新たな出会い
王都の学術地区にある巨大な図書館。その厳格な雰囲気の中で、レオンたちはゼルヴァ王国や封印の谷について調べていた。膨大な蔵書が並ぶ静寂の空間には、研究者や学者たちが行き交っている。
「しかし、これだけの本があっても、核心に触れる情報がほとんど見つからないな……」
レオンが溜息をつきながら、積み上げた古書を見つめる。リリスも退屈そうに椅子の背にもたれかかっていた。
「さすがに禁忌に関わる内容は、そう簡単には見つからないか……」
カインが冷静に分析する。セシリアも静かに本をめくっていたが、その表情は険しい。
そのとき、不意にエルザが顔を上げた。
「そろそろ来るころね」
その言葉とほぼ同時に、硬質な靴音が床に響く。ゆっくりとした足取りで、ひとりの老婆がこちらへと近づいてくる。
「お前たち、ただの冒険者にしては熱心に調べているようだな」
振り向くと、そこには白髪を長く伸ばし、深緑のローブを纏った小柄な老婆が立っていた。その鋭い眼差しは、まるでレオンたちを値踏みするかのようだ。
「マリオンさん、お待ちしていました」
エルザが一歩前に出ると、老婆はわずかに目を細めた。
「ほう……約束通り来たか、小娘。」
「エルザ、この人知り合い?」
リリスが怪訝そうに尋ねると、エルザは頷いた。
「レオンたちにも話したと思うけど、私が話を聞かせてもらった方よ。……マリオン・ルヴェルさん。ゼルヴァ王国の歴史と封印の谷について研究している学者よ」
「焔の魔女、と呼ばれた時代もあったがな」
マリオンは軽く肩をすくめながら答える。
「ふん……見当違いな本ばかり漁っているようだな。その程度の情報で、封印の谷に行こうというのか?」
挑発的な言葉に、リリスが頬を膨らませる。
「なんだよこのババア……急に出てきて偉そうに……」
「ババア? 口の減らない小娘だな」
マリオンは眉をひそめたが、なぜか少しだけ口元が緩んでいるようにも見えた。
「私に何の用だ? まさかゼルヴァ王国の真実を知りたいとでも言うのか?」
「そうだ」
レオンが真剣な眼差しで答える。
「俺たちは、アプリの異常とゼルヴァ王国の遺産が関係しているかもしれないと考えている。情報が必要なんだ」
マリオンはその言葉を聞いて、一瞬目を細めた。
「……なるほど、ただの好奇心ではなさそうだな。しかし、歴史を知ることは簡単ではない。封印の谷に足を踏み入れた者の多くは帰ってこなかった。それでも行くというのか?」
「もちろん」
レオンの即答に、マリオンはじっと彼を見つめた。
「……ふむ」
短く唸った後、彼女は懐から小さな袋を取り出し、中から飴玉を一つ取り出す。
「では試してやろう」
「試す?」
「私がする質問に答えられたら、お前たちに協力してやる」
そう言うと、マリオンはゼルヴァ王国に関する問を次々と問いかけた。
「ゼルヴァ王国の最後の王の名は?」
「ゼルヴァ四世……?」
「違う。四世は正式に即位していない」
「ゼルヴァ王国の滅亡のきっかけとなった事件の名称は?」
「『紅の落日』……だったか?」
「ほう……まあ、悪くない」
レオンたちは知識を総動員して答えていくが、いくつかの問いには答えられなかった。
「……まあ、その程度だろうな」
マリオンは呆れたようにため息をつきながらも、どこか満足そうに頷いた。
「それでも、お前たちの目は本気のようだ。仕方ない、私が知っていることを教えてやる。ただし、覚悟はしておけ」
そう言って飴を口に放り込みながら、マリオンは歩き出した。
「……なんなんだよ、あのババア」
リリスはまだ不満げだったが、マリオンが懐からもう一つの飴を取り出し、無言でリリスに差し出した。
「……?」
リリスが戸惑いながら受け取ると、マリオンはわずかに口元を緩めた。
「行くぞ、小娘ども」
こうして、封印の谷への旅が始まるのだった。