怒れる剣、裂ける大地
塔は軋み、崩れかけた天井が不吉な音を立てている。
古の封印が刻まれた石壁には無数の亀裂が走り、落下する瓦礫が戦場を分断していた。瓦礫が崩れ落つと同時に粉塵が空間を覆い、視界は曖昧になり、生存者たちを追い詰めるようだった。
魔物たちは、その崩壊の中ですら鋭い叫び声を上げながら、瓦礫の間をものともせずに突き進む。我が先とばかりに残された獲物を狙って殺到するその姿は、混沌そのものだった。
空気は灼けたように熱く、まるで炎がその場を支配しているかのようだった。魔法の余波が揺らめくたびに景色が歪み、現実と幻影の境界が曖昧になっていく。血の匂い、焦げた石の臭い、崩壊の音、魔物の叫び——それらが混じり合い、戦場はまるで終末の様相を呈していた。
その中心に立つのは、なおも動じぬ男──ヴォルフガング。その瞳には冷徹な光が宿り、戦場の混沌を楽しむかのように揺らめいていた。
「試練だ」
静かな声が響く。混乱の轟音の中、その言葉はまるで全てを支配するかのように力強く響き渡った。
「選ばれし者ならば、この崩壊を乗り越えられる。恐怖に屈し、逃げるような者には、そもそも資格がないのだよ」
崩れ落ちる瓦礫が轟音を立て、周囲は粉塵に包まれていた。その中で彼はまるで神託を告げる預言者のように堂々と立ち、瓦礫の雨が肩を叩く音をものともせず、一歩たりとも退かなかった。
「ふざけるな……っ!」
レオンの叫びが塔の奥深くに反響する。剣を構えるその手は震え、胸の奥から燃え上がる激情が刃へと宿る。
マリオンは死んだ。
仲間のために戦い、最後まで抗いながら、命を散らせた。
それを「試練」と言うのか。それを「選別」と言うのか。
「選ばれた者だけが生き残る? そんな理屈で仲間を犠牲にして、何が正しいんだ!」
振り下ろされた剣から閃光が放たれ、その鋭さは怒りそのものだった。しかし、ヴォルフガングはわずかに視線を傾け、薄く笑った。
「だからこそ、私が生き残っているのだよ」
冷酷なまでに淡々と、彼はレオンの剣を片手で受け流した。その一連の動きには余裕と冷たさが漂っていた。その瞬間、塔全体が大きく揺れた。
瓦礫が弾けるように崩れ、空気が悲鳴を上げる。塔の崩壊が極限に達し、戦場はすでに限界を超えつつあった。
「くっ……このままじゃ……!」
エルザが盾を構えながら仲間たちを庇う。
頭上から降り注ぐ瓦礫は轟音を伴い、カインの魔法がそれを切り裂きながら展開する。舞い上がる魔法の光が、一瞬だけ塔の奥の闇をかき消すように輝いた。
「戦い続けるのは無謀だわ! ここは撤退すべきよ!」
「でも、やつを逃がしたら──」
リリスが苦しげに叫ぶ。彼女の拳は震え、瞳には怒りと迷いが入り混じっていた。
だがその瞬間、瓦礫をものともせずヴォルフガングが静かに前へと踏み出した。その瞳には冷たい光が宿っていた。
「この場に留まるのも、撤退するのも、お前たちの自由だ。だが、選ばれし者でない者に、未来はない」
彼の背後では、ブラッドレイヴンのメンバーが魔物との戦闘を始めていた。崩壊する塔の中、戦場は混沌そのものだった。塔の揺れはさらに激しさを増し、床に深い亀裂が走る。
「俺たちは……!」
レオンは歯を食いしばる。ここで倒さなければならない。胸の奥では怒りと恐怖が交錯し、仲間たちを守るべきか、自ら立ち向かうべきかで心が引き裂かれるようだった。
だが、塔の崩壊はすでに最終段階へと入っていた。
瓦礫が落ちるたびに、爆風が瓦礫を吹き飛ばし、煙が渦を巻きながら戦場を覆い尽くす。瓦礫の崩れる轟音と爆風の唸り声が戦場を支配し、生存者たちの耳を容赦なく襲った。
ヴォルフガングは瓦礫の降る中、なおも悠然と立っていた。瓦礫が彼の肩に降り注ぐも、彼は微動だにせず、剣を静かに構えた。彼の唇が動く。
「お前たちには理解できないだろう。この崩壊すら、私にとっては試練に過ぎない」
彼は静かに足を踏み出した。
瓦礫の雨の中、ひとり立ち続けるその姿は、狂信的な信念そのものだった。
「選ばれし者は、試練を超え、栄光を掴む。私は、その真理を証明しよう」
何を選ぶべきか。マリオンの犠牲は、何を意味するのか。
その答えを見つける前に、戦場はさらなる混乱へと呑まれていった──。




