第50話 市場の修繕、笑いは税じゃない貼り紙
導体街の角は銅の粉の香りがする。踵で砂を一度擦ると、細かい金属が光の粉を跳ね返した。梟雪が指差した壁には、古い札——『笑うと罰火』。制度改定の通達から日が浅く、周知の届かない場所がまだ残っている。
夜菜「『笑い=祝灯。課税対象に非ず』」
私は旧札の上から短く書き足し、右下に『改定通達 第25号——周知徹底』の印字を重ねる。これは改革の再演ではなく、旧仕様の残置物撤去だ。
カイト・ウルフスパークが工具袋を抱えたまま照れる。
カイト「貼り直す用の絶縁紙、持ってきたぞ」
ハヤブサ・アステリオンは路面に式を引く。
ハヤブサ「徴収回路から祝灯回路へ既出の置換。渦制御は破綻だ」
アジサシ・グラスフェザーは路地上に索を張り、札が剥がれる瞬間に逃がし路を確保する。ゲンボウ・デーメルが埃の風向きを変えると、札は自然に角から浮いた。零雅が鞘口で助熔のような接着膜だけを剥ぎ取り、紙は音もなく外へ落ちる。
露店の主が眉をしかめた。
主「じゃあ、怒って笑ったらどうなる?」
夜菜「怒りは燃料じゃないわ。橋脚。笑いも税じゃない。祝火。両方、暮らしの側に置くの」
私は雷帳の『返シタ』欄に朱を引く——『返シタ:旧札一枚(市場東角)/処理:周知・置換・逃がし路設置』。壁の濡字が薄く灯り、——返シタ。
梟雪が肩を伸ばし、札の跡に新しい紙を静かに重ねる。
雪「暗い角、嫌いだった」
夜菜「暗くないように設計したから」
通りの先で祝灯がいくつか豆粒のように瞬き、笑いの電位は安全に地絡へ落ちる。私は水帳にも小さく横連記を入れる——『周知=水路の再配分/滞留なし』。同じ事をもう一度“改革”としてやらないこと。それが日常の矜持だ。
背後でエイリクが少し遅れて息をつく。
エイリク「君の仕事、最近は告示板が似合うな」
夜菜「戦場の書式は、掲示物にすれば長持ちするから」
ハヤブサが式を払う。
ハヤブサ「周辺に旧札の残置が二つある。帰りに回収しよう」
私は頷き、索の張力を目で確認する。角を丸める作業は続く。角が立つ場所は、感情も熱も電気も集まりやすいから。




