日常編・エルザ:静寂に宿る剣の意志-1
レオンたちは、ギルドへの報告を終えると、それぞれつかの間の休日を過ごしながら、次の“試練”に向けた準備を行うこととした。
エルザ・ヴァレンタインは、仲間たちと手を挙げて別れる。
その手を振る動作には、ほんのわずかな寂しさが滲んでいた。レオンたちとは出会ってそれほど経っていないが、いくつかの戦場をともにしたような感覚は、彼女の胸に静かな絆として刻まれていた。
「また会うことを約束した」と自分に言い聞かせながらも、エルザはその別れの瞬間に胸の奥に寂しさを抱えながら、新たな旅立ちへの決意を静かに固めていた。
その後、エルザは市場を巡った。果物や香辛料が並び、陽光を浴びて鮮やかに輝くその賑やかな声と香りが、彼女を穏やかに包み込んでいた。
そして行きつけの店に寄り、店主おすすめのジャスミンティーと甘さ控えめのラズベリータルトを選ぶと、家路へと向かった。
まだ時間は昼を過ぎたころで、午後の柔らかな陽光が通りに降り注いでいた。その光の中、エルザは静かに歩きながら、お茶をするには良い時間だと感じていた。
エルザの家は、ギルドから歩いてすぐの場所にある一戸建ての家で、玄関の前にある小さな庭には色とりどりの花が咲き誇り、玄関からは柔らかな木の香りが漂っていた。
エルザがその家に入ると、家の中から明るい声が響いた。
「お帰りなさい、エルザ」
声の主は、赤みがかったブロンドのロングヘアを持ち、整った顔立ちに落ち着いた表情を浮かべた女性だった。明るい青色の服が彼女の雰囲気にさらに温かみを加えている。
「ただいま、シンシア」
エルザは片手にジャスミンティーなどが入った紙袋を持ちながら微笑み、挨拶をした。
二人はハグを交わし、その瞬間、笑顔に再会の喜びが広がった。仲良く並んで家の中へと入っていく様子からは、親しみと温かさが自然に伝わってきた。
その後、裏庭で二人のお茶会が始まった。
裏庭は、目隠しの樹高の高い樹木に囲まれた静かな空間で、そこには小さなテーブルと椅子が二つ置かれていた。樹木の間から差し込む陽光が二人を優しく包み込み、そよ風が静かにその間を通り抜けていった。
「今回の旅は長かったわね」
シンシアが微笑みながら言う。その声には、エルザを気遣う優しさが滲んでいた。
「少しね。でも、特に危険なことはなかったよ」
エルザは心配させないように、軽く答えた。
しかし、シンシアはエルザの頬に残るかすかな傷跡に気づき、エルザの気持ちを慮りながら、少しため息をついた。
「あの人にも、エルザに無理はさせないように言っているんだけどね」
シンシアのその言葉に、エルザは苦笑いを浮かべた。
エルザは旅の仲間の話や出来事について、心配させない範囲でシンシアに語り始めた。その語り口には、新たな旅立ちを控えた者としての静かな決意と優しさが滲んでいた。
そうしているうちに、外は少しずつ暮れかかり、紫と金色の光が空に広がり始めていた。静かな空気を破るように、家の玄関が騒がしくなった。
エルザとシンシアは玄関に向かい、扉を開けるとそこには大柄な人物が立っていた。
ギルドマスター――ガラハッド・ストラウスの姿だった。
「あなた、お帰りなさい」
シンシアは柔らかい声で声をかけた。その言葉には、彼女の穏やかで温かな性格が滲んでいた。
「シンシア、ただいま」
ガラハッドは微笑を浮かべながら答えると、エルザに目線を向けた。
「無事で何よりだ。……よくやったな、エルザ」
その声には、彼女を誇りに思う気持ちが静かに込められていた。
「ガラハッド叔父様……」
エルザのその言葉は静かだったが、その胸の中には安堵と嬉しさが溢れ、これまでの緊張が少しずつ溶けていくのを感じていた。
ガラハッドの口元がわずかに緩む様子を見て、エルザはその瞬間に何よりの喜びを感じ取った。