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水鏡は半拍遅れて笑う-異世界最強の環の守護者、涙鍵の恋と逆ハーレム-  作者: NOVENG MUSiQ
第3章 雷脈は借りて返す ― 電流の神殿へ

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35/72

第35話 非常口は一度きり、凍った時へ投函する

 分体が消えた直後、通路の奥から本体が顔を出した。銅線の束がゆっくりと撚られ、光は優しく、要求は致命。

 断線皇「返セ。返セバ、救ウ。返シタなら——食べさセロ」

 返済の履歴を餌にする。私は雷帳を閉じ、ミズガルズの罅を撫でる。一本のまま、しかし疲れている。皆の視線が私に集まる。非常口は、ある。けれど——。


 夜菜(ここで使う。ここだけで使う)

 私は掌を上げ、白の影へ視線を投げた。

 夜菜「スワン、従属条——一度だけ。氷で“時”を固定」

 スワンは翼を打つ。白呼気が広間の呼吸を一拍だけ凍結させ、音も影も薄氷の下に眠らせた。

 夜菜「——これが“一度きり”の非常口。以後は条件文だけで縫う」

 その旨を、私は床の氷へ脚注として刻む。自分に向けた禁止の文。


 止まった一拍の中で、ハヤブサが式を畳み、ゲンボウは風を止めず、アジサシは索を緊張一歩手前に保つ。

 ハヤブサ「過去に傾いた放電だけ切れ」

 零雅「【乾刃】」

 見えない刃が、過去へ流れた分だけを薄く断つ。未来へ向かう電位は残し、断線皇の“食欲回路”の根を乾かす。

 カケスは矢を一射、鏡面で二度折り、皇の口だけを“開けたまま”固定する。喰らい付けず、閉じられもせず。

 エイリクは金輪を灯し、すぐ消す。合図は三回、地面を蹴る音。

 トキ「心拍、良。呼吸維持」


 凍った一拍が解ける。断線皇のやさしい声が、今度は黙る。沈黙は撤退の印。私は壁に短く書く。——返シタ(非常口行使)。

 スワンは翼をたたみ、視線だけで告げる。

 スワン「約した通り。一度。美しい緊急」

 夜菜(ありがとう。次はもう使わない)

 胸の空洞に冷たい句点が一つ増え、私はそれを封緘する。非常口を使った事実こそ、次の章で腐らせないよう最初に返すべき未払いだ。私はミズガルズに触れ、罅が一本のまま増えていないことを確かめ、踵で三度。退く。本体はやさしさの仮面を畳み、暗がりへ沈んだ。

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