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水鏡は半拍遅れて笑う-異世界最強の環の守護者、涙鍵の恋と逆ハーレム-  作者: NOVENG MUSiQ
第2章 泣かぬ鍵で氷を開け ― 流氷の神殿へ

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第24話 従えず、従わせず、連れて行く

 氷の神殿の天蓋へ戻ると、天井の霜が星座を模していた。スワンが翼で東を指し示す。そこは雷脈、電位差の図書館。

 スワン「わたしは命令で動かない。けれど、あなたの“未完”には同行する」

 夜菜「未完は、物語の防腐剤。腐らせないために、つづきを書く」

 私はミズガルズ・リングに触れる。罅はまだ一本、増えていない。胸の空洞は静かで、保存容器の蓋はきちんと閉まっている。


 エイリク「合図は三回、地面を蹴る音」

 夜菜「了解。息は大事に」

 零雅「護る。氷上でも、砂上でも」

 カケス「返し切るまで、転ばない。……予約制の冗談、あとで一つお願いしても?」

 夜菜「番号札、二番」

 ハヤブサ「雷の神殿は記録媒体が異なる。“電荷”で書かれた書庫だ。式を組み替える」

 ゲンボウ「雲の厚みを見る。風下は岩稜、避難線は三本」

 アジサシ「補給を再設計。橇を捨て、架索を増やす」

 トキ「誰かが泣けないなら、他の誰かが湿度を持つだけ。水帳の“預り”欄、継続」


 私は皆の顔を順に見て、胸の空洞に小さな句点を置く。ここまでの“返シタ”の総計が、私たちの体温だ。

 ——返シテ。

 遠い氷の奥から、濡字のささやき。私は指で空に返シタを書き、同時に新しい欄を開く。《雷帳》。借りる電位、返す放電、危険の閾値。氷の章の簿記はここでひと区切り、つぎは雷の文法で続ける。

 スワンは翼を一度だけ大きく振り、白呼気の匂いを薄く残す。私は鍵氷の気配を喉に確かめ、【霙綴】の筆先を軽く振ってみせる。


 夜菜「従えず、従わせず——連れて行く」

 私の声は命令形ではない。けれど、同行の強度は命令より強い。足並みの音が三回、氷の上で短く鳴った。合図は合図として十分。私たちは東へ。感電の文法で、世界の継ぎ目をもう一度縫うために。

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