俺たち、最強じゃね?
そして、ついにダンジョンの最深部にたどり着いた。
「ここが……ボス部屋か」
冷たい風がどこからともなく吹きつけ、空気に緊張が走る。
その重厚な扉を押し開けると、薄暗い部屋には血の匂いが漂っていた。部屋の奥には巨大な黒狼が待ち構えている。鋭い眼光が獲物を睨みつけ、低く唸り声を上げながら、一歩ずつ近づいてくる。
「こいつを倒せば、ダンジョンクリアだ!」
エルザが前に出て剣を握る手に力を込めた。
「やるしかないね!」
リリスが短剣を抜きながら軽く笑みを浮かべたが、その目には緊張の色が浮かんでいた。
「援護するわ」
カインが冷静な表情で魔法の詠唱を始める。
「私も支援に回ります」
セシリアが優しく微笑みながら神聖魔法を準備する。
俺たちは互いの役割を確認し、ついに最後の戦いに挑んだ。
戦いは激闘だった。
黒狼の動きは素早く、並の冒険者なら一撃で仕留められるほどの鋭い爪を持っていた。何度も爪が空を裂き、俺たちはそれをかわしながら隙を探した。そして互いの役割を完璧に果たし、連携を重ねることで、黒狼を確実に追い詰めていった。
「今だ、エルザ!」
俺の合図と同時に、エルザが渾身の力で剣を振り下ろす。鋼鉄の刃が黒狼の首元を捉え、一閃。鋭い断末魔が響き渡り、黒狼の巨体が激しく震えた。やがて、その動きは次第に止まり、ついに地に伏した。
「……倒した、のか?」
俺たちは警戒を解かずに黒狼を見つめる。張り詰めた静寂の中、やがてそれが完全に動かなくなったのを確認し、リリスが歓声を上げた。
「やったー! ダンジョンクリアだ!」
セシリアもほっと息をつきながら微笑む。
「皆さん、お疲れさまでしたわ」
俺たちは高揚感に包まれながら、戦利品を回収した。黒狼の牙や毛皮は高値で取引される品だ。それに加え、ボス部屋の奥には宝箱があり、光を反射して輝く金貨が詰まっていた。
「これ……一体いくらになるんだ?」
リリスがざっと計算し、目を輝かせる。
「ざっと見積もっても、数百万ゴールドはあるよ! これだけ稼げるなら、Sランクも夢じゃないんじゃない!?」
「そんなに簡単に稼げるものなのか?」
俺は眉をひそめた。
エルザが腕を組んで考え込む。
「……普通ならありえないわね。確かにこのダンジョンはCランク相当だけど、ボス討伐に成功するパーティはそう多くない。単独や寄せ集めのパーティでは、ボス戦までたどり着く前に撤退を余儀なくされることがほとんどよ」
「なるほど……報酬が高いのは、それだけ攻略が難しいからか」
カインが冷静に分析する。
「ええ、Cランクダンジョンといえど、攻略には高い戦闘技術と連携が求められますわ。だからこそ、これだけの報酬が用意されているのでしょうね」
セシリアも頷いた。
「まさに最強のパーティってやつね!」
リリスが胸を張る。
俺も頷いた。このメンバーなら、本当にどこまでも行ける気がする。仲間と共に進む限り、俺たちの冒険は終わらない――そんな確信が胸を熱くした。
一息つき、戦利品の整理を終えた俺たちは、しばしの休息を取ることにした。リリスは戦利品の価値を確かめるためにアプリを開き、詳細を確認し始める。
「ん? これさ……」
「どうした?」
リリスが画面を俺たちに見せる。
「ねえ、これ見てよ」
彼女が指差した画面には、こう書かれていた。
——『本アプリは、スキルと相性だけでなく、恋愛適性も考慮しています』——
「……え?」
俺たちは、その言葉を見て、しばし沈黙した。
「え、ちょっと待って。それってつまり……?」
リリスが俺をじっと見る。エルザも、カインも、セシリアもそれぞれ気まずそうな表情を浮かべる。
「……このパーティ、戦闘だけじゃなく、恋愛面でも相性がいいってこと?」
リリスがくすっと笑いながら言う。
「いやー、どうりで居心地がいいわけだよね!」
「そ、そんなことあるのか……?」
エルザが頬を赤らめながら呟く。
「まさか、最強のパーティが恋愛適性まで完璧とは……」
セシリアが苦笑いする。
「……つまり、このパーティが機能しているのは、戦闘の相性だけじゃなく、心理的な相性も計算されているということか」
カインは腕を組みながら冷静に考え込んでいた。
俺たちは顔を見合わせ、妙な空気に包まれた。
「そういえば、最初にアプリを使ったとき、説明なんてろくに読まなかったな」
俺が頭をかく。
「だよねー。私も、マッチング結果が出た瞬間に飛びついちゃったし」
リリスが苦笑しながら言う。
「私も、戦闘の適性ばかり気にしていて……こういう細かい部分までチェックしていませんでしたわ」
セシリアが申し訳なさそうに微笑む。
「アプリなんて、普通はそこまで細かく読まないものよ。特に、結果が良かったらなおさらね」
エルザも軽くため息をついて頷く。
「……しかし、こういうことが影響する可能性もある。戦闘とは別の意味でな」
カインは画面を見ながら静かに言う。
「……これ、どうする?」
戦闘の高揚感から一転、俺たちの間には別の緊張感が生まれていた。