならある」
レストラインは翼を折りたたみ、符頭のような白点を空に置いた。街じゅうの掲示、放送、噂話の行間に、空席が次々と現れる。席は記号ではない、座れる場所だ。
レストライン「署名ヲ与エル。【休符署名】。命令ノ空白ニ効ク。記号デハナク、席」
━━"ことり"。
最初の椅子が鳴る。|雷の精霊《メリン=アークフォイル》は遠雲で短く瞬き、短評を落とす。
メリン「位相ノ座標、可視化。電位差、整流」
スワン「凍結ニ非ズ、遅延ト整合」
とだけ言い。
カラドリス「温度差ノ緩衝、良」
と歌う。私は頷く。三冊の運用——時間を句点で刻み(雷)、温度差に橋脚を打ち(火)、返す先を地絡に落とす(水)——そこへ第四の席が噛み合った。
夜は深まる。断線皇の放送はなお続く。だが椅子が先に置かれた箇所では、命令の歯車が空回りしはじめている。私は一度だけ、踵で地を叩いた。━━"ぱち"。
礼儀の火花は音にならず、余白に沈む。沈黙は空白ではない。可視化されたインターフェイスだ。




