表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マッチングアプリで最強パーティを作った結果!!!  作者: MMM
エルディア魔塔国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

336/520

《モルグの羽根》から倉庫へ

 夜のリオフェールは、まるで息をひそめるように沈んでいた。

 街灯がひとつ、またひとつと灯り、薄紫の夕空を背景に、通りの影が長く伸びていく。

 雪は降っていない。だが、空気の質はそれに似ていた。冷たく、乾いて、微かに光を散らす――まるで、誰かの秘密が空気に溶けているような夜だった。


 カフェ《モルグの羽根》の扉が静かに閉まると、音が世界から抜け落ちたようだった。その一瞬の沈黙を縫うように、レオンたちは歩き出す。

 先を行くのは、エイザと老女ヘレン。

 ふたりの姿は、街灯の光の中に淡く浮かび、細い通りの奥へと消えていく。その背中は、まるで夜の帳に吸い込まれる影のようだった。


 レオンは軽く息を整えながら、背後の仲間たちに視線を送った。

「間を詰めすぎるな。だが、見失うな」

 短く、確実な声だった。その言葉は、霧の中で道を示す灯火のように、静かに空気を裂いた。

 エルザがうなずき、赤い髪を夜気に揺らす。

「了解。前衛は私が行く」

 エルザの声には戦場の緊張があった。だがその足取りは、獣のように静かだった。

 夜の石畳に、彼女の影が滑るように伸びていく。


 リリスは、わずかに笑って肩をすくめる。

「ふふ、夜の尾行なんて久しぶり。カフェよりずっと性に合ってる」

「声が大きい」

 カインの冷たい一言に、リリスは舌を出して肩をすぼめた。そのやり取りさえ、夜の静けさに溶けていく。

 ラヴィは、少し遅れてついてくる。小柄な体が荷袋に埋もれ、息が白く上がる。

「ねぇ、ねぇ、これってまるで潜入取材ってやつじゃない?」

「“まるで”じゃなくて、完全にそれよ」

 リリスがささやく。

「ただし、バレたらあんたの記事は遺稿になるけどね」

「ひどっ……!」

 しかしラヴィの瞳は、怖れよりも興奮で輝いていた。その光は、夜の帳に差し込まれた火種のようだった。


 エイザとヘレンは大通りを外れ、裏手のわき道へと入った。

 石畳が濡れている。どこかで水路が溢れたのか、足音が鈍く響いた。

 頭上の看板がきしむ音と、遠くの鐘の音。

 リオフェールの夜は、昼の喧騒の代わりに、機械仕掛けのような音で満ちていた。それは、都市が眠る代わりに、静かに動き続ける証だった。

 先を行くエイザは、まるで夜に慣れているかのように、迷いのない足取りだった。その歩き方には、目的地を知る者の確信があった。

 ヘレンはやや足を引きずるようにして、彼に遅れがちについていく。その姿は、導かれる者の不安と信頼が交差する、静かな影だった。


 リリスがその様子を見て、低くつぶやいた。

「……誘導してる。彼女の不安を“守られている”感覚にすり替えてる」

「たしかに」

 レオンがうなずく。

「あの歩き方、道順、間の取り方……すべて計算されてる」

 その言葉は、罠の輪郭をなぞる者の、静かな確信だった。


 カインの指がエクリプス・コアの表面をなぞる。透明な魔力の粒が、微かに杖の内部で揺れた。その揺れは、夜の空気に反応するように、静かに脈打っていた。

「この先、魔力反応があるわ。精錬鉱石か、もしくは……」

「兵器開発関連の素材、ね」

 セシリアがささやく。その声は、夜の静けさに差し込まれた警鐘だった。

「だとしたら、偶然とは思えません」

 そして、リオフェールの夜はさらに深まっていく。

 影は濃くなり、光は細くなる。その中で、罠は形を持ち始めていた。誰もが静かに歩きながら――その中心へと、確かに近づいていた。



 路地の終わりに、ひとつの建物が姿を現した。それは、まるで夜の底に沈んだ記憶のように、静かに佇んでいた。

 倉庫だ。分厚い木の扉に鉄の補強。夜気を吸い込んだ屋根の影が重く沈み、その輪郭は、星の光さえ跳ね返すほど鈍く濃かった。

 扉の上には、古びた金属の看板が掲げられていた。錆の縁が月光に照らされ、文字が浮かび上がる。

 ――オレクシア商会。

 その名は、まるで誰かが忘れさせようとした記号のようだった。


 ラヴィが目を細める。

「聞いたことがない名前ね。最近できたのかしら」

「私も記憶にない」

 ラヴィたちを待つ間に、関連する情報を調べていたカインが答える。

「公的な商業登録には載っていなかったはず」

「つまり、“できたばかり”じゃなくて、“見えないように作られた”会社ね」

 リリスの声には皮肉がにじんでいた。その言葉は、夜の空気に小さな棘を立てるようだった。


 倉庫の中では、十人ほどの男たちが忙しなく動いていた。

 木箱が運ばれ、封印が解かれ、灰色の鉱石が顔を覗かせる。その鉱石は、まるで地の底から引き上げられた罪の結晶のように、冷たく沈黙していた。

 手袋をはめた男が一つを持ち上げると、紫色の光が淡く反射した。その光は、夜の闇に溶けることなく、逆に空気を染めた。


 リリスの目が鋭く光る。その瞳は、夜の帳に差し込まれた刃のように、倉庫の奥を切り裂いた。

「……あれ、なんだ?」

 言葉が落ちた瞬間、空気がわずかに震えた。紫色の光が、木箱の隙間から淡く漏れ、 まるで沈黙の中で脈打つ心臓のように、倉庫の闇を染めていた。


「危険な代物か」

 レオンが低くつぶやく。その声は、刃の背で空気を撫でるように静かだった。

「あんな鉱石は見たことない。闇取引か何かかしら」

 カインが続ける。その言葉は、倉庫の壁に染み込んだように重く響いた。まるで、石造りの空間がその罪を記憶しているかのように。


 その鉱石は美しかった。だがその美しさは、破壊の予兆を孕んでいた。

 それは、魔力をはらむ鉱石。その存在が、倉庫の空気を一段深く沈めていく。


 そしてその時、倉庫の扉が開いた。 音は小さかった。だが、確かに空気が変わった。

 ひとりの男が姿を現した。

 その影は、灯りの中にゆっくりと溶け込み、 まるで倉庫そのものが彼を生み出したかのようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ