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頂き女子

作者: さば缶

「あ、もしもし、ユキオさん。今大丈夫ですか。」

「ミナちゃん?もちろん大丈夫だよ。どうかしたの?」

「ちょっと寂しくなっちゃって、ついユキオさんとお話したくなりました。」

「そっか。いや、俺もこうやって連絡くれるの嬉しいよ。今日は仕事だった?」

「はい。あんまりやる気も出なくて、ただ行って帰って寝るだけ…みたいな毎日です。」

「うん、わかるよ。俺もまさに同じだからさ。朝早く起きて出社して、夜帰って、寝るだけ。なんとなく生きてる感じかな。」

「でもユキオさんは優しいし、いつも私の話聞いてくれるし、仕事疲れとかないのかなって思ってました。」

「全然そんなことないよ。正直、たまに人生これでいいのかなって思う時はある。夢や希望もあんまりなくてさ。自分に使うお金もないまま貯まっていく一方で…なんか不思議だよね。」

「それ、すごいわかる。私も節約しちゃうタイプだし、ぜんぜん自分にお金かけないんです。ほら、可愛い服は欲しいけど、結局買わなくて…みたいな。」

「へえ、ミナちゃんはそんな感じなんだ。てっきり女の子だからオシャレにお金かけてるのかと思ってたよ。」

「全然ですよ。ほら、私って実家とあんまり仲良くなくて、ひとり暮らし始めたはいいものの生活費を全部自分でなんとかしなきゃいけなくて…。お金を使う余裕がないっていうか。」

「そっか。でも一人暮らしは大変だろうな。俺は実家にいた時期もあるけど、自由はあっても孤独もあるっていうか…家に誰もいないと寂しくない?」

「寂しいですよ。とくに夜とか、ちょっと落ち込んだだけで誰にも言えないし。だからこうやってユキオさんとLIMEで話す時間はほっとするんです。私のこと全部受け止めてくれるみたいで…。」

「俺でよければ何でも聞くよ。自分の話を聞いてくれる子はあんまりいなかったから、逆に俺もミナちゃんから癒されてるんだ。」

「癒しだなんて…私なんにもしてないのに。あ、そういえばユキオさんは自炊とかされるんですか?」

「うーん、ときどきはするけど、ほぼコンビニ弁当かな。正直ひとり分だと作るのも面倒で。」

「わあ…全く一緒です。私もおにぎりとか、納豆ごはんとかで済ませちゃいます。ひとり分だと適当にしがちで。でもそれで健康大丈夫かなって不安もあって…。」

「そうだよね。俺も歳のせいか健康診断の結果とか地味に気になってる。でもまあ、大丈夫かって聞かれたら大丈夫って言うしかないんだよね。」

「もし体調崩しちゃったらどうするんですか?」

「誰にも言えないけど、もうちょっと休んでそのまま寝て…みたいにやり過ごすかなあ。俺、周りに頼れる人いないし、そうやってやってきたから。」

「そっか。なんか、私も似てる…。そういうの聞くと余計にユキオさんに親近感湧くなあ。きっとすごく頼もしい人なんだろうなって思います。」

「頼もしいっていうか…。俺は自分のことより、相手が求めてることを叶えてあげたいタイプなんだよね。だからミナちゃんが困ったら言ってよ。俺に何ができるかわからないけど、力になりたいと思うよ。」

「ほんとに?そんなこと言われると私…頼ってもいいのかなって思っちゃう。」

「もちろん。遠慮なんていらないよ。話すだけでも楽になるし、俺で良ければいつでも。」

「ありがとうございます。最近、なんだか色々悩んでて…。親にも相談できないし、夢も諦めたくないのにお金のこととか壁が大きくて…。」

「お金のこと、か…。ミナちゃん、よかったらもっと具体的に話してみて。俺、聞くだけじゃなくて本当に助けになりたい。」

「え…ほんとに?でもユキオさんに話して嫌われたくないし…。」

「嫌いになるわけないだろ。俺はミナちゃんの全部を知ってあげたいよ。」

「じゃあ…ちょっと言うね。恥ずかしいな…。」

「大丈夫だから、ゆっくりでいいよ。」

「実は、前にどうしても学費が足りなくて、お金を借りちゃったことがあって。すごい人に借りたんです。利子とかもあって返さなきゃいけないのにどうにもならなくて…。」

「そっか…。それは辛かったろうね。今も返済に追われてる感じ?」

「はい…実はもう期限が迫ってて。少しは返してるけど追いつかなくて…。その人、あんまりいい人じゃなくて、ちゃんと返せないならどうなるかって思うとほんと怖くて…。」

「…それは大変だな。ミナちゃん、誰かに相談した?」

「相談できる人なんていないんです。親もまったく頼れないし、お姉ちゃんもいるけど音信不通…。友達もいなくて…。」

「そっか…。俺が何とかしてあげたい。ていうか、こんなとき俺しかいないなら遠慮せず言ってくれないか?」

「え、そんな…。ユキオさんは普通に働いてるんですよね?あんまりご負担かけられないし…。」

「俺は毎日普通に会社行って、給料はまあほどほど。貯金はあるんだ。自分に使わない分だけ無駄に溜まってただけだから…。もしそれでミナちゃんが助かるなら、こんなに嬉しいことはないよ。」

「嬉しい…。ユキオさん、ほんと優しすぎます。私みたいな子にそこまでしてくれるなんて…。」

「いや、俺なんかたいしたことないけど…。でも少しでも力になりたい。それにミナちゃんを支えてあげたいんだ。遠慮しないでいいよ。具体的にいくら足りない?」

「言っても怒らないですか…。」

「怒るはずないだろ。むしろ助けたい気持ちしかないよ。」

「本当にありがとうございます…。実は、まだ二十万ほど足りなくて…。」

「うん、わかった。後で振り込むよ。」

「いいんですか?そんな大金…。」

「いいよ。大金っていうか…俺にとってはミナちゃんが一番大切だからさ。」

「…ありがとう。本当に助かります…。迷惑掛けてすいません。」

「謝らないでくれって。俺はミナちゃんが困っているならいつでも助けるよ。」

「本当にすみません…。まとまったお金、私なんかが受け取ってもいいのかなって。」

「全然いいんだ。これで解決できるなら本当に嬉しいから。俺もこうやって誰かの役に立てるのは幸せだし。」

「ユキオさん…優しすぎて涙出ました。ちゃんと返せるようにがんばるから待っててください。」

「返さなくてもいいよなんて言えないけど、無理はしないで。困ったらまた相談してほしい。」

「わかりました…。ありがとう。これで一息つけそうです。」

「少しは落ち着いたみたいでよかったよ。今度こそ俺にできることあったら何でも言ってね。話聞くだけでもいいからさ。」

「うん…。じゃあこれからもよろしくお願いします。」


「もしもし、ユキオさん。ちょっとだけいいですか…。」

「もちろんいいよ。元気にしてた?」

「実は、またあの人から連絡がきて…。嘘みたいなんですけど、追加でお金返さないといけないとか言われて…。」

「追加…?そんなの完全に向こうがおかしいんじゃ…。」

「でも私、契約書みたいなのにサインもしちゃってて…。どうしよう…。」

「わかった。どれくらい必要なの?もう一度だけ、俺が何とかするから。」

「ごめんなさい…。ほんとごめんなさい…。あと三十万、どうにかしないといけないんです…。」

「…うん、わかった。ちょっと用意する時間は欲しいけど、できるだけ急ぐよ。」

「ありがとう…。私もすごく申し訳なくて、情けない…。」

「そんなこと思わなくていいんだって。大丈夫だよ。」

「ユキオさん、振り込みありがとう…。もう本当にユキオさんに頭が上がらないです…。」

「いや、大丈夫。俺も誰かに必要とされるって悪くない気分だから。」

「少しずつですけど、絶対お返しします。これで全部終わるはずだから…。」

「困ったときはいつでも呼んでね。」

「はい…。私、ユキオさんに出会えて本当に幸せだと思います。」


「ユキオさん…実はちょっと言いにくい話があるんです…。」

「なんでも聞くよ。どうした?」

「本当にほんとに言いづらいし、こんなの最悪って思われるかもしれないんですけど…。」

「何があったの?大丈夫?」

「ううん、もう大丈夫…。ごめんなさい、ちょっと気分が落ちてただけ。」

「ミナちゃん、俺に隠しごとしないでほしいよ。相談してくれなかったら助けられない。」

「…実は借りてたのってソフト闇金だったの。あの借金もそのせいで…。本当にごめんなさい。」

「え?ソフト闇金…。まさか、そんな所から借りてたの?」

「うん、実はそう…。普通のローンだと審査が通らなくて…。」

「そっか…。じゃあ俺が出したお金って…。」

「ソフト闇金の金利にあててる…。でも本当に助けてくれてありがとう。ユキオさんみたいな人は初めてで、正直、感謝してる。」

「…。」

「こんな私でも、まだ信用してくれますか?」

「正直ショックだけど、ミナちゃんのことは大事に思ってる。何か他に困ることがあっても言ってくれたら助けるよ。」

「うん…。ありがとうございます。じゃあ、もう一つだけお願いあって…。」

「またお金のこと?」

「そう…。次は五十万くらい…。ほんとに最後…。」

「わかった。俺、もう慣れちゃったよ。」

「本当?じゃあいつ振り込んでもらえますか…。」

「明日、俺の口座からちゃんと振り込むね。」

「ありがとうございます。ユキオさんがいないと生きていけない…。」

「そう言われると俺も悪い気はしないよ。実を言うと、こうやってミナちゃんから頼られて初めて生きがいを感じたんだ。」

「こんな私でいいんですか…。」

「いいも悪いもない。俺が勝手にやってることだから気にしないで。」

「…大好き。これからも私のこと守ってくださいね。」

「もちろん。」


「ユキオさん、ちゃんと振り込まれてました…。こんなに早く用意してもらって、ごめんね。それから、ありがとう。」

「気にしないでいいよ。これで全部落ち着くなら、俺も本当に嬉しい。心配してたから、早いほうがいいかなって思って。」

「ほんと優しい…。」

「それで…もう連絡してこないって相手は言ってる?」

「うん、たぶん大丈夫…。」

「そっか、よかった。」

「それにしても、ユキオさんって清潔感あるし、やさしいし、恋愛経験少ないのに私みたいなの助けてくれるし…。神様みたい。」

「神様なんてほどじゃないよ。俺はただ、人に与えたいだけなんだ。昔からね。」

「本当に貴重な存在です…。もうこんなに何度も振り込んでもらって、どうお礼を言ったらいいか。」

「礼なんていいよ。ミナちゃんがもう困らなくなるならそれでいいんだ。」

「そう言ってくれるから、わたしもすごく甘えちゃうんですよね…。最近、ユキオさんがいないと生きていけない気がして…。」

「俺もミナちゃんと話してるだけで生きがいを感じてるから、そう言ってくれると嬉しいよ。あまり無理しないでね。」

「はい…。ところで、これ以上お金がいるわけではないんですけど、一つだけ聞いておきたいことがあって。」

「何でも聞いて。」

「もしわたしが突然消えたら、どうしますか?」

「急にどうしたの?まさか消えるとか言わないでよ…。何かあった?」

「いえ、ただのもしもの話です…。消えても探さないでいてくれますか?」

「そんなの嫌だよ。ミナちゃんに何かあったら心配だし、連絡途絶えるなんてつらいだけだ。」

「…そっか。優しいですね。でも、もしそうなったらごめんなさい。」

「やめてよ。何かあるならちゃんと話してほしい。俺はずっと待ってるから。」

「ありがとう。少し気が楽になりました。今日はもう寝ますね。おやすみなさい。」

「おやすみ、ミナちゃん。」


























 実はこの会話、すべて俺が作った架空の女子、ミナの台詞を生成AIに吐き出させていただけだ。

 俺はただのネカマ。丸腰の中年男を探しては、AIに女の子らしい言葉を組み立てさせて、金を振り込ませるのが仕事になっている。

 あいつは俺が書いたメッセージをミナだと信じ込んで、せっせと金を渡してくれた。こっちは自分で文章を考える手間もないから超楽だ。全部AI任せで“可愛い女の子の会話”を作ってるだけ。

 あいつがどれだけ困ろうが知ったこっちゃない。俺はこのまま口座に溜まった金を引き出して、別の名前でさっさと逃げる。

 結局、真面目な男なんて、ちょっと揺さぶればいくらでも振り込む。しかも俺が手をわずらわすことなく、AIが勝手に愛らしい台詞を生成してくれるから、リスクも労力も少なくて済む。

 さて、次の相手を探すだけだ。この男の口座が限界なら切り捨てればいい。バレなけりゃいい話だし、多少怪しまれたところでなんとでもなる。AIがいくらでも嘘の言葉を組み立ててくれるから。

 俺にとっての“ミナちゃん”は消耗品。あいつにとっての“ミナちゃん”は唯一無二の存在なんだろうけど、真実なんてこんなもの。

 こいつには二度目の連絡はしない。種明かしもしない。永遠に“ミナちゃん”を探し続ければいいさ。

 これが俺の稼ぎ方。AIネカマは、まだまだ絶えることはない。まさか“可愛い女の子の言葉”がすべて機械で生成されてるなんて、奴は夢にも思わないだろう。

 哀れなもんだな。




























 俺はホントは金融被害を取り締まるNPOの一員で、ネットで行われる詐欺の実態を把握するのが任務なんだ。

 あの『ミナちゃん』とのやりとり。最初は彼女が困っているから助けたいと思ったわけじゃない。明らかに『怪しい』と踏んだから、あえて乗ったんだ。

 銀行振込のスクショは全部偽造。入金も本物のように見せかけて、実際には送ってない。やり取りの証拠ログや相手の口座への照会は、うちのNPOの協力企業からすでに抑えてある。

 正直、相手がここまでAIを使って手が込んだ会話を作ってるとは思わなかったけど、おかげで手口の新しい一面をつかめた。普通の詐欺よりもずっと悪質かもしれない。

 でもまあ、これで一通りの証拠は集まった。もう少し泳がせたかったが、相手も警戒して消える気配がある。そこまで追い詰められたら、この先しばらくは姿をくらますだろう。

 俺はあくまでこのやり方をしているだけで、逮捕権があるわけじゃない。あとは警察や関連機関に届けて、相手を特定するまで支援するのが俺の仕事。

 ――何人もの被害者を量産するようなネカマ詐欺なら、俺たちが野放しにするわけにはいかない。今回の証拠をもとに、なるべく早く手を打ってほしい。

 まったく…こっちも大変だけど、これが俺のやり方だ。騙されたふりして利用する。相手が引き際を誤れば、そのまま捕まえられる。

 あいつはきっと、まだ自分の手口が通用するとでも思ってるんだろう。だけどもう十分。口座情報もやり取りのログも、全部押さえてある。

 いずれ、ドアがノックされるはずだ。そこには俺じゃなくて、本物の捜査員が立ってるだろう。のんびり逃げてられると思うなよ。

 ――さて、次のターゲットがまた誰かを狙うかもしれない。でも、俺たちも同じ数だけ追っかけて、捕まえる努力をする。

 たとえAIを使われても、詐欺は詐欺だ。

 今回の“ミナちゃん”の正体、しっかりと暴かせてもらうさ。


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