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マッチングアプリで最強パーティを作った結果!!!  作者: MMM
月時計の神殿編(ヴォルフガング)

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誇りの残響

 いまだ溢れる光の中――

 その中心に、ヴォルフガングは立っていた。

 その身にまとうのは、まるで時間に抗い続けた者のような重み。


 だが、その影は微かに揺らぎ、記憶の迷宮から抜け出そうとする気配がある。

 視線は足元ではなく、はるか遠くを見つめている。

 そこに映るのは、これまでと違う世界。

 そしてその瞳には少年の面影はなく、ただ深い決意と消せぬ哀しみが宿っていた。

 

 記憶の世界から戻りつつある今、ヴォルフガングの内面には、かつてないほど多くの想いが渦巻いていた。

 ──あのとき、自分にもっと力があれば。

 何度繰り返したか知れぬ問いだった。


 ベールフェルト公爵家の屋敷を襲った傭兵たち。

 砕かれた門、響く戦いの音――

 父は最後まで抗い、そして倒れた。

 その背は揺るがず、剣を振るい続けた。

 しかし、圧倒的な数の前に、その刃はついに止まった。


 炎が屋敷を包み込む中――

 兄・エドアルドは、ヴォルフガングを抱えて必死に駆けた。

 その腕の力強さと、必死の形相。

 兄は、なおも逃げ道を切り開いてくれた。


 それでももし、あのとき自分に力があれば。

 あの場で共に戦えたなら。

 兄を死なせることなく、生き延びる道もあったのではないか?

 父も、家も、すべてを守れたのではないか?


 風がかすかに流れ、ヴォルフガングは静かに息を詰める。

 その胸の奥で、答えのない問いが今もなお、静かに揺れていた。

 その悔しさが、ヴォルフガングの原動力だった。

 力がなければ、何も守れない。 力がなければ、大切なものを奪われる。


『力なき者は、悪だ』

 そう信じて生きてきた。

 どれだけ手を汚そうと、どれだけ心をすり減らそうと、力を得るために歩み続けてきた。

 だがいつの間にか、その目的はすり替わっていた。

 力を得ることそのものが、人生の目標になっていた。

 いつしか「守るための力」は、「ただ得るための力」へと変わっていた。

 アプリが課す“試練”さえ、もはや力を求める行為の一部に過ぎなくなっていた。

 


 思考の渦の中、ふと封印の谷でのマリオンの姿が、ヴォルフガングの記憶の奥からゆっくりと浮かび上がる。

 あの日、マリオンは静かに言った。

「……力と“強さ”は違うのよ」

 その言葉が、今になって微かに響く。

 戦場で対峙した彼女――魔法使いであり、厳格でありながらも、根の部分では優しさを秘めた人だった。

 そのときは、ただの言葉として流れていった。

 だが今、ヴォルフガングは、ようやくその意味が分かりかけている気がした。


 父の“強さ”とは何だったのか。

 それは、最後まで誇りを捨てなかったこと。

 理不尽な冤罪に晒されながらも、民と家族のために戦い、最期まで逃げなかったこと。


 兄の“強さ”とは何だったのか。

 弟を守ると決め、その命を懸けて守り抜いたこと。

 自分が死ぬと分かっていても、怯えずに前へ進み、そして……笑っていたこと。


 そう。

 二人とも、力だけではなく、“信念”と“誇り”を貫いた。

 それが本当の“強さ”だった。


 そしてマリオンも、同じだった。

 己の過去と向き合い、"選別"という理不尽な仕組みに抗い、若き冒険者たちを守ろうとした。

 それが、マリオンの戦いだった。



 ヴォルフガングは、ゆっくりと目を閉じた。

 深く息を吸い込み、その胸の奥に沈み込んでいた記憶を、ひとつずつ手繰り寄せる。

 父が遺したもの。

 兄が繋いでくれた命。

 マリオンの想い。


 それらは、ヴォルフガングの中に確かに存在し――

 だが、どう受け止めて進むべきなのか。

 その答えは、まだ見つかっていない。


 しかし、一つだけ、確かなものがあった。

 ヴォルフガングは、ゆっくりと拳を握る。

「……俺は向き合う。過去にも、自分にも。そして、この力にも」

 その言葉を紡ぐと同時に、ヴォルフガングの指先が僅かに震えた。

 光の色が変わり始める。

 白く澄んだ輝きは、徐々に淡くなり、辺りに漂っていた柔らかな温もりが少しずつ冷たくなっていく。


 ヴォルフガングは、一歩を踏み出した。

 まだ迷いは完全には消えない。

 だが、その歩みは確かだった。


 やがて、光の輪郭が滲み始め――

 廃墟の気配が、ゆっくりと戻り始めた。

 古い石の冷たい匂い。

 足元に広がるひび割れた床。

 どこか遠くで、風が細く吹き抜ける音。


 夢のような記憶は、まだ完全には消えない。

 だが、現実の影は確実に迫っていた。


 ヴォルフガングは、ゆっくりと息を吐く。

 この場所に戻るのは、もうすぐだった。

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