春風と冷気の交錯-1
王都ルミナスは、晩冬と初春が入り混じる、なんとも落ち着かない季節に包まれていた。
街路樹はまだ寒さに震えているのに、吹き抜ける風だけは妙に軽く、冬と春がせめぎ合う境界のような空気。石畳には雪解け水が細い筋を描き、朝の光がその水面に反射して揺らめいていた。
そんな中で、レオンは仲間たちとともにギルド本部へ向かっていた。
「にしても、ギルド本部って何度見てもデカいよなぁ……」
リリスが腕を伸ばしながら、白亜の建物を見上げる。紫の短髪が、朝日の反射でうっすらと光っていた。その声は軽やかだが、巨大な建物の前では小鳥のさえずりのようにかすかに響く。
「ふふ、王国の威信の象徴ですからね。……こうして見ると、やっぱり凄い建物です」
セシリアが柔らかな声でつぶやく。深紺のローブが風に揺れ、その姿がなんとなく神々しい。彼女の言葉は、石造りの壁に刻まれた歴史を讃える祈りのようだった。
「建築技術としても興味深いですね。防御的構造が随所に配置されている。……戦時を想定した造りですよ」
隣でカインが冷静に分析する声が響く。銀髪が朝光を反射して冷たい輝きを放っていた。その分析は、建物の威容をただの美ではなく、力の象徴として浮かび上がらせる。
「まぁ、何にせよ……用件を済ませるのが先だ。オーケルベーレの使者から連絡が来た以上、領都イェブールへ向かう準備を整えなければならない」
レオンは歩みを進めながらそう言う。その声は、仲間たちの心を一つに束ねる鎖のように確かだった。
エルザが大剣の鞘を軽く叩きつつ前をゆく。
「叔――ゴホン、ガラハッド様には一応ご挨拶しておかないとね。どうせあとで問い詰められるから……」
「その“叔”って言いかけたの、絶対あとで本人にバレるわよ?」
「言いかけたというか、ほぼ言ってたよな?」
「まぁ、聞かなかったことにしてやるよ」
そんな軽口が飛ぶあたり、これまでの冒険での疲れはみんな抜けてきたらしい。笑い声が冷たい風を押し返し、季節の狭間に小さな春を呼び込んでいた。
ほどなくして、ギルド本部の巨大な扉が目の前に現れる。
石造りの壁に刻まれた黄金の紋章は相変わらず輝いており、冒険者の聖域と呼ばれるだけの風格は十分だった。その輝きは、朝の光を受けてまるで太陽の欠片のように眩しく、訪れる者の心を引き締める。
扉を押すと、中は暖房の暖かさと人いきれ、そしていつものざわめきに包まれていた。
外の冷たい風とは対照的に、ここは熱気と活気が渦巻く場所。剣の音、笑い声、依頼書をめくる紙の擦れる音――それらが一つに混ざり合い、冒険者たちの鼓動を形にしていた。
その受付に――
「あっ、レオンさんたち。いらっしゃいませ」
自然なウェーブのあるダークブラウンのロングヘアを揺らしながら、クロエが落ち着いた笑顔で迎えてくれる。いつ見ても丁寧で柔らかい雰囲気の女性だ。彼女の微笑みは、ざわめく空気を静かに整える灯火のようだった。
「クロエさん、少しお伝えしたいことがありまして」
「はい、伺います。レオンさんたちが揃っているということは……何か大きな依頼ですか?」
「いえ、依頼ではなく……領都イェブールへ向かうことになりました」
レオンがそう告げると、クロエは目を瞬かせた。その瞳に映る驚きは、春の芽吹きに触れたような淡い揺らぎだった。
「イェブール、ですか?北の国境の街ですよね」
「オーケルベーレ辺境伯からイェブールに行ってほしい、と話がありまして」
「なるほど……事情はわかりました。皆さまの実力であれば安心ですが、道中には魔物も多いので、どうかお気をつけて」
そう言うクロエの言葉は、気品と気遣いが入り混じったものだった。その声は、冬の冷たさを和らげる春風のように、仲間たちの心に温もりを残した。




