第56話 薄雷セッション、音の電位差
日が傾くと、広場の石畳は譜面の色になる。私は掌で地面を叩き、地絡のリズムを作った。短く、間を多く。命令形を抜いたら、まちの皮膚にやさしい。
遠雲の裏でメリン=アークフォイルの青が点滅し、頷きが返る。
メリン「命令形ナシ。位相、良」
エイリクは低い音を、カイト・ウルフスパークは金属箱の縁を指の腹で撫でる。ハヤブサは式を“過制御の手前”で止め、零雅は鞘口で湿り核を削る。カケス・フェローは弓を持たず、空中の跳ねだけを丸く均した。
夜菜「“噛み合う放電”は音楽になる」
ゲンボウが風の配分を少し換える。桂皮が一匙、鉄が一筋、そこへ人いきれの白い蒸気が混ざる。小さな灯がいくつか芽を出し、誰の財布の数も減らない。
アジサシは背後で索を一本だけ張り、万一、感情が音に乗って過熱した時の逃がし路を空へ開けた。
アジサシ「もし音が怒りへ寄ったら、ここに落とす」
夜菜「怒りは燃料にしない。橋脚にだけ使う」
私は雷帳に細注――『演奏=電位差の整流/観測点=拍頭(最近“返シテ”の出現偏り)・拍裏(退避域)』。ここ数日、“返シテ”は拍の表で顔を出す。だから今夜は、拍の裏に皆の息を寄せ、見えない請求の居場所をずらしておく。
演奏の終わり、━━“ぱち”。
礼儀の火花が石畳に触れて消える。誰にも命じられなくても、整った。私は胸の空洞に句点を一つ置き、温度を領収書として保存する。
エイリク「君が遅れて笑うのを、今日は僕が待ったな」
夜菜「予約制の逆輸入、受理するわ」
一粒の笑い、広場の端では火が地面に染み込むように明滅し、音はやさしく折り畳まれていく。明日の段取りは井戸――名は軽くしない。雷の作法を、水の礼儀に翻訳する番だ。




