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水鏡は半拍遅れて笑う-異世界最強の環の守護者、涙鍵の恋と逆ハーレム-  作者: NOVENG MUSiQ
第5章 平和の手順、半拍の余白

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第51話 共同浴場、湯気で測る平和

 共同浴場は桂皮の甘さと石の湿り。響きは柔らかく、湯の表面で小さな地震が往復している。


 トキ・ノクトウィンが脈をとる。

 トキ「深呼吸だ。平穏にも手順が居る」


 カケス・フェローは矢を持たず、置けの縁を丸く磨く。

 カケス「角が立つと、心も熱も集まりますから」


 私は湯口に【雷環綴】の思想を熱へ転写した【熔環綴】を薄く置く。湯の落ち口に橋脚を立て、温度の段差を丸める。怒りを燃やすのではなく、位置を決め直すのと同じやり方で。

 若い父親が赤子を抱えておろおろしている。


 父「熱くないですか……?」

 夜菜「“指の腹で読む”くらいの温度。温度は言語。嘘をつかないわ」


 私は湯気の層を鼻で読み、指の腹で確かめ、湯口を半分だけ挟める。ゲンボウが風を“静か”の側へ寄せると、湯面の小さな地震が落ち着いた。━━"ことり"。

 医師が一度だけ納得する音。

 脱衣所の隅で、年配の女が古い札を見つけて眉をひそめる。『長話は課電』。規約だ。


 夜菜「削除。短文推奨は“節電”のためであって、罰ではない」

私は張り紙の下に、“推奨:短く、間を多く(電位差の整流)”と追記する。条件文で暮らす。

 湯気の向こうでエイリクが私を見る。金輪は灯さず、目だけで笑う。


 エイリク「君がここにいると、湯が編集される」

 夜菜「湯気は文字数が多いから、句点を増やすだけよ」


 私はミズガルズ・リングの罅に触れる。わずかに軋むが、乾いた線が一本。非常口は灰になり、軽さだけが残った。

 カイトが桶を抱えて入ってくる。


 カイト「市場、二枚目の旧札も外せました」

 夜菜「ありがとう。周知徹底の押しておいて」


 梟雪が湯面を覗き込む。


 雪「明日、“手紙の時間”だよね」

 夜菜「黒板に最初の一行を欠く。『命令文、禁止。条件文で伝える』」


 私は火帳に小さく記す——『返シタ:浴場の温度段差/処理:熔環綴・風・短文推奨掲示』。壁の濡字が薄く灯り、——返シタ。

 夜風が入口で鉄の匂いを運ぶ。祝灯は白く小さい。平穏は、やることが多いからこそ平穏だ。合図は三回。床を小さく蹴る音が揃い、湯の表面に句点が一つ、静かに落ちた。明日は孤児宿で手紙稽古。命令形を捨てた使い方を、街の子どもたちと共有する。

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