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第三話

馬車を降り、屋敷へ走る。

リビーの部屋は、2階だ。この国では、その家の中で最も高貴な者の部屋は本館の1番上の階に構えるという、所謂暗黙のルールのようなものがある。シュッチレンジ家も例外ではなく、侯爵である父が本館の1番上の階ー要するに3階に住んでいて、お母様が父の隣の部屋、そして二人の子供である私と兄のセレンとケビンも3階に部屋がある。客人を迎えるための部屋も3階だ。

2階には使用人、侍女などが住み、1階が図書館、食堂など。要するに、父はリビーに使用人と同じ待遇をしているのだ。

もちろん、2階の部屋はとても狭い。もちろん、ベッド、テーブル、収納くらいはあるけれど、本当にそれだけ。とある夕食の席で、リビーを私と同じ部屋にしたいと言った時も、父は私を叱った。まだ私が7歳位のときだったけど、父のその過剰なほどの嫌いように、違和感を感じたのを覚えている。「あれを3階に入れるな!」と叫んだ。それから本当に、リビーは3階に行けなくなった。当然、私の部屋に招くことも出来なくなった。それで私は気づいた、力も何も無い私が何かを言っても意味が無いのだ、と。

それで、いつも私がリビーの部屋に出向いているというわけだ。


リビーの部屋のドアに手をかけ、「リビー!」と叫ぶ。ドアの先に当たり前のようにリビーはいた。カーテンが開いていたから、眩しいほどの夕陽で、リビーの表情はよく見えなかったけど。

「……お姉様、起きたんだ。ごめんなさい、置いて行ってしまって。邪魔したくないと思ったから」

「そんな、起こしてくれてよかったのに…リビー…ごめんなさい」

そんな言葉、言うつもりはなかったのに、つい口をついて飛び出した。

私の謝罪の言葉に、リビーは戸惑ったように私の瞳を覗き込む。

「どうしてお姉様が謝るの?何かあったの?」

「いや、これは…つい、口をついて出てしまっただけだから……なんでもないわ」

「なんでもないっていう時ほど、なんでもあるって、昔お姉様は教えてくれたわ」

悪戯っぽくリビーは笑う。どうやら私が思っていたよりも、私の妹は聡明だったみたい。

「……どうしてあなただけ、あんな目に遭うのかって思ったの、リビー」

「……」

こんなこと、本来言うべきじゃない。リビーをさらに悩ませるだけなのに、リビーは真剣な顔で、続きを促している。

「私はあなたの姉なのに、あなたへの仕打ちを止めることが出来ない。私はあなたのたった一人の姉なのに」

私は思っていたよりも弱虫で、幼稚だった。成人したことの無い子供の人生を、たかが2度経験しただけだから。でも、リビーはそんな経験もない、まだ小さい子供なのに……

「ごめんなさい、ごめんなさい、リビー……」

どうして、そんなに優しい顔で私の話を聞いているの?

「お姉様」

リビーは私の手を握ると、そっと私を抱きしめた。

「私は、お姉様が頑張ってくれてること、分かってる。私はあの人たちに期待なんてしてないし。確かに、私に酷いことをする人達ばかりで、はたから見たら私は不幸な人間なのかもしれない。でも、お姉様がいるから、私辛くないのよ」

それはリビーにとっては、最大級の励ましなのだろう。でも、「あの人たちに期待なんてしてない」という言葉が、まるでまだ子供の少女が家族に対して吐く言葉ではなかったから。

目の前の大好きな妹をそんなふうにしてしまった自分の家族や、それを止められなかった私への怒りで、結局私は溢れ出す涙を止めることが出来なかった。

…本当は、リビーの方が泣きたいだろうに。

リビーは泣いたりせず、静かに私が泣き止むまで待っていた。

「お姉様。夕食の時間に遅れてしまうわ」

早く行かないと、とリビーは笑う。

「今日は何が食べたい?」

「お姉様が持ってきてくれるものなら、なんでもいいわ」

優しくて聡明で、可愛い私の妹。

いつか、一緒に食堂で夕食を食べたいな。

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