第23話 断輪潮、再演
帰路の氷原。水平線の向こうで、乾きと氾濫が交互に打ち寄せる断輪潮が立ち上がった。足元の氷は紙のように薄く厚く、音は出ないのに音の“影”が走る。
断輪王「最後の縫い目は——」
夜菜「未読スルーで」
私は【霙綴】を開き、波頭の文を句点に落とす。句点は、暴れる文脈に睡眠を与える薬だ。並行して【氷継の環】で氷板の合目を束ね、逃がし路を先に作る。
ゲンボウ「風、順。右斜め上から押せる」
アジサシ「潮路、逃がした。過負荷は運河に分散」
カケス「跳矢、六本。核だけ抜く」
彼の矢は水鏡の反射角を三段で曲げ、渦の中心“文中の主語”だけをピンで留める。
ハヤブサ「回路の余白、確保。過制御は破綻を呼ぶ」
零雅「締め括る」
【乾刃】が霧の湿り核を断ち、断輪潮の文が自分の末尾を読んで眠る。
トキ「心拍正常、恐怖は正常範囲。誰も“過呼吸”に入ってない」
エイリクは金輪の明滅を止め、ただ笑う。半拍遅れの笑いは、今では“揃わぬ和音”の心地よさだ。
スワンの翼が低く鳴り、氷原の微振動を均していく。if契約の協調は自然で、従属条を使う必要はない。緊急の一度は温存され、胸の空洞は安堵という薄い霜で被覆される。
海原は静かに伏し、風は食後の白湯みたいな温度に戻った。私は空に短く『返シタ』と書く。濡字は音もなく星に吸われ、指先に残った冷たさだけが領収書だ。
ミズガルズ・リングの罅は一本のまま、浅く息をする。増えていない。私はわざと瞬きを一度余計にする。半拍の余白は、次に迷うための準備時間だ。




