第62話 祝灯回線の裏帳簿、半拍の流出先
朝霧がほどける頃、導体街の配電盤は鉄の匂いを吐き、白い祝灯が順に点検の息を吐いた。私は盤の陰で【雷環綴】を薄く置き、回路図に“句点”を増やす。文を短くするみたいに、電位差の息継ぎを増やすのだ。
ハヤブサ・アステリオンは路面に粉で式を書く。
ハヤブサ「祝灯→地絡。ここに外付け分岐。“半拍券”の回線が噛んでる」
アジサシ・グラスフェザーは上段に索を張り、万一の逃がし路を空へ。ゲンボウ・デーメルは風を“静か”の側へ寄せて埃の流れを細く整え、零雅は【乾刃】で接着膜だけを薄く剥がし、角を丸めた。
カケス・フェロー「跳ねを止める矢は撃たず、道だけ留めます」
盤面の裏から出てきたのは灰色の薄札。印字は『半拍前払い・月極』。触れた瞬間、指先の温度が不自然に早く平らになる。前払いとは、未来の“間”を担保に取る契約だ。
私は火帳に朱——『返シタ:旧配線の勘定項目/処理:祝灯から“課金枝”切離・句点挿入』。
夜菜「これは掲示の貼り替えじゃない。回路仕様の差し替え。周知じゃ届かない層は、回線で直す」
盤の縁に触れたとき、硝子がうっすら曇り、指でなぞったみたいに癖字が走る——返シテ。雷帳に保留印を一つ、累計十。
夜菜「繰り返し要求=自動課金で処理済み。未払いはない」
濡字が短く灯り、礼儀の火花が指に触れて離れた。━━"ぱち"。
桂皮ひと匙、鉄が一筋、舌の奥で樹脂の粒が弾ける。
見落としているのは“流出先”。祝灯から抜かれた半拍はどこへ落ちる? 勘定系の口座名はきっと——断線皇と溶断妃の奥、核の前室。掲示の文章を直すだけでは届かない部位。
アジサシが索の結び目を確かめ、頷く。
アジサシ「回線側は暫定で封じ。人の側の“返済”は、次の段取りで」
私は胸の空洞に句点を置き、夕方の計画に青い印を付ける。人へ返す。機械の次は、呼吸の層だ。




