第6話 仲間募集は鳥の名で
樹海を抜ける古代の回廊は、壁に水脈の地図が彫られている。導水路と神話が同じ線で描かれていた時代の遺物。そこを辿ると、奇妙に相性のいい人たちが集まってきた。
最初に出会ったのは、灰色の外套の学者、ハヤブサ・アステリオン。
ハヤブサ「水車小屋の祈機、見事な回路補正だった。水理の式で言えば、あれは逆位相」
夜菜「褒め言葉として受領。あなたは?」
ハヤブサ「遺跡学者。水文の書換が専門。祈機や井戸はだいたい好きだ」
彼は石壁の細い刻みをなぞり、見えない回路図を私たちに見せるように解説する。理屈で水を扱う人だ。
次に、霧の縁から滑り出た斥候、ゲンボウ・デーメル。
ゲンボウ「足跡は残さないのが礼儀」
彼は露と霧を読む。風向き、葉の湿り、氷の薄さ。
ゲンボウ「氷上は反射が使える。君の銀光、跳ね返せる角度を探す」
戦場での彼は、氷面跳弾で私の環を増幅させられる——そう直感する。
雨上がりの宿場で、白い法衣に旅装を重ねた医術僧、トキ・ノクトウィン。
倒れた旅人の胸に掌を当て、彼は肺の水分を静かに調律した。
トキ「呼吸は祈りに近い。息は声だから」
夜菜「あなた、井戸の事件に向いてる」
トキは微笑み、優しさで会話を終わらせがちだった。
運河の石橋が崩れていた日には、荷車を引く行商人、アジサシ・グラスフェザー。
アジサシ「潮位が上がる前に仮運河を出すよ」
彼は筒と帆と索で即席の水路を作り、荷と人を対岸へ送った。兵站を水で設計する人間は、戦いより手強い。
そして、弓手のカケス・フェロー。
カケス「えっと……反射角、合ってるはず」
彼は水鏡を使って矢を曲げる。最初の一射は派手に外し、二射目で完璧に命中させる。
カケス「軽率です、でも謝り方は上手いです」
夜菜「謝る前提をやめると、もっと上手くなる」
カケス「精進します!」
軽やかで、赦しを学ぶ速度が速い。
エイリクは新顔が増えるたび、露骨に胸を張り、さりげなく私の隣を死守した。
エイリク「鳥の会合?」
夜菜「私の蛇、浮かないかな」
ハヤブサ「構造上、蛇と鳥は共存可能。捕食関係は置いておこう」
ゲンボウ「視線が増えた。護りやすい」
トキ「温かい飲み物を。冷たい水は記憶を強くする」
アジサシ「荷は僕が持つ。泣かせるほど重いやつも」
カケス「僕は空気を重くしない。……努力目標」
私は歩きながら、各人の水際の役割を心の中で配置した。
ハヤブサは回路、ゲンボウは地形と反射、トキは体液と呼吸、アジサシは潮路と兵站、カケスは鏡と角度。
エイリクは——私の死角。そして、笑わせる係。
夜菜「次は北。流氷の神殿」
エイリク「怒りを冷やしに?」
夜菜「凍らせると、代償が要る。涙を、鍵にするって噂を聞いた」
カケス「涙、足りなくなったらどうするんです?」
夜菜「そのときは——誰かに借りる。返す約束で」
私の言葉に、氷雨の気配が混ざる。未だ見ぬ神殿の白い息が、道の先からこちらを見ている。
そして、氷雨の夜には、もう一人。遠い国の剣を携え、鴇の字を名に冠する人物と出会うことになる。ここで全員の席は、だいたい埋まった。役割も、心の置き場所も。
孤独は嫌いじゃない。でも今は、歩幅を合わせるのが、少し好きだ。




