微妙な空気、最強パーティに亀裂?
ギルドで最も期待される若手パーティ——そう評価されるようになった俺たちは、順調に依頼をこなしていた。ダンジョンの攻略、討伐依頼、護衛任務。どれも成功率は高く、ギルドでの評価も急上昇していた。
しかし、ある時から、俺たちの間には微妙な違和感が漂い始めた。
「レオン、今日の戦いもよかったな。お前がいたから、スムーズにいったよ」
エルザが俺の隣に座り、自然な様子で話しかけてくる。その態度は以前と変わらないように見えたが……。
「そ、そうか? まあ、みんながうまく動いてくれたおかげだな」
そう返すと、エルザが少し頬を染めたように見えた。
「うん……その……」
言い淀みながら、彼女は俺をじっと見つめてくる。その視線に、俺はなんとも言えない居心地の悪さを覚えた。
「……レオン、ちょっとこっちを見て」
「ん?」
彼女が急に真剣な表情になり、俺の顔を覗き込む。距離が近い。
「いや、その……最近、無茶してないか気になって」
「別にそんなことは」
「本当に? なんか疲れてるように見えるんだけど……」
エルザは真剣な顔で俺を見つめる。こんなに近くで顔を覗き込まれると、さすがに意識してしまう。
「……おい、エルザ」
「な、なに?」
「近いんだが」
「あっ……!?」
ようやく気づいたのか、エルザは慌てて距離を取った。しかし、その頬は赤く染まっている。
その様子を見ていたカインが、鋭い声を発した。
「……ふん、随分と仲が良いんだな」
彼女はいつものように冷静な表情をしているが、その声色には少し棘があった。
「え? いや、別に——」
「いや、いいんだ。ただの感想だ。だが……戦闘中に変な気の緩みはやめてくれ」
カインの言葉に、エルザの表情が一瞬こわばる。俺もなんとなく気まずくなり、視線を逸らした。
そこへ、セシリアが静かにため息をつきながら言った。
「やれやれ……まったく、こういうのを見ると、神の試練というのもあるのだなと感じますわ」
「え?」
俺が思わず聞き返すと、セシリアは微笑みながら言葉を続けた。
「男女が集まれば、こういうことも起こる……ということですわ」
その微笑みは、どこか皮肉めいていた。だが、目は笑っていない。
「いや、何も起こってないんだけど」
「そうですか?」
セシリアは、どこか冷めた目で俺を見る。その視線に、俺はなんとも言えない居心地の悪さを感じた。
そんな俺たちの様子を見て、リリスが楽しそうに笑う。
「いやぁ、これは楽しいねぇ!」
「楽しいって、お前な……」
「だってさ、エルザは明らかにレオンを意識し始めてるし、カインは微妙にイライラしてるし、セシリアは冷めた目で見てるし! これ、面白すぎでしょ!」
「お前はただの野次馬か……」
俺はため息をつく。
「いやいや、こういうのって見てる分には最高に楽しいんだって。これからもっと面白くなりそうだなぁ」
リリスはまるで高みの見物といった様子で、にやにやしながら俺たちを眺めている。
その後、俺たちは酒場で一息つくことにした。酒を飲みながら、それぞれの疲れを癒していると、エルザがふと俺に向かって杯を差し出してきた。
「レオン、乾杯しよう」
「ああ……?」
彼女の笑顔はどこかぎこちなく、それに気づいた俺は少し戸惑いながらも杯を合わせた。
「最近、パーティとしてすごくうまくやれてると思うんだ」
「そうだな。依頼の成功率も上がってるし、ギルドの評判もいい」
「うん……でも、それだけじゃない。レオンがいるから、私は安心して戦えるんだ」
エルザはそう言うと、少し伏し目がちになった。カインがそのやりとりを黙って見つめているのを、俺は感じていた。
「ま、また始まったよ」
リリスがくすくす笑う。
「これ、今後どうなるんだろうねぇ?」
「……俺たちのパーティ、なんかおかしくなってきてないか?」
そんな疑問が頭をよぎったが、今はまだ深く考えないことにした。
だが、確実に何かが変わり始めているのを、俺は感じていた。