プロローグ
初投稿です。拙い部分あると思います。モチベある限り話進めます、よろしくお願いします。
誰よりも冷酷に、凶悪に、狡猾に復讐を遂げる少女...
彼女は本当に、そんなことを望んでいたのか?
復讐を遂げた、その後は?
春、今日は待ちに待った約束の日。
私は妹リビーの部屋のドアを叩いた。
「リビー、起きてる?入ってもいい?」
返事はない。
「入るよ?」
もう一度確認した後、ドアを開ける。
と同時に、春のうららかな風が顔を撫でた。
リビーってば、また窓をあけっぱなしにして寝たのね。
「リビー、起きて!今日は一緒に街まで出かける約束でしょ!」
優しく体をゆすりながらそう話しかけると、リビーは眠たそうにまぶたを開く。
「お姉様...?ドアを勝手に開けないでって言ったのに...」
「何言ってるの、あなたが起きないからでしょう?」
小さく文句は言いながらも、リビーは大人しくドレッサーの前に座る。そして私は、リビーのサラサラなブロンドヘアを結うのだ。
「相変わらずリビーの髪の毛はきれいね。今日はどんな髪型がいい?せっかくのお出かけだし、とびきりおめかししましょう!」
「じゃあ、三つ編みにして!」
ここだけ聞けば、ただの平凡な庶民姉妹の会話だ。
けれどリビーも私も、由緒正しき侯爵家の娘だ。本来、貴族の娘はたくさんの侍女が時間をかけてお洒落させるもの。けれど、リビーには侍女が1人しかいない。その侍女すら、まともに仕事しない怠慢な女だ。
リビーは正当な扱いを受けていないし、ここシュッチレンジ侯爵家はそれを改善する気もない。この先そうなることもない。私はそれを知っている。
私が死んだ後、記憶を持ったまま戻ってきたのは、きっと今度こそリビーを幸せにしてあげるためなんだ。
三つ編みをしている間、リビーはうとうとしていた。どうやらまだ寝足りなかったようだ。
リビー...リヴィエル・シュッチレンジ。ブロンドヘアに長くカールした睫毛、青空のようにきれいな瞳の、私の大好きな妹。こんなにかわいくて、侯爵家の娘なのに、なぜ侍女が一人しかいないのか?答えは単純、私生児だからだ。彼らにとっては、私生児だけども、侯爵ー要するに私達の父親の子であることは間違いないから、仕方なく侯爵家にいさせてやっている、というスタンスらしい。あまりにも最低すぎる。
でも、私はまだ10歳。権力もなければ影響力もなく、やっと礼儀作法をマスターしたくらいの子どもだ。そんな子どもにできることと言ったら、ご飯のたびに周りの目を盗んでくすねてきたパンと肉をリビーに上げること、そして兄弟からの嫌がらせを止めることくらいだった。
はやく大人になりたい。そうしたらリビーをもっとちゃんと守れるのに。
リビーは将来、侯爵家を滅ぼす。それどころか、この国すら滅ぼそうと目論むのだ。
そして、実際にそれを成し遂げてしまう。
それが、「リビー」が辿った結末だ。
私は「最初の人生」では16歳で死ぬ。
最初の人生でも、私はリビーを愛していた。毎日リビーの部屋に向かい、楽しく日々を過ごしていた。
リビーが私生児なのは知っていた。だけど、なんでそれでリビーが不公平な待遇を受けなければならないのか、まるでわからなかった。どうしてお父様やお母様がリビーを視界にいれるたびに疎ましそうに目をそらすのか、侍女たちが私に「あの私生児とはあまり遊んではなりませんよ」といってくるのか。そして兄のセレンやケビンはなぜリビーをいじめるのかも。
リビーだけ仲間はずれにするこの環境が嫌だった。
あの日は、珍しく侍女がリビーの部屋に温かいスープを出そうとしていた。
いつもリビーの侍女は冷めきったスープしか出さないから、私はそれを見て、最初は「よかった」としか思っていなかった。リビーもきっとそうだったと思う。
だけど、リビーが嬉しそうにスープをもらったあと、侍女がばつの悪そうな顔をしながら出ていくのを見てしまったのだ。私は瞬時にその意味を理解した。
「リビー!待って、私にちょうだい!」
「...え?どうして...」
困惑しているリビーからスープの入った皿を奪い取って、慌てて口に運んだ。
普通に考えたら、口に運ばなくても新しいのに変えるとかあったはずなのに、気が動転していた私は、毒入りスープを毒入りとわかりながら普通に飲んでしまったのだ。
毒自体は別に死に至るようなものじゃなかったのだけど、毒が効き始めたのが、ちょうど階段を降りているときで、めまいで体勢を崩し、階段から転げ落ちてそのまま死んでしまった。
笑えるくらいあっけない最期だ。だけど、私は最期までリビーのそばにいることができなかった。
リビーを残して死んでしまった。
もっとちゃんと一緒に時間を過ごしたかったのに。
そんな一回目の人生が終わった後、私は街の少女・リゼとして転生した。
最初の人生である"ラヴィア・シュッチレンジ"としての記憶はなかったけど、確かに「私」で、愛する両親と離れ、 8歳のときから教会に住み込みで働いていた。
友達もいたし、教会の人もみんないい人で、陽が差し込む食堂で、みんなで一緒に焼き立てパンを食べる。
そして決まった時間に、神像に祈りを捧げる。そんな平和な毎日だった。
だけど、教会で働き始めたほんの2年後、ちょうど私が10歳のとき、不穏な噂が流れ始めた。
「シュッチレンジ家が滅亡した。その犯人である私生児の少女はこの国をも滅ぼそうとしている」と。
ラヴィアとしての記憶がない上、まだ幼かった私は、そんな噂を聞いても対岸の火事としか思っていなかった。
変わらない毎日、のどかな風景が、いつまでも続くと思った。
だけど、その私生児は本当にこの国を滅ぼした。それは本当に唐突で、その噂が流れて半年もたたないうちに、あっというまにこの国は崩壊した。
私リゼのいた教会も例に漏れず、リビーの圧倒的な力によってバラバラにされた。目の前で。
中にまだ、人がたくさんいたのを覚えてる。
街に住んでいた両親は生き残っていたから、私は両親とともに暮らすことになったけれど...
ほんの10歳でそんな体験をし、精神がやられて病気になった私は、その2年後、ほんの12歳で死んでしまったのだ。
二度も人生を経験しているのに、なんと合計してもたったの28年しか生きていない。早死すぎるのは天命なのかな...
「リビーの姉」としての私と、「リビーによって滅ぼされた国の少女」としての私。
この二人の人生を送った後に、もう一度リビーの姉になれたのは、きっとリビーを復讐に走らせるな、あのような悲劇は絶対に起こすなという、神様からのお告げなんだろう。
あるいは、このかわいいリビーともう一度過ごせるようにという粋なはからいかもしれない。
だから、今度こそ最期までリビーのそばにいるんだ。最初の人生の時みたいに、ひとりにしない。
「リビー、大丈夫だからね。私は死なないし、ずっとあなたが大好きだから!」
そう声を掛けると、うとうとしていたリビーはほんの少し目を開いた。
「お姉様?急にどうしたの?なんだか恥ずかしいよ...」