第47話 返火祭、未払いの熱を地へ
炉心の間は|石榴の実の内側の色をして、壁の血管がゆっくり光っていた。床には古い円環。灰を練り込んだ黒い線がいくつも重ね書きされ、街ごとの“返火”の記録が地層になっている。
カラドリス=バーンゲイルが翼を半分だけ開き、低く告げる。
カラドリス「返火セヨ。未払いノ熱、地ニ戻セ。命令ニ非ズ。条件文ノ試験」
夜菜「『私たちが“返す規範”を破らない限り、未払いの熱は地へ還元される』。命令はない」
私は火帳を開き、仲間ごとに“未払い”の行を集合記帳する。
——エイリク:後悔の余熱、少量。
——零雅:切らなかった刃の温度、微量。
——ハヤブサ:式に残した余白の熱、計測不能分。
——アジサシ:張力の残滓。
——ゲンボウ:持ち越した風の摩擦熱。
——カケス:的を外したときだけ生まれる熱、名残。
——私:非常口の記憶から立つ温度の霧、一筋。
ハヤブサ「ΔTの収支を輪で閉じる。過制御なし。余白を残せ」
私は【熔環綴】で円環の継ぎ目へ丸い橋脚を打ち、過去の“返火”と今を噛み合わせる。輪はほどけず、硬直もせず。逃がし路はアジサシが上段に三つ、地絡は床下に一本、ゲンボウの風は“静か”の側へ寄る。
エイリク「君の橋、いつも帰り道がある」
夜菜「帰るために架ける」
踵で三度。地面が低くうなり、円環の黒が呼吸する。━━"ぱち"。
礼儀の火花が輪に沿って走り、未払いの温度は地へ降りる。街の灯がわずかに白くなるのが見えた。
零雅「良い。刃はいらない」
カケス「僕の外した熱、消えました」
ゲンボウ「風、静か」
アジサシ「張力、均等」
濡字が噴煙に浮かぶ。——返シタ。私は胸の空洞に“薄い熱の記憶”だけを残し、ミズガルズの罅を撫でる。一本のまま、乾いた線。そこに湿りはない。
カラドリス「約ハ果タサレタ。未払いハ無イ。次へ——名ヲ与エル準備」




