恋愛適性…って何?
俺たちの間に、微妙な空気が流れ始めた。
「……恋愛適性って、一体どういうことなんだ?」
俺が疑問を口にすると、リリスが面白そうにニヤリと笑う。
「いやー、つまりさ、このパーティって戦闘だけじゃなくて、心理的な相性までばっちりってことじゃない?」
「そ、そんなの……」
エルザが言葉に詰まる。赤みがかった頬を隠すように視線をそらし、手元の剣をぎゅっと握りしめた。
カインは無言で腕を組み、じっと俺を見ていた。普段は冷静な彼女の瞳が、どこか複雑な色を帯びているように見える。
「でもさ、これって結構面白いかも。恋愛適性って言われても、実際のところ私たちがそういう関係になるかどうかなんて、わかんないしね」
リリスが軽口を叩きながらも、興味津々な目をしている。
「確かに……ただの相性診断みたいなものかもしれないわね」
セシリアが優しく微笑みながら言う。
「ですが、こういう情報があると、無意識のうちに意識してしまうものですわ」
「……それが問題なんだよな」
俺は頭をかきながらため息をついた。仲間として最高のパーティを組めたことは嬉しい。しかし、もし恋愛が絡んで関係がこじれたら、戦闘にも影響が出るかもしれない――そんな不安が胸をよぎる。
「とりあえず、これについて深く考えるのはやめないか?」
俺の言葉に、全員がそれぞれの思いを抱えたまま頷いた。
しかし、その後の道中、微妙な変化が起こり始めた。
エルザは、最初こそ「そんなの気にしない」といった様子だったが、時間が経つにつれて徐々に態度が変わっていった。戦闘後、俺に対してやけに気を使うようになった。剣の手入れをしている俺のそばに座り、「少し休んだら?」と声をかけてきたり、軽い怪我でもすぐに気にするようになった。彼女の瞳には、普段見せない揺らぎのようなものが浮かんでいた。
一方で、カインの視線が時々鋭くなるのを感じた。特にエルザが俺に話しかけるとき、その目がわずかに陰るのに気づいてしまう。その小さな変化が、俺の胸に妙な重みを残した。
「レオン、ちょっとこっちを見て」
ダンジョンの帰り道、ふとエルザが声をかけた。俺が振り向くと、彼女は珍しく視線を逸らさずに俺をじっと見つめていた。
「えっと……なんだ?」
「いや、なんでもない。ただ……その……」
普段は自信に満ちた彼女が、珍しく言葉を濁している。
「なんだよ、それ」
俺が笑いながら聞くと、エルザは「やっぱりいい」と言ってそっぽを向いた。そのやり取りを見て、リリスが口元を押さえながら小声で呟く。
「……こりゃ波乱が起きるぞ」
彼女の目は、まるで面白いおもちゃを見つけた子供のように輝いていた。
翌日、俺たちはギルドで報酬を受け取り、次の依頼を探していた。
「おいおい、昨日の戦果、ギルドでも話題になってるぜ」
リリスが掲示板を見ながら言う。
「まあ、Cランクダンジョンのボスを倒したんだからな」
俺は肩をすくめる。
「でも、パーティの相性が良かったからこそ、できたことだと思いますわ」
セシリアが柔らかく微笑む。
エルザは少し考え込みながら言った。
「確かに……このメンバーじゃなかったら、もっと苦戦していたかもしれない」
「ふむ、では次はどの依頼を受ける?」
カインが冷静に話を戻した。
俺たちはしばし掲示板を見つめ、今後の活動について考える。だが、その間もエルザはどこか落ち着かない様子で、俺に視線を送っているのを感じた。
「ん? どうした、エルザ?」
「な、なんでもない!」
彼女は慌てて顔をそむけた。
その様子を見て、リリスが俺の耳元で囁く。
「ねぇねぇ、やっぱり恋愛適性って影響あるんじゃない?」
「うるさい」
俺は軽くため息をついた。
そんなやり取りの最中、セシリアが静かに微笑んで言う。
「ふふ、でもこれもご縁ですわ。こうして素晴らしい仲間に巡り会えたのですもの、運命なのかもしれませんね」
彼女の穏やかで包み込むような言葉に、場の空気が少し和らぐ。
「まあまあ、難しいこと考えても仕方ないし、とりあえず依頼受けちゃおうよ!」
リリスが場を仕切るように掲示板の依頼書を手に取った。
「そうだな、まずは動いてみるか」
俺も深く考えすぎるのをやめ、次の仕事に意識を向けた。
こうして、俺たちは新たな関係の波に飲み込まれていくのだった。