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初陣!驚異の連携力

 俺たちは、初のダンジョン攻略に挑んだ。


「ここが『黒狼の巣窟』か……」

 ダンジョンの入り口には苔むした石碑が立ち、その表面には読めない古代文字が刻まれている。

 周囲には湿った土の匂いが漂い、どこか冷たい空気がまとわりつく。洞窟の奥から響く風の音は、まるで何かが低く唸っているようだった。

 ここはCランク相当の冒険者向けダンジョンで、黒狼やコボルトが生息しているとされている。

 仲間のひとりが小さく息を飲み、剣を握る手に力を込めた。初めて足を踏み入れる未知の領域に、一同の緊張が高まっていた。


「準備はいいか?」

 エルザが剣を抜きながら、仲間たちをぐるっと見渡す。その目には決意が宿っていた。

「もちろん!」

 リリスが笑いながら短剣を構える。

 俺たちは、魔物の奇襲に備えつつ、慎重にダンジョンの奥へ進んだ。

 

 そこに突然、闇の中から鋭い金色の瞳を持つ影が飛び出してきた。その影は低い唸り声をあげ、鋭い牙をむき出しにしてこちらに向かってくる。まるで空気が一瞬止まったかのような緊張が走った。

「黒狼だ!前衛頼む!」

「任せて!」

 エルザが素早く前へ出る。黒狼の鋭い爪が彼女の盾を掠めたが、彼女は微動だにしない。見事な盾さばきで敵の攻撃を受け流す。

 黒狼は一瞬飛びのき、再び襲いかかろうとする。

「カイン、援護を!」

「もうやってる」

 カインが詠唱を終えると、激しい雷撃が黒狼の足元に落ち、その動きを鈍らせた。

「リリス、今だ!」

「オッケー!」

 リリスが素早く背後に回り、短剣を一閃させる。その刃が黒狼の喉元を貫き、黒狼が低い唸り声とともに地面に崩れ落ちた。

「一体撃破。次!」


 次々と襲いかかる黒狼を、俺たちは、初めてとは思えないほど息の合った動きで撃破していった。

(すごい……こんなに戦いやすいなんて……)

 まさに『相性100%』の実力を実感する戦闘だった。


 俺たちはダンジョンの中層へと進みながら、戦いを重ねた。薄暗い通路には冷たい空気が漂い、どこかから魔物の気配がじっとりと感じられる。冷たい空気は肌にまとわりつき、足音が静寂に溶け込む。

 リリスが壁際に身を寄せ、小さな影に溶け込むように前方を偵察し、罠や待ち伏せの気配を探る。エルザが前衛で敵を引きつけ、カインが的確な魔法を放つ。そして、セシリアが回復魔法で戦闘の継続を支える。

 俺はそれぞれの動きを観察しながら、次の敵の動きを予測しつつ、仲間たちが無事に突破できるよう、必要に応じて補助魔法や指示を出した。


「こうやって見ると、俺たちの戦い方はバランスが取れているな」

「だねー!みんな動きが無駄なくて、楽しい戦闘って感じ!」

 リリスが軽やかに岩陰から飛び出しながら言う。

「戦いを楽しむ余裕があるなら、もう少し真面目に戦え」

 カインが冷たく言い放つ。

「もう、カインはそういうとこがダメなんだよ!せっかく楽しくやってるんだから、もうちょっと雰囲気を読んでさー」

「戦闘は効率が最優先だ。楽しいかどうかは関係ない」

 リリスがぷくっと頬を膨らませる。

「ほら、エルザも何か言ってやってよ!」

「私は……」

 エルザが言いかけたが、ふと視線をカインに向け、険しい表情になった。

「……いや、確かにカインの言う通りだ。戦闘は生き残るためのものだ。遊びじゃない」

「エルザ、お前までそんなこと言うの!?」

 リリスがガックリと肩を落とす。


 カインはそれを見て、少しだけ目を細めた。

「理解がある者がいて助かるよ」

「別に、お前の考えに全面的に賛成してるわけじゃない」

 エルザがすぐさま言葉を返す。

「ただ、私たちはパーティを組んだばかりだ。今は戦い方を固める時期だろう?」

「その通りだ。無駄な動きは減らすべきだ」

「無駄って……リリスの動きは偵察にも役立ってるし、敵を撹乱するのに重要だと思うけど?」

 俺がそう言うと、カインが一瞬口をつぐんだ。

「……それは否定しない。ただ、もっと合理的に動けるはずだ」

「もう、カインってば頑固なんだから!」

 リリスが拗ねたように言うが、その目はどこか楽しそうだった。


 セシリアが苦笑しながら場を収める。

「まあまあ、こうやって意見を出し合えるのもいいことですわ。少しずつ、最適な戦い方を見つけましょう」

「そうだな……」


 俺たちは再び前へ進んだ。

 道中、レオンたちは細かい連携を確認しながら戦闘をこなした。エルザの防御を軸にしつつ、カインの魔法のタイミングを調整し、リリスの奇襲が決定打となるように動く。セシリアの支援が加わることで、誰も大きな負傷を負うことなく進めていた。

「やっぱり、こうやって実戦を通してお互いを知るのが大事だな」

 俺が言う。

「そうね。まだ改善の余地はあるけれど、悪くはないわ」

 エルザが頷く。

「ま、私は最初から完璧なんだけどね!」

 リリスが得意げに笑う。

「お前が言うと冗談にしか聞こえないな」と俺が苦笑すると、リリスは「ひどいなぁ」と肩をすくめた。


 そんな穏やかなやり取りの中で、俺はエルザとカインがまた少し険悪な雰囲気になっているのを感じ取った。ふとエルザがカインに鋭い視線を投げるが、カインは無表情でそれを受け流す。そのわずかな仕草が、微妙な緊張をはらんでいた。

 そんな中、俺たちはさらにダンジョンの奥へと進んでいった。冷たい空気が肌にまとわりつき、奥からかすかな足音のような音が聞こえる。不安を感じさせるような静けさが支配していた。

 

 しかし、この時、俺はまだ気づいていなかった。

 エルザとカインの衝突が、やがて大きな問題へと発展することを。

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