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最強冒険者の幻影

 ズゥゥゥゥン……!


 亡霊の兵士たちが空洞の目を淡く光らせ、不気味な呻き声を上げながら地面を踏み鳴らし、武器を振りかざして突進してくる。

 その数は数十体に及ぶ。彼らのひび割れた鎧は動くたびに音を立て、まるで戦場の記憶を語るかのようだった。その中には、歴戦の剣士、槍兵、弓兵が混ざり合い、手に魔力を宿す魔法使いの姿まであった。

 彼らが地面を駆けるたびに黒い霧が舞い上がり、その一団はまるで生きた闇が波となって押し寄せるように見えた。兵士たちの足音が低く響き渡り、武器が空を切る音が戦場全体に広がる。迫り来る混乱の中、冷たい風が大地を這うように吹き抜けていく。


「クソッ、手加減なしってわけ!」

 リリスが短剣を抜き、素早い動きで敵の懐に飛び込む。

 その刃は滑るように鎧の隙間を突き、黒い霧が傷口から立ち上がるように広がった。

「まともにやり合ってたらキリがない……!」

 カインが鋭く呟きながら氷の魔法を詠唱する。

 彼女の展開した魔法陣が青白い光を放ち、その中心から鋭い氷柱が生成される。氷柱は亡霊兵士たちの足元を凍らせ、次々と動きを封じていった。


「バラけるな! 一点突破で道を開く!」

 レオンは剣を構えながら仲間たちに叫ぶ。

 その声に応え、エルザが即座にレオンの背後につき盾を構えた。亡霊の槍兵が突きを繰り出すが、エルザの盾がその軌道を鮮やかに弾き飛ばす。

「隙あり!」

 レオンが隙を突いて剣を振り下ろし、一閃で亡霊の体を斬り裂いた。


 シュゥゥゥ……!


 刃が亡霊を貫いた瞬間、兵士の体は黒い霧のように崩れ去り、大地に溶け込んでいく。

「倒せる……!」

 だが、次の瞬間——


 ゴォッ!


 横から炎の矢が飛来し、大地を焦がしながらレオンたちに迫る。

「くっ……!」

 セシリアが咄嗟に光の結界を展開し、火矢を弾き返す。その結界は眩い輝きを放ちながら炎の衝撃を防ぎきった。

「これは……弓兵だけじゃない!魔法兵もいる!」

「本格的な戦場を再現してるのか……厄介だな」

 カインは呟きながら再び魔法陣を展開し、その中心から次々と氷の槍を生成する。彼女の魔法は、敵の動きを封じるために的確に発動されていた。


 戦場では絶え間ない攻撃が繰り広げられ、矢が飛び交い、魔法の爆発が響き渡る。煙と焦げた大地の匂いが混じり合い、混沌が広がっていた。この戦いはただの乱戦ではない。戦略と連携が試される、本物の戦場そのものだった。

 レオンたちは陣形を整えながら少しずつ塔の入り口へと進んでいく。その道のりは容易ではなく、迫り来る兵士たちが彼らを阻み続けた。


 ——しかし、その時。

「おいおい、まだ本番前だぜ?」

 ヴォルフガングの低い笑い声が戦場の喧騒をかき分けるように響いた。その声には冷たい余裕が滲み、戦場を楽しんでいるかのような不気味ささえ感じられる。


 レオンが振り向くと、ブラッドレイヴンのメンバーもまた亡霊たちと戦っていた。その戦い方は明らかに違っていた。


 ヴォルフガングは剣を軽々と操りながら敵を斬り裂いていく。その動きは鋭く、攻撃と防御を無駄なく繰り返すことで、敵を圧倒していた。

「チッ、面倒だな」

 槍を扱う戦士が呟きながら、その長い槍を巧みに回し、周囲の亡霊兵士たちを一瞬で掃討していく。槍の攻撃は範囲が広く、敵の陣形を一気に崩壊させる力を持っていた。

 弓兵は冷静に矢を放ち、その一つ一つが敵の弱点を正確に射抜いていた。亡霊たちは次々とその矢に貫かれ、黒い霧となって消えていく。

「行くわよ」

 魔法使いの女が淡々と呟くと、手のひらから猛烈な炎の魔法を放つ。その魔法は広範囲に影響を与え、亡霊の軍勢をまとめて吹き飛ばす力を持っていた。

 ヒーラーの女は前衛で短剣を構え、亡霊兵士たちを切り裂きながら仲間を援護していた。敵の攻撃を巧みに回避しつつ、傷ついた仲間を瞬時に癒やすその動きは、戦場での生存を保証する頼れる存在だった。


 彼らの動きは計算され尽くしており、まるで最適な行動パターンが身体に染み付いているかのようだった。

「……強いな」


 レオンは認めざるを得なかった。

 ブラッドレイヴンのメンバーは、それぞれが異常なほどの強さを持ち、その連携は自然でありながら完璧だった。彼らが戦場の本質そのものを熟知していることが、圧倒的な実力によって証明されていた。


 そして——


「ほう……やっと姿を現しおったか」

 マリオンが低く呟いたその瞬間、空間が歪み始めた。

 塔の魔法陣が淡く光り、亡霊兵士たちが一斉に後退する。その動きはまるで何かの合図を待つかのようだった。

「……消えた?」

 レオンは警戒を解かぬまま辺りを見渡した。その視線は不穏な空間の変化を追い続けている。


 すると——


 ズズズズ……!


 塔の内部から、五つの影がゆっくりと現れた。

「なっ……!」

 影は漆黒の霧のように揺らぎながら実体を帯び、次第にその姿を明確にしていった。それぞれが圧倒的な存在感を持ち、ただ立っているだけで空気が重くなるようだった。


 鎧を纏った剣士——彼の槍は星の破片を思わせるほど鋭い輝きを放ち、その長大な形状は視界を貫くかのような存在感を放っている。槍を握る手は黒い篭手に包まれ、その動きは力強さと制御された精密さを象徴する。重厚な鎧が彼の体を包み込み、その表面が動くたびに金属が擦れる音が戦場に響き渡る。

 頭部は黒い霧に包まれており、その中には何も見えず、表情も目もない闇だけが広がっている。その存在は、戦場の覇者として君臨する無言の威圧を感じさせる。


 長大な槍を携えた騎士——彼の槍は異常なほど長く、先端は鋭く輝いている。その槍を握る手は黒い篭手に包まれ、力強さを象徴するような動きを見せる。重厚な甲冑がその体を包み込み、動くたびに金属同士が擦れる音が響く。

 彼の頭部は黒い霧に包まれており、その中には表情も目も見えない闇だけが広がっている。


 漆黒のローブを羽織った魔法使い——彼女のローブは風に揺れることなく静かに佇み、その裾から濃密な黒い霧が漏れ出して足元に絡みつく。手のひらには紫色の魔力が渦を巻き、不規則に脈動しながら放射状の光を生み出している。

 頭部を覆う黒いフードの奥には深い闇が広がり、目も鼻も口も見えず、完全な虚無を感じさせるその存在が異形の威圧を放つ。紫の光だけが彼女の力と不気味さを示すしるべとなっている。


 双剣を構えた暗殺者——彼の黒い服装は塔の影と完全に溶け合い、存在そのものが闇に吸い込まれるかのような不気味さを持つ。その双剣は冷たく鋭い輝きを放ち、刃には赤い光が宿り、切り裂かれる者の命を奪うために静かに震えている。動きは緩やかでありながら、次の瞬間には霧のように消え去る予兆を感じさせる。

 その頭部は影に包まれ、視線を受ける者に「空白」の感覚を与え、深い不安感を漂わせている。


 そして背中に翼を持つ弓兵——鋭い骨と薄い膜で構成された翼が冷たい風を巻き起こし、その動きは氷の破片が砕けるような音を立てている。その弓は金属で作られ、引き絞られた矢は黒い霧を纏い、静かに輝きながら目標を貫く運命を秘めている。

 その顔は黒い膜のような影に覆われており、表情も感情も見えないが、その姿は空と闇を支配する威厳を感じさせる。


 彼らは静けさの中に圧倒的な力を宿し、ただ立つだけで場の空気を押しつぶすような重圧を放っていた。塔の魔法陣が脈動する光を彼らの背後に映し出し、その異形さと威圧感がさらに際立っている。



「これは……いったい……?」

 カインが息を呑む中、レオンたちはその姿を見据え、静かな緊張感が場を包む。


「やれやれ、ようやく本番ってわけか」

 ヴォルフガングが剣を肩に担ぎながら、不敵に笑った。

 その余裕たっぷりな態度が、戦場の緊張感に火を注ぐようだった。言葉の端々には冷静さと挑発的な意図が見え隠れし、その声は空気を切り裂くかのように響く。

「こいつらを倒さねぇと、中には入れねぇってことか?」

 レオンもまた剣を構え、目の前の幻影たちを見据える。その刃は揺るがず、彼の目には鋼のような決意が宿っていた。静かに、しかし確かに、彼の内なる闘志が燃え上がっているのが感じられる。


「……そういうことみたいだな」

 マリオンが塔の文字を一つひとつ丁寧に解読し、静かに告げた。その声は冷たく澄み渡り、まるで塔そのものが彼女を通して語りかけているかのようだった。

「これは『試練』じゃ……彼らは、これまでの我々の戦いを見た上で、かつてこの大陸を守り、選ばれし者として戦った最強の戦士たちのデータをもとに作られた“最適解”の存在ということ……ここを越えた者だけが、"真実"に辿り着ける」

 その瞬間、塔全体が微かに震え、魔法陣がぼんやりと輝きを放ち始める。その光は生き物のように脈動し、空間全体を不気味な静けさで包み込んだ。


 カインが眉をひそめ、その目は遠い記憶を掘り起こすように細められている。

 彼女は先ほどの、レオンたちを測るように戦う円形の巨大な魔物の姿を、そしてこれまでの戦いで得た奇妙な感覚を思い返していた。

「私たちは戦いを通じて力を測られていた。これまでの戦いは、ただの前触れだったってことか」

 その言葉は、宙に揺れる魔法陣の光と重なり、空間に深い静寂を呼び寄せた。


「そうだな、全ては俺たちの能力を見極める『選別』だったんだ」

 レオンが静かに剣を握り直す。その動作は冷静でありながらも重い決意を感じさせ、今この瞬間が物語の転換点であることを強く印象付ける。

 塔から放たれる重圧は、目に見えぬ力のように彼らを包み込む。それはただの空気ではなく、何か古の意思が試験官としての役割を担い、彼らを見つめているかのようだった。


「なら、やるしかねぇな!」

 ヴォルフガングが剣を抜き、一歩前に出た。その目には冷たい確信と、試練を楽しんでいるかのような光が宿っていた。

「お前ら、どっちが先に突破できるか勝負だぜ?」

 挑発的な口調で告げるヴォルフガングに、レオンは深く息を吸い込んで応じた。

「……望むところだ!」

 レオンは剣を構え直し、その刃を幻影たちに向けた。その目には揺るぎない闘志が宿り、この試練を乗り越える決意が込められている。


 そして——


 最強の冒険者たちの幻影との、熾烈な戦いが始まった——!

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