第40話 炭秤、怨熱は仕事に回す
広場の中央で|炭秤が口を開け、二枚の皿が呼吸していた。煤の目は生き物の瞳孔に似て、ときどき細くなり、また開く。鼻の奥で|鉄と|石松香が擦れ、舌には灰の粉。私の胸の空洞は冷たく、しかし“測る”ための温度だけを残す。
エイリク・モルグストランドが半歩出て、金輪を点けずに言う。
エイリク「僕の分、少量。嫉妬は昨日返した。でも、こっちは炭化してた」
夜菜「怨は悪じゃない。未払いで燻ると悪になる。計るだけじゃなく、働かせて返す」
ハヤブサ・アステリオンが粉で式を引く。
ハヤブサ「ΔT=温度差、媒体は熱。既出ルール適用:縁を丸め、橋を掛ける。過制御は破綻」
私は掌を皿の縁へ置き、【雷環綴】の思想を熱へ移す。円が一つ、煤目の周りに柔らかく繋がり、試作ではなくもう“手癖”になりつつある【熔環綴】で怨熱の周縁に橋を架ける。怒りは燃料じゃない。橋脚だ。
カケス・フェローが矢を伏せたまま角度を測り、短く頷いた。
カケス「“炭目”だけ留めます。跳ねは抑えます」
【電鏡跳矢】が走り、鏡でも金属でもない“熱の路”をピンで留める。放熱路が一筋、静かに開いて、怨の熱は仕事の側へ流れた。
━━"ことり"。
皿が沈み、すぐ水平に戻る。濡字が浮く。——返シタ。胸の空洞に“煤の香り”が領収書として残る。私は火帳の『返シタ』欄に朱を引いた。
ゲンボウ・デーメルは風の筋を変え、周囲の息を静かに均す。
ゲンボウ「火は落ち着いた。酸素の偏り、解消」
アジサシ・グラスフェザーは上段の索を緩め、逃がし路の張力を再配分した。
アジサシ「余った熱、街路へ返流」
零雅は鞘口で空気を撫でる。
零雅「刃は出さない。濡れた罪悪だけ剥がす。それで足りる」
秤の影は短くなり、広場の灯は少し青い。私はミズガルズ・リングに触れる。罅は一本、乾いた線のまま。増えていない。未払いが減るほど、割れ目は語らなくなる。
夜菜「次は“丸める”ほうから来る」
ハヤブサ「溶着的接近、予想。甘い助言には課金」
私は胸の空洞へ句点を一つ置き、踵で三度、地を軽く叩いた。合図は合図として、十分。




