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マッチングアプリで最強パーティを作った結果!!!  作者: MMM
帝都クライペダ編

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金杯の音、帝国のひび

 その三人を前に、ヴェルディア四世は金杯を机へ叩きつけた。

 音が鳴った。高価な金属が黒檀の机にぶつかる、鈍く、下品で、どこか湿ったような音。その音は、豪奢な執務室の静寂を裂くにはあまりにも軽く、しかし空気を乱すには十分すぎた。

 壁に並ぶ歴代皇帝の肖像画が、その音にわずかに震えたように見えた。双頭の鷲の金箔が、不快げに光を濁らせたようにも見えた。まるで、この部屋そのものが「その程度か」とつぶやいたかのようだった。

 金杯は机の上で転がり、銀の装飾に反射した光が部屋の天井に揺らめく。だがその揺らめきは、炎のような熱ではなく、浅い水面に投げ込まれた石が立てる、一瞬だけの波紋のように薄っぺらい。

 豪奢な空間の中で、ただひとつだけ品位を欠いた音。その音こそが、この部屋の主の“軽さ”をもっとも雄弁に物語っていた。


 そして三人の男は、その音に反応しなかった。

 氷のように静かなグラヴィス。熾火(おきび)のように揺るがぬグラミッド。毒を含んだ笑みを浮かべるゲルン。

 彼らは誰ひとりとして眉を動かさず、ただ皇帝の浅い怒りが部屋の空気を乱すのを冷ややかに見ていた。その沈黙こそが、金杯の音よりも重く、この帝国の現実を突きつけていた。


「グラミッド!」

 ヴェルディア四世の声は高かった。怒鳴っているのに、威厳がない。怒りの形だけが大きく、その中心には何の重みも宿っていなかった。

 空気が震えたのは声の大きさのせいではない。“軽さ”が豪奢な部屋に不釣り合いだったからだ。

「反抗的な者どもの取り締まりを、さらに強化しろ。最近、帝都の中で不穏な噂が多すぎる。教会だの、商人だの、貴族だの、兵士だの……どいつもこいつも、俺の目を盗んで何かをたくらんでいる」


 俺。皇帝が、自分をそう呼ぶ。

 その瞬間、グラミッドの眉がわずかに動いた。ほんのわずか。呼吸よりも小さく、影の揺れよりも静かに。

 それは不敬ではない。長く帝国に仕え、皇帝という存在が本来持つ“重さ”を知る者が、目の前の男の軽さに耐えた時にだけ生まれる、筋肉の微かな悲鳴だった。

 ヴェルディア四世は気づかない。気づけない。自分が見られていることにすら、気づけない。まるで、玉座の重さがどれほどのものか知らぬまま、ただ高い椅子に座っているだけの子供のように。

 その声は響いたが、響いたのは壁だけだった。

 歴代皇帝の肖像画は沈黙し、双頭の鷲は冷たく見下ろし、三人の男たちは動かない。ただひとり、この部屋の重さに耐えられていないのは、怒鳴っている皇帝自身だった。


「怪しい者は捕らえろ。少しでも反抗的なら拷問にかけろ。吐かせてから殺せ。いや、吐かなくても殺せ。見せしめだ。帝都に、誰が支配者か思い知らせてやる必要がある」

 その言葉が落ちた瞬間、空気が冷えた。それは冬の冷気ではない。魔導の冷気でもない。もっと質の悪い、“人の浅さ”が生む冷たさだった。

 それは命令だった。皇帝の命令。帝国法の上に立つ者の言葉。

 だが、その内容は軍命令ではなかった。治安維持でもない。ただの恐怖政治。ただの癇癪かんしゃく。己の不安を民の血で鎮めようとする、小さな男の叫びだった。

 豪奢な執務室の空気が、その言葉に触れた途端、まるで薄い氷の膜が張られたようにひび割れ、きしみ、冷たく沈んでいく。

 壁に並ぶ歴代皇帝の肖像画は沈黙し、双頭の鷲は天井から冷たく見下ろし、三人の男たちは動かない。

 グラヴィスの瞳はさらに深い氷へと沈み、グラミッドの熾火(おきび)はわずかに赤を失い、ゲルンの笑みだけが、この残酷な命令を“愉しむように”わずかに歪んだ。

 皇帝だけが気づかない。自分の声が、帝国を導く灯火ではなく、帝国をむしばむ毒そのものになっていることに。

 その瞬間、この部屋で最も冷たかったのは、冬でも石でも金属でもなく、皇帝の言葉そのものだった。


 グラミッドは、一歩も動かなかった。

 沈黙。その沈黙は短かった。だが、重かった。まるで、長年帝都を支えてきた“見えない柱”が静かにきしむ音が聞こえるような、そんな沈黙だった。

 やがて、グラミッドは低く言った。

「陛下。その命令は承服しかねます」

 その瞬間、執務室の空気が止まった。燭台の炎が揺れるのをやめ、壁の肖像画たちが息を潜め、双頭の鷲の瞳がわずかに光を失ったように見えた。

 ゲルンの口元が、かすかにゆがむ。それは笑みではなく、“血の匂いを嗅ぎつけた獣の反応”に近かった。

 グラヴィスは表情を変えない。だがその沈黙は、まるで氷の刃がさらに研がれたような冷たさを帯びていた。

 そしてヴェルディア四世だけが、言葉の意味を理解するまでに一拍遅れた。


「……何?」

 その声は怒りではなく、“自分が否定されるとは思っていなかった者の驚き”だった。

「民を、疑いだけで捕らえ、拷問し、殺す。そのような命令は、帝都防衛の任務を逸脱しております」

「逸脱だと?」

 ヴェルディア四世の顔に赤みが差す。

 怒り。いや――怒りというより、侮辱された子どもの癇癪かんしゃくに近かった。

 頬が赤くなり、目がぎらつき、金杯を叩きつけたときと同じ、浅い水面のような波紋だけが広がる。その浅さが、豪奢な部屋の重さと対照的で、逆に彼の小ささを際立たせていた。


 グラミッドは動かない。熾火(おきび)のように静かに、しかし確かに熱を宿したまま、皇帝の前に立っていた。その姿は、“権力に逆らう兵”ではなく、“帝国を守るために、帝国の頂点にあらがう者”だった。

 そしてその静かな拒絶こそが、この部屋で最も重い音だった。

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