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水鏡は半拍遅れて笑う-異世界最強の環の守護者、涙鍵の恋と逆ハーレム-  作者: NOVENG MUSiQ
第5章 平和の手順、半拍の余白

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第53話 弓と包丁、道具は“刃の前”から

 台所は午前の光で浅く白い。まな板の木目は細く、包丁は研ぎ立てではない——研ぎ過ぎは過制御だ。私は火帳を開き、『今日の目的:怒りを燃料にしない/温度差の橋脚化』と書き込む。


 カケス・フェローが包丁を取り上げ、矢野構えへ置換して見せる。

 カケス「狙うのは“切り口”じゃなく“戻しやすい線”。跳ねを抑えて、道を刺す」


 鴇淵零雅は鞘口で野菜の表面を撫で、見えない湿り核だけを落とす。

 零雅「【乾刃】は出さない。膜だけ剥ぐ」


 ハヤブサ・アステリオンは粉で卓上に式を欠く。

 ハヤブサ「ΔT(温度差)を分の句読点に割り当てる。短く刻め。渦制御は破綻だ」


 鍋の湯が息を一つ吐き、━━"ことり"。

 私は【雷環綴】の思想を転写した【熔環綴】で鍋縁の温度差に橋脚を立てる。火舌は性急をやめ、待てる火になる。

 カイト・ウルフスパークが味見用の匙を持って覗く。


 カイト「塩、どこで測ったの?」

 夜菜「湯気。温度は嘘をつかないわ」


 トキ・ノクトウィンが私の手首に触れ、指で数える。

 トキ「手元は短く・多く」


 孤児たちには包丁ではなくて箸を渡す。まず“刃の前”——切らずに並べる、角を丸める、戻しやすい線を見つける。切るのは最後。

 梟雪は胡瓜の鎧を指で撫で、“曲がりやすい向き”を確かめる。


 雪「ここなら、少し押すだけで曲がる」

 夜菜「それが戻しやすい線。刃は、線の延長にだけ入れる」


 エイリク・モルグストランドは少し遅れて台に肘を置き、低く囁く。


 エイリク「君の料理、凄く優しいね」

 夜菜「鍋の言い分を採点するだけよ」


 ゲンボウ・デーメルが窓を少し開け、風を“静か”へ寄せる。香は桂皮が一匙、鉄が一筋、そこへ新しい湯気が足される。私は火帳に朱線——『返シタ:鍋の偏り/処理:熔環綴・風・短文手順』


 昼餉(ひるげ)を配る前、カケスが包丁の背でまな板をとん、と叩く。

 カケス「道具は“刃の前”から。矢も、包丁も」


 零雅が頷く。

 零雅「刃は最後に出る。出さなくて済むなら、それが一番だな」


 配膳が終わる。孤児たちの腕から湯気が一斉に立ち、祝灯が窓辺でいくつか灯る。

 片付けの後、アジサシ・グラスフェザーが中庭を指す。


 アジサシ「午後は物干し。索を張って“避雷線の練習台”にしよう」

 夜菜「雷帳の脚注に冗句を足しておく」


 明日の段取りが、静かに決まる。平穏は段取りの集合。私はミズガルズ・リングの罅に触れ、乾いた線が一本のままなのを確かめる。非常口は灰、軽さは残る。次は——診療所。

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