第4話 波乱の兆し
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───────2か月後
オレはなんとか遅刻せずに入学式に行けた。大分ギリギリでの到着だったため、先生から注意を受けたけど。
今は学生寮で、同学年の人と2人部屋で暮らしている。
前世でオレが通っていた学校は学生寮なんてものはもちろんなく、家から電車で通学していた。
当然、同年代の人と同じ部屋で毎日過ごすなんてこと、あるわけがなかった。だから、こういう暮らしはとても新鮮で面白い。
二人で色々ルールを決めて生活していくさまはまるで───────。
いや、そんなことを想像して何になる?アレは叶わなかった未来だ。叶うはずもなかった。
『藤上 陽輝』は愚かだったんだ。だから───────捨てられた。
仕方がないことなんだ、きっと。
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──────7月某日
今日は、国立学院の生徒との交流会だ。
オレが通っているのは王立学院で、現代では私立の学校にあたる。前世でも私立の中高一貫校に通っていたが、入学時からもう進路を決めたりはしないし、学校と行っても生活知識や領地経営を学ぶという点で、明らかに違う。
ちなみに、オレは貴族上位のクラスにあたるエンペアロウ・エチュージョンに在籍している。
こう見えて前世でも頭は良かった方なのだ。
一方、国立学院は、現代では公立の学校にあたる。こちらは、シュベリオヴ(騎士)、ドメスティア(侍女)、バトルェフ(執事)の3科が、上位のイナーと下位のルーザーに分かれている。
オレとしては騎士科、つまりはシュベリオヴに興味がある。前世でも応援団のようなものをやっていたし、どうやって鍛えているのか知りたい。
ちなみに、オレのクラスはシュベリオヴ・イナーと交流することになっている。
ああ、どんな人たちが来るのだろう。楽しみだな。
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「いいですか、貴方がたは王立学院の一員、しかも貴族クラスの上位であるエンペアロウ・エチュージョンの生徒なのですよ。くれぐれも、くれぐれも、王立学院の方々に失礼のないようにするのです。分かりましたね?」
───────いや、何回目、これ?
かれこれ20分ほど同じ話を延々と聞かされている。最初の方は真面目に聞いていた人たちも、表には出さないがどこかうんざりした様子だ。
まあとにかく話が長い。長すぎる。
なぜ同じことを何回も何回も言うんだ?別に「Repeat after me.」って指示されてるわけでもないのに。
しかも、自分で言うのもなんだが、僕たちは貴族上位クラスのエンペアロウ・エチュージョンなのにそんなに信頼されてないのだろうか?それはそれで悲しいが。
大きい欠伸が出そうなのをさっきから頑張ってこらえているオレ、偉い、偉いよ本当に。
「ベスティーレ先生、そちらの準備は整いましたでしょうか?我々はもう大丈夫です!」
「あら、もうそんな時間なのですか。分かりました、ご報告感謝いたしますわ、アズノーバフ先生。さて皆さん、行きますわよ」
───────やっと解放された!!!!ありがとうございます、アズノーバフ先生!!!国立学院の先生とは関わりがないからあまり知らない人だけど!!
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■■■side.
今日は王立学院の生徒との交流の日だ。王立学院には、俺の愛する藤上がいるはずだ。
やっと、やっとだ。
藤上が生を諦めたあの日から、世界の全てが灰色に見えた。生きる意味を失ったと思った。
食事はのどを通らず、何をするにも無気力で、動くのさえも億劫だった。
ある日、双子の妹から知らされた。藤上の魂は別のセカイで生きているのだと。
これ以上ないほどに歓喜した。信じてもいない神にも感謝した。
会いに行くから、待っていろよ、藤上 陽輝。俺が絶対にお前を助けてやる。
読了ありがとうございました。