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第3話 新たなる門出

テスト明け一発目の投稿です。遅くなって申し訳ありません。

 ***


「奥様、お生まれになられましたよ!!元気な男児でございます!」


「ああ、よかった‥‥‥‥」


「ソフィ!大丈夫か、何処か苦しいところはないか?」


「おかあしゃま、だいじょーぶ?」


「ええ、大丈夫ですわ、ハリー、リリィ。それよりも見てください。ハリーによく似た男の子ですよ」


「確かに私に似ているが、目元はソフィとリリィに似て柔らかいな。きっと可愛くなる」


「まあ、男の子に可愛いだなんて、この子が可哀そうですわ」


「そんなことはないだろう。それより、名前を決めないとな。どうしようか‥‥‥‥」


「ハデルキア、おかあしゃま、このこはハデルキアっていうんだよ」


「リリィ、急にどうしたの?貴方らしくないわね」


「まだ2歳なのに、弟の名前を決めようとしてくれているのか!流石は私とソフィの娘だな!」


「えへへー。どう、おかあしゃま?」


「ハデルキア‥‥‥‥いいわね、その名前。‥‥‥よし!この子の名前はハデルキア・グリージソプラよ!」


「いい名前だな。元気に育つといいな」


「そうね」


 **



 _____14年後




「ハデル!貴方もう荷物はまとめたの?忘れ物はないの?」


 いつもの2割増しで過保護な母親が、後ろであれこれと言っている。2歳の時に高熱を出して生死をさまよったころから、元々甘かった両親は、オレに特に甘くなった。



 ───────まあ、その高熱の原因は前世のことを思い出したからなのだが。


 オレ、ハデルキア・グリージソプラは、前世にある、「和」を尊び独自の文化を築いてきた国、日本で、藤上 陽輝という名で暮らしていた。

 どういう経緯で死んだのかは分からないが、生まれてから死ぬまでの十数年ほどの人生のことを殆ど覚えている。


 ただ記録としてあるだけでなく、この時はどういう気持ちだったかとか、この時のみんなの反応や表情はこうだったとか、感情を含めた結構詳しいところまで覚えている。


 前世でも死ぬまではそれなりに楽しく暮らしていたのだろう、きっと。



 そんなことを考えていると、母は「ちょっと、聞いているの、ハデル!本当に忘れ物はないのね?ちゃんと確認しなさいよ、薬は持った?文通用のレターセットは?それから‥‥‥‥」とまだ言っていた。


「大丈夫だよ母様。もう5回以上は確認しているじゃないか。それに、これで時間が無くなって初日に遅刻とかオレは嫌だよ」


「ああハデル、そんなこと言わないで頂戴。私は貴方が心配なのよ。もし高熱を出して倒れたりしたらと思うと‥‥‥。あと、外では『僕』っていうのよ、分かった?」


「はいはい」


 相も変わらず過保護な母は、少し感情の高ぶった声色でそう告げる。

 だいたい、オレは前世を含めてもう30年以上生きているのだから、それなりに人生経験は豊富だ。今更体調を崩したり、人の前で素が出たりすることは恐らくない。


 ため息をついて門に向かおうとすると、後ろから声が聞こえた。



「ハデル、もう行くのか!まだもう少しゆっくりしていったらどうだ?あんまり早く出ていったら寂しくなるじゃないか」


「あら、ハデルじゃない。まだ出発するには早いんじゃないかしら?もう少しゆっくりしていきなさい」


「父様、リリィ姉様‥‥‥‥。まだそんなことを言っているのですか」



 父のハリーデル・グリージソプラ公爵と、姉のリリアーナ・グリージソプラ。

 父は財務大臣で、ビューラルヘン公爵家の当主、ステルノ・ビューラルヘン外交大臣と仲が良く、たまにお茶会をしている。

 2歳年上の姉は隣国カルデリア帝国の筆頭公爵家、パーデランド家の嫡男、ゼルガード・パーデランドの婚約者で、政略で婚約したとは思えないほど仲睦まじく過ごしている。



 なお、父も姉も母と同様に確からしくオレに対して過保護である。


 ここ数年の頭痛の種と言えば、家族が何故かオレに対して過保護なところだろうか。

 まあ理由は分かり切っている。



 代々生まれてくる子供が全員風邪にもならないくらい無駄に頑強な体で生まれてくると有名なグリージソプラ公爵家の子供が、しかも嫡子が高熱で生死をさまようという事例は、建国当時から続くグリージソプラ家の史書にも載っていなかった。


 恐らくオレが最初の事例だ。嬉しくはない。



 そんなわけで、父も母も当時まだ4歳だった姉も、みんな取り乱した。冷静でいられた人は誰一人としていなかったが、執事長のセルードが取り乱した割には冷静な判断を下して結果的に一命をとりとめた。



 それからは風邪もひかないような頑強な体になったというのに、家族はそうは思わないのか、その出来事があって以来オレに過保護になった。

 躓きかけただけで異様に心配する、咽て咳をしただけで医者を呼ばれかける、外で遊ぼうとしたら止められる‥‥‥‥などなど。


 心配するのは分かるが、ここまでされると行動も全て制限されているようで窮屈だし、体は動かさなかったら鈍ってしまう。




 何より、その親の姿を真似してまだ幼い妹と弟がオレに対して過保護のような感じになるのはどうなのかと思う。


 そう考えていたら、バタバタと慌ただしく廊下を走る音が聞こえた。振り向くと、そこには妹と弟がいた。


「兄様!もう行くのですか?」「まだ早いのではないですか?」


「ロイル、ミリー‥‥‥‥。オレは結構急いでいるんだぞ?可愛いお前たちに引き留められたら行きたくなくなるじゃないか。あまり兄様を困らせないでくれよ」


「ではいかなくてもいいのでは?」「そうですわ、ずっとこの家にいてください、兄様」


「まったく‥‥‥‥。困ったな」



 3歳年下の双子、ロイドラルとミリアンナはどちらも優秀で、ロイルは騎士としての才能が、ミリーは芸術の才能がある。どちらも可愛い弟と妹だ。

 尚、何故か二人もオレにべったりである。



「ていうか、父様、母様、姉様、ロイルにミリー!いつまでこんなことをしているのですか!本当に初日に遅刻だけは勘弁してください!!オレはそろそろ行きますよ!」


「「「「「えー‥‥‥‥」」」」」



 全く持って反省していない。


 このやり取りのおかげで、遅刻の二文字が眼前に迫っている。そろそろ本当にマズイ。登校初日に遅刻なんて笑えない。



 でも、次に家族とちゃんと会えるのはいつになるかわからないのだ。もう少し話しておきたい気持ちもあった。





 ───────人はいつ死ぬのか分からないから。




 感慨にふけりながらも門前まで歩を進める。

 後ろから聞こえる家族の声を愛おしく思いながら、振り返る。



 一時の別れを告げるために。



「父様、母様、リリィ姉様、ミリー、ロイル。─────行ってきます」


「「「「「いってらっしゃい!」」」」」



読了ありがとうございました。

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