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水鏡は半拍遅れて笑う-異世界最強の環の守護者、涙鍵の恋と逆ハーレム-  作者: NOVENG MUSiQ
第3章 雷脈は借りて返す ― 電流の神殿へ

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第31話 雷鏡跳矢、迷路に道を刺す

 回廊は、天井の見えない四分休符だった。音は鳴らず、代わりに靴底の静電が紙の上を擦る。壁は鏡氷で覆われ、ところどころに銅板の小片が挟み込まれている。視界の端で弧を描く青白い線が走り、━━"ぱち"、礼儀正しく肩口に近づいては逸れる。匂いは樟脳と焦げ砂糖。舌の根に薄い硬貨の味。私は胸の空洞にそれらを棚の順にしまい、句点を一つ増やした。泣けない空洞は、観測と編集のための保冷庫。


 ハヤブサ・アステリオンは床へ粉で式を書く。

 ハヤブサ「回廊の放電は、鏡氷と銅片の並列共振。速度ではなく電位差で迷路を組んでいる。氷は時間を遅らせたが、雷は電位を遅らせる。似ても、噛み合う歯車が違う」

 夜菜「短い文で渡る。課税は長文に来るから」


 ゲンボウ・デーメルが前へ出て、掌を扇のようにひらき空気の筋を撫でる。

 ゲンボウ「風、右から二。上段は逆圧。軽い息で押せる」

 アジサシ・グラスフェザーは素早く索を肩から下ろし、梁に引っかけて仮の避雷路を三本通す。

 アジサシ「逃がし路、先に」


 銅片が映す私たちは、半拍だけ先に笑い、遅れて悲しむ。罠は親切の形で来る。私は【霙綴】を喉内面へ一刷毛、息の句点を増やした。

 カケス・フェローが矢を取りつつ、矢羽根で自分の前髪を撫で付ける。

 カケス「角度、三段。【電鏡跳矢(でんきょうちょうし)】で“根だけ”縫います」

 トキ・ノクトウィンは私の手首で脈を数え、四拍の呼吸にうなずく。

 トキ「吐く長め。胸の圧は句読点で逃がせている」


 私はミズガルズを撫で、封印は閉じたまま【氷継の環】を薄く展開。割れ目を塞ぐのでなく、渡す足場に職替えさせる一筆だ。

 零雅「湿り核、剥ぐ。刃は出さない」

 零雅の【乾刃】は鞘ごと空気を撫で、銅片と鏡氷の境目だけを乾かす。そこにカケスの一射。矢は鏡面で二度折れ、**放電路(ほうでんみち)**の根だけにピンで留まった。

 ━━"こと"。金属の小さな承認。


 エイリク・モルグストランドは半歩、私の死角へ。金輪は灯さず、声は短く。

 エイリク「君の前を、道にする」

 夜菜「予約制の冗談は、あとで」


 放電は怒らず“拗ねる”。青白の弧は次の枝へ移り、迷路はゆっくり織り直される。私は胸の空洞にもうひとつ句点を置き、面ではなく節を見るように視線を変える。

 ハヤブサ「RC定数、良。過制御は禁物だ」

 ゲンボウ「右から三、今」

 カケス「二射目——いきます」

 矢は三度折れ、今度は鏡氷の胞を穴でなく“目印”にして通過。放電の性質を利用して迷路に踏み段を刻む。アジサシの索が踏み段と噛み合い、足場が連続体になる。


 私は【霙綴】で文を短く区切りつつ、壁の曇りへ指で一語。——返シタ。徴収されかけた“笑い前払い”を、仕様変更で払い戻す印だ。

 トキ「心拍、良好。涙腺抑制も維持」

 零雅「刃を出さずに勝つ、良い日だ」


 回廊の末端で、空気の匂いがわずかに変わった。柑橘の白皮が薄れ、代わりに雨前線の鉄。私は瞬きを一度増やす。合図は三回、地面を蹴る音。踵が短く揃い、扉の縁に沿って静かな電の波が引いていく。迷路は後方でゆっくり閉じ、前方では道だけが残る。

 エイリク「半拍、揃ったね」

 夜菜「揃えるのは私たち。鏡は採点だけしていればいい」


 扉は胃袋の息をひとつ吐き、曇りながら開いた。私は匂いの“領収書”を胸の空洞へしまい、次の間へ進む。そこは祭壇——雷の主が、条件文でしか話さない場だ。命令が嫌いなものには、命令を渡さない。約束の方程式で、会いに行く。

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