記者の巣、闇の密談へ-2
レオンの瞳が、わずかに鋭く細められる。
(……まさか)
レオンたちの目的の一つ。それは、シィグルダ帝国が研究していると噂される"新型魔道砲"の情報を得ること。
そのコアとなる魔道具が、まだ実験段階にあるらしいが、それを知る者は極めて限られている。そしてこの新聞記者が、同じ線上にいる。
「どうしたの?」
セシリアが小声で問う。その声は、霧の中で灯火を探す者の問いだった。
「いや……」
レオンは首を横に振ると、淡く微笑んだ。
「君の“スクープ”、興味はあるよ。ただし、俺たちは護衛を請け負う立場じゃない」
「でも調べ物の協力ならできるんじゃない?」
リリスがからかうように言う。
「ほら、どうせ私たちもも、帝国絡みの厄介事を追ってるんだから」
ラヴィは机の上の資料を抱え、息を弾ませながら続けた。
「だからね、明日、一緒に来て。エイザという男が何を企んでるか、確かめたいの」
「リスクは?」
カインが冷静に訊いた。その声は、霧の奥を見通す者の探針だった。
「うーん、取引相手が誰かわかってないこと」
ラヴィは肩をすくめた。
「けど、危なくなったら走るの得意だし!」
「……それが一番危ない発言ね」
セシリアがため息をつく。その吐息は、夜の帳に溶けるように、静かに空気を揺らした。
「ねえ、レオン」
エルザが低く囁いた。その声は、夜の帳に沈む者の探針のように、静かに空気を裂いた。
「放っておいても、彼女ひとりで行くだろうな」
「だろうな」
レオンの返答は短く、しかし確かな重みを帯びていた。その言葉の奥には、ラヴィという火種の性質をよく知る者の、静かな諦めがあった。
「それなら、こっちで監視したほうが安全だ」
「同意見だ」
カインは軽く頷いた。そして、深く息をつく。その呼吸は、霧の中で灯火を守る者の、静かな覚悟だった。
「明日、南区《モルグの羽根》。……いいだろう、行こう」
レオンの言葉が落ちた瞬間、空気がわずかに震えた。まるで、沈黙の水面に石が投げ込まれたように。
「本当!?やった!」
ラヴィは身を乗り出して喜んだ。机の紙束が音を立てて崩れ、リリスが慌ててそれを押さえる。その光景は、混沌の中に跳ねる熱のようだった。
「じゃあ今夜は作戦会議よ。ここ、資料散らかってるけど……適当に座って!」
「“適当”という言葉がこの部屋にぴったりね」
リリスが苦笑しながら椅子を引く。その笑みは、緊張の糸に風を通す者の、軽やかな魔法だった。
「……まずはその整理能力を鍛えろ」
カインがぼそりと呟いた。その声は、冷静な者が混沌に触れたときの、静かな警鐘だった。
「大丈夫大丈夫!混沌の中に真実はあるのよ!」
「いや、それは"迷宮"って言うんだ!」
エルザが即座に突っ込む。そのやり取りに、笑いがわずかに広がった。だがその奥にある空気は、どこか張りつめていた。
帝国の影。地下に密めく金。そして、見えぬ意図。
ラヴィの瞳は、琥珀の光を宿していた。その輝きは、明日、自分が“何を掴むか”を信じて疑っていない者のものだった。
希望とも、執念ともつかぬその光は、夜の闇に差し込まれた一筋の熱だった。
レオンはその光を見つめながら、胸の奥で静かに考えていた。
もしかすると、ラヴィが掴むのは「真実」ではなく「罠」かもしれない。
だがそれを止める理由も、もうなかった。
ラヴィの足音は、すでに夜の街路に刻まれていた。そしてその足音に、レオンたちもまた、歩調を合わせるしかなかった。
こうして、記者と盗賊と旅人たちは、夜更けの取材部屋でひとつの約束を交わした。
紙の束が風に揺れ、壁の推理図が静かにざわめく。魔術灯の光が、彼らの影を長く伸ばしていく。
明日、南区《モルグの羽根》で、エイザを追う。その足音の先に、まだ誰も知らぬ闇が待っているとも知らずに――。




