第43話 灰誓書、燃やさない誓いを燃やす
祭壇前の広間は炉の息で脈を打ち、床の赤い文様は、私たちの靴音に半拍早く同意してから静まる。壁に薄く浮いた指示は——灰誓書の提出。燃やしたくないものを、灰にして持参せよ。
喉の奥で焦げ砂糖が広がり、胸の空洞は冷蔵庫めいた冷たさを保つ。私は火帳の余白へ短く線を引いた。『既出ルール適用:燃やすのは“記録の湿り”。原本は渡さない』。
夜菜「書く。『半拍』『未使用の涙』『非常口の記録』」
エイリク・モルグストランドが眉を動かす。
エイリク「本当に? 非常口の記録まで」
夜菜「“一度きり”は美しく脆い。既に使った。記録が湿って腐る前に燃やす。規範そのものは残す」
トキ・ノクトウィンが私の手首で脈を取り、呼吸四拍を目で示した。
トキ「良好。吐く長め。迷いは湿気になる」
私は【霙綴】で文を短く刻み、句点に温度を落とす。記録は紙片に、紙片は灰に。切り口が刺さらないよう、【熔環綴】で縁を丸めた。灰は壺に移し、床の小さな地絡へ返す。━━"ぱち"。
灰が沈む音を皮膚が先に聞いた。
零雅「半拍は燃えない。燃えるのは“記録の湿り”だけ」
梟雪が壺の縁を覗く。
雪「灰って、軽いのに、温かい」
夜菜「温度は言語。意味が残っていれば十分」
壁に濡字が灯り、——返シタ。胸の空洞から余計な甘さが抜け、ミズガルズ・リングの罅は“乾いた線”のまま澄む。
ハヤブサ・アステリオンは粉で床に式を引いた。
ハヤブサ「媒体置換の系、整った。氷→時間、雷→電位、炎→温度差。命令形は使用禁止。次は“条件文の署名”」
私は頷く。非常口の記録が灰になった分、足取りが軽い。合図は三回。踵で地を軽く叩くと、広間の息が一拍だけ静止して、すぐに私たちを通した。




