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水鏡は半拍遅れて笑う-異世界最強の環の守護者、涙鍵の恋と逆ハーレム-  作者: NOVENG MUSiQ
第3章 雷脈は借りて返す ― 電流の神殿へ

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第28話 閃秤、嫉妬の比重は漏電で量る

 導体街の中央広間は、銅の匂いに乾いた柑橘の白皮が混じる空気で満たされ、床は極薄の導電膜で磨かれていた。そこに据えられた閃秤(せんひょう)は、氷の神殿で見た天秤の親戚だが、皿の底に刻まれた環は銅線の意匠で、機構は熱ではなく電位差で動く。壁の薄刻みには『虚電荷を量れ』とある。嘘の重さは、放っておくと必ず漏電する。私は胸の空洞で、その当たり前の理屈をもう一度、句読点に落として並べ替える。


 ハヤブサ・アステリオンが秤の軸受を覗き込み、粉で床に式を書く。

 ハヤブサ「この秤の“重量”は“電位差と記憶導電率”。氷のときは温度差だった。媒体が変わって、定義が変わっただけだ」

 夜菜「水帳で覚えた“借りて返す”を、雷帳の作法へ移す。単位だけ“水量”から“電位”へ」


 私は雷帳(らいちょう)を開き、欄外に『被測定:嫉妬/軽率の残滓』と記す。嫉妬は悪ではない。漏れて人を焦がすときだけ、悪の顔になる。

 エイリク・モルグストランドは半拍遅れて笑い、虹彩の金輪を沈ませたまま、胸に手を当てた。

 エイリク「僕の番。嫉妬、少量。未払いで腐らせるのは、やめる」

 零雅「受け取るだけなら簡単だ。返す手順を先に決めろ」


 私は【霙綴(みぞれとじ)】で自分の呼吸に句点を増やし、余計な言葉が漏電しないよう“短文モード”に切り替える。カケス・フェローは矢を伏せ、掌を上に向けた。

 カケス「僕は“軽率の残滓”。秤に乗せる前に、角を丸めます」

 彼は矢尻で自分の指の節を一度だけ撫で、深呼吸を四拍で整える。トキ・ノクトウィンが頷き、脈を軽く取る。

 トキ「吐くほう長く。恐怖は可逆だから」


 エイリクの“嫉妬”を、私は指先に受け取る。熱くない。ただ、湿っている。雷域では感情は水ではなく電位で来る——そう身体が理解している。私は微電の単位だけ抽出し、秤の左皿へ落とした。右皿には“置いていく湿度=未練”の刻印だけ。

 ━━"ことり"。皿がわずかに沈み、それから水平に戻る。壁に濡字が浮き、——返シタ、と滲んだ。私は雷帳に朱を引く。


 ハヤブサ「誤差、観測者の範囲内」

 アジサシ・グラスフェザーは上の廊を見上げ、索の束を肩に担ぐ。

 アジサシ「広間の周縁に逃がし路を張る。もし誰かの嘘電荷が暴れたら、即時に地絡」

 ゲンボウ・デーメルは風の筋を入れ替え、秤の周りだけ風下を変形させた。

 ゲンボウ「静かな流れ。秤は風で嘘を読むから」


 カケスの“軽率の残滓”は、砂糖の欠片みたいに軽かった。だが軽いからこそ、舌に残ると後味が長い。私はそれをひとかけ拾い、左皿へ。

 夜菜「軽率は悪ではない。未払いで長居させたときだけ、悪になる」

 カケス「……返す。うん、返せる」


 零雅は私の横で、鞘口で空気を軽く撫でる。

 零雅「【乾刃】。湿り核だけを断って、嘘の表面だけを残す。表面は剥がれる」

 秤の皿が微かに鳴き、銅の匂いに柑橘の白皮がひと匙足された。私は胸の空洞に、その香りを“今夜の証拠”として保存する。泣けない代わりに、匂いで領収書を取るのは、もう癖になりつつある。


 エイリク「僕の“少量”は、君の“句読点”で安全化される。ありがたいけど、僕にも“預かる”をさせて」

 夜菜「嫉妬は預かるより、分割送電で。君が持ち切れないときだけ、私の雷帳へ」

 エイリクは笑い、金輪を一度だけ明滅させた。半拍遅れの光は今では赦しのサインだ。


 最後に、私自身の“虚電荷”を秤へ。怒りの枠外が少し焦げていたので、【霙綴】で句点を増やして冷やす。

 夜菜「怒りは悪ではない。温度差と同じく、電位差も仕事をする。未払いにしないだけ」

 秤は黙って水平に戻った。壁の濡字は——返シタ。私は雷帳の余白を閉じる。

 ハヤブサ「良い。次は接続の試験だ。輪を壊す者の次は、線を切る者が出る」

 零雅「断輪が“振幅”を壊す王なら、断線は“接続”を切る皇帝。継ぎ目を外からではなく、内側で孤立させる」

 私はうなずき、胸の空洞に一つだけ句点を置いた。ここまでの返済記録が、次の危険の電源になる。未払いがないほど、私は強い。

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