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マッチングアプリで最強パーティを作った結果!!!  作者: MMM
エルディア魔塔国編

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南の公爵の領域

 レオンは続けて語った。リーネがローエル家に残り、研究の支援を受けることを選んだこと。そして、次期当主候補としてセシル――カインの兄が名乗りを上げたこと。

 その言葉が広間に落ちると、空気は一瞬張り詰めた。

 カインは表情をほとんど変えなかったが、瞳の奥で微かなゆらぎがあった。それは、安堵とも、覚悟ともつかない。氷のように澄んだ青の瞳に、わずかな波紋が広がり、やがて静かに沈んでいく。

 オーケルベーレは腕を組み、ゆるやかにうなずいた。

「ふむ……リーネ嬢、というのか。なるほど、そういう選択をしたのだな」

 その声音には、初めて聞いたような、その名を受け止める素直な相槌の響きがあった。

 そして、セシルの名が出たとき、眉がわずかに動いた。

「セシル君か。あれは冷静で器もある。次期当主候補として名乗りを上げたのなら、ローエル塔家も安泰だろう」

 その言葉は、辺境伯としての経験に裏打ちされた確かな評価であり、広間に重みを与えた。


 オーケルベーレは再びうんうんとうなずき、軽く息を吐いた。

「人はそれぞれ、自らの道を選ぶものだ。ある者の選択は未来の知を芽吹かせ、ある者の決断は家の礎を固める。……そうして世界は、歩む者の選択で形を変えていくのだ」

 その声は飄々とした調子を保ちながらも、広間の空気に静かな余韻を残した。

 広間の灯火は揺れ、茶の香りは淡く漂う。その中で交わされる言葉は、未来を形づくる石のように重く、仲間たちの胸に静かな余韻を刻み続けていた。




「さて……」

 レオンが少し姿勢を正し、声を整えた。その声音は広間の静けさを切り裂き、まるで鐘の音が響くように仲間たちの意識を一点へと集めた。

「ここからが本題です」

 オーケルベーレの眉がわずかに上がる。その眼差しは飄々とした笑みの奥に潜む鋭さを帯び、広間の空気を一瞬張り詰めさせた。


 レオンはカバンから地図を取り出す。革の擦れる音が低く響き、やがて机上に広げられた羊皮紙は、光を受けて淡く輝いた。

 古びた線と記号が交錯し、まるで過去と未来を繋ぐ網の目のように広間へ広がっていく。

 指先が、エルディアの魔塔国で“アプリ”に示された次の目的地――“シィグルダ帝国領内の南側”を指し示す。

 その瞬間、地図の上に落ちた影が揺れ、帝国という名が広間の空気を冷たく染めた。


「この場所へ向かう必要があります。しかし――帝国領内です。現状の国交では、ほぼ不可能かと」

 レオンの声は静かでありながら、確かな重みを帯びていた。その言葉は広間の壁に反響し、まるで未来への扉を叩く音のように響き渡る。

 地図の上に広がる線はただの境界ではなく、試練の影を帯びた境界線。

 仲間たちの胸に、冷たい風が吹き抜けるような感覚が広がり、帝国という名が、次なる旅路の難しさを静かに告げていた。


 オーケルベーレは椅子に寄りかかったまま、地図に目を落とした。その口元の髭がぴくりと揺れる。

「あぁ……ここは……」

 オーケルベーレの声には、珍しく重みがあった。普段の飄々とした調子とは違い、広間の空気を一瞬で張り詰めさせる響き。

「“南の公爵”の……居城みたいだね」

 レオンたちは一瞬黙り込む。その沈黙はただの言葉の途切れではなく、胸の奥に冷たい影を落とすものだった。


「“南の公爵”?」

 セシリアが静かに尋ねる。その声は祈りのように柔らかいが、確かな緊張を含んでいた。

「そう、“北”と“南”。シィグルダ帝国には二人の公爵がいるんだ。“南の公爵”の正式名は、ルーストフェルン公爵。気難しい男でねぇ……いや、性格の問題じゃない。そこに近づくこと自体が、すでに政治的な危険を孕んでいるんだ」

 リリスが頬をかき、苦笑を浮かべる。

「むしろ、近づく前に矢が飛んでくるレベルってこと?」

「うむ、まぁそんなところだ」

 エルザが半ば呆れた声を漏らす。

「どうしてそんな場所を、アプリは示すのかしら……」

 オーケルベーレは笑った。しかしそれは、乾いた笑みだった。カイゼル髭がわずかに揺れ、瞳の奥に鋭い光が走る。

「さあね……だが、ここはただの領地じゃない」

 オーケルベーレはゆっくりと視線を落とし、声を低く響かせた。

「ここは特別だ。ルーストフェルン公爵の領域は、帝国の中でも最も厄介で、最も危うい場所だ。一歩踏み入れれば、風すら刃となり、影すら罠となる。そこは、力ある者だけが生きて帰れる領域だ」

 その言葉は広間の壁に反響し、まるで戦場の絵画が応えるかのように影を揺らした。

 茶の香りは遠のき、仲間たちの胸に冷たい緊張が広がる。

 ルーストフェルン公爵の領域――その名が告げられた瞬間、未来の旅路はただの地図上の線ではなく、試練の深淵へと変わった。


 レオンが問いかける。

「行く方法は……あるのでしょうか?」

 広間に沈黙が落ちる。その沈黙はただの空白ではなく、未来の行方を量る秤のように重く、誰もが息を潜めていた。

「普通はない。いや、“普通では”と言っておこうか」

 オーケルベーレは指を一本立て、少し意地悪く微笑む。その笑みの奥には、長年の戦場と政の荒波を渡ってきた者だけが持つ鋭さが潜んでいた。

「だが――全てが閉ざされているわけではない。希望の灯は、まだ消えてはいない。ただし、その真偽を確かめるには、時を要する」

 その言葉が落ちると同時に、風が窓の外を過ぎ、薄い影を床に走らせた。

 影は揺れ、まるで未来の不確かさを映すかのように形を定めず震えていた。


 オーケルベーレは、レオンたちひとりひとりの顔を静かに見渡す。そのまなざしは飄々とした軽快さの奥に隠された、“辺境伯としての責務”を帯びていた。

 その眼差しに射抜かれた者は、ただ黙して未来の重みを受け止めるしかなかった。

 そして、低く響く声で告げる。

「私が道を探ろう。だが、その糸口を掴むには時間がかかる。――待て。時が答えを運んでくるまで」

 広間の空気はさらに張り詰め、茶の香りすら遠のいた。その瞬間、彼らの旅路はただの冒険ではなく、帝国の闇へ挑む試練へと姿を変えた。

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