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第五話

地理学、考古学、歴史……様々な本が幾重にも重ねられているテーブルで、私は黙々と勉強に励んでいた。

「最近、どうしたの?前にも増して勉強を頑張っているじゃない?」とお母様が褒め、滅多に家族に声をかけない父ですら「引き続き頑張れよ」と肩を叩く程、私は真面目に知識を蓄えていた。

勿論、その分リビーと過ごす時間は減ったし、大好きなお出かけの頻度も減った。けれど、今のうちから勉強をしないと間に合わない。

そもそも、私は勉強自体は嫌いじゃない。セレンは「嫌いだから勉強なんてしない」などと言って家庭教師に勉強を薦められても怒るし、ケビンも「まあ、仕方ないからしているけど、好きではないかな」と話している。現にケビンは、誰かが見ている時でないと勉強をしない。

私はこの兄妹の中で、最も勉強に前向きだとおもう。

この国では、家を継ぐ存在において、男女の差や年齢の差はそこまで考慮されていない。例えば、頭があまり良くない長男と、賢い末の妹では、妹の方が選ばれる。同じくらいの能力なら、長男が選ばれる。愚かな人間は上に立たせるべきではないというのが共通認識なのだ。多分それは、愚かな人間を王にしたことでクーデターが起き、滅びた元隣国のことがあったからだと思う。

つまり、末の妹である私にも、侯爵になれる可能性があるということだ。

……と、今まで散々説明したけれど、別にこの国は実力主義という訳では無い。私が兄よりちょっぴり頭がいいくらいでは、侯爵にはなれない。学者と賢者くらいの差が無ければ、末の娘が侯爵になることは認められないだろう。実際、末の娘が名を継いだのは、今までで1回しかない。

「セレンとケビンを、どうにかして勉強させないようにしないと」

本人達がする気がなくても、両親や家庭教師がやらせる。特にケビンは外面を気にするので、両親や家庭教師の前ではいい子ぶって大人しく勉強しているし。

うーん、何から始めるべきだろうか……

「お姉様!」

「うん?リビー、どうしたの?」

……ん?リビー?

反射的に答えてしまったけど、ここは私の部屋だ。一体どういうこと?

声のした方へ慌てて視線を向けると、ベランダにリビーが立っていた。

「リビー!?何をしてるの?どうやってここまで……」

私が尋ねると、リビーは照れくさそうに笑う。

「最近、私に会いに来てくれないから…来ちゃダメってわかってたけど、つい来ちゃったの、二階から登ってきたんだよ」

私とリビーの部屋は、確かに階は違うけど、距離的には近い。とはいえ、あまりに危険すぎる行動だ。ちゃんと注意しないと。落っこちたら、一体どうするつもりだったの?

「リビー、危ないでしょ?それに、お父様に見つかったら、リビーはもっと制限をかけられてしまうかもしれないのに」

「……だって……」

うう、とうなだれるリビー。心なしか子犬に見える。最近全然会いに行けなかったのは事実だし、寂しかったのは私も同じ。少し考えたあと、結局私は「もう、次からは寂しかったらこっそり私に知らせるのよ、私が会いに行くから」と許してしまった。でも仕方ない、こんなに可愛い妹が落ち込んでいるのを前にして、叱ることなんてできるわけがない。もしそんなことができる人間がいるのなら、今すぐ私に突き出してきて欲しいくらいだ。

「ねえ、お姉様、もしかして勉強しているの?」

テーブルの上に無数に積み上げられた本を見て、少し引き気味な顔をしている。

「ええ、最近頑張っているの。私、侯爵になりたいと思って…」

「そんな事のために?」

想定外の問いに、息が詰まる。

「……えっ?」

「侯爵になんて、どうしてなりたいの?」

感情の読めない瞳で、淡々と私に問うリビーは、まるで私の知ってるリビーでは無いみたいだ。

「…それは…リビーのために…」

沢山勉強していたはずなのに、上手く続けることが出来なくて、言葉はそこで途切れてしまう。

「…」

「リビー?」

「ごめんね、お姉様。変な事聞いちゃった」

リビーはいつもの顔でそう微笑む。

「えっと、私ただ、寂しくて…勉強も大事だけれど、私にも会いに来て欲しいなって」

先程の無表情などなかったかのように、楽しそうに話すリビーに、認めたくないけれど、私は少しだけ怖いと思ってしまった。

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