隠された王国の遺産
重厚な扉を押し開くと、中には無数の古い書物が並ぶ大広間が広がっていた。書物から漂うかすかな古い紙の香りが大広間を満たしており、魔導灯の明かりが微かに揺れていた。
「ここがギルドの地下書庫ですか……」
セシリアが感嘆の声を漏らす。
「手分けして調べよう。ゼルヴァ王国の技術やアプリに関する記述があるはずだ」
レオンの指示のもと、各々が手分けして文献を調査し始めた。
リリスは素早く棚を巡りながら手がかりを探し、カインは慎重に一冊一冊を手に取って分析を進めた。
カインが埃を払いつつ、書棚の奥にあった一冊の古びた本を取り出す。
「これは……!」
カインが震える手で本を開くと、かすかな古いインクの香りが漂い、黄色く変色したページが現れた。
「『ゼルヴァ王国の遺産と選別の法』……」
レオンたちはカインの周りに集まり、本の内容を覗き込んだ。その視線の先には、王国の滅びと謎めいた技術の記録が広がっていた。
「滅びたゼルヴァ王国の技術が、この世界の運命を選別していた……」
記録には、ゼルヴァ王国がかつて人類を導くための特別な選別機能を持つ、複雑な魔法と融合させた技術を作り出していたことが記されていた。
さらに、アプリのような機能を持つ装置が、王国の支配層によって利用されていたことも判明する。
「まさか……『マッチング・アドベンチャー』が、その技術の名残だというのか?」
レオンが息をのむ。
「この本によれば、ゼルヴァ王国では優れた資質を持つ者同士を結びつけ、王国の繁栄を支える選ばれし者を作り出そうとしていた……」
セシリアが慎重にページをめくると、その記述は次第に驚きへと変わっていく。
「それって……今のアプリと同じだよね」
リリスが不安げな声を漏らす。その声は、過去の技術と現代の現実が重なったことへの戸惑いを反映していた。
さらに本を読み進めると、ある記述が目に入った。
「アプリを使ったパーティが次々と消えていった……?」
「どういうことだ?」
レオンは眉をひそめ、険しい表情でカインに問いかける。
「詳細は書かれていない。でも、この技術がかつて何らかの理由で封印された可能性が高い」
カインが冷静に分析する。その声には一切の動揺がなく、状況を的確に見据えているようだった。
「……俺たちは、知らず知らずのうちに、ゼルヴァ王国の遺産に導かれていたってことか」
レオンは剣を握りしめた。
「ここにある情報をまとめて、ギルドに報告しよう」
「ええ……でも、どうやら誰かがこの情報を隠そうとしていた形跡もありますわ」
セシリアが指摘する。
「となると、ギルドの中にも、この秘密を知る者がいる可能性があるな……」
その瞬間、背後で不気味な殺気が走り、冷たい風が肌を刺すように包み込んだ。
「避けろ!」
レオンの警告と同時に、黒いフードをまとった男たちが闇の中から現れ、感情のない瞳をのぞかせながら鋭い刃を振り下ろしてきた。
「敵襲!? どうしてこんな場所に……!」
リリスが素早く跳び退ると同時に、セシリアが神聖魔法を展開する。 眩い光の防壁が空間を包み込み、男たちの攻撃の進行を防いだ。
「これは……ギルドの者ではないわね」
セシリアが冷静に防壁の向こうを見据えながら呟いた。
「我々は、王国の意思を守る者……」
フードの男が低く呟く。その声には冷たく威圧的な響きが宿っていた。
「王国の意思だと……?」
レオンが剣を構えると、男は冷たく嗤った。
「無駄な詮索は不要だ。お前たちはここで消える」
次の瞬間、刺客の一人が魔法陣を展開し、黒炎が放たれた。
「っく! こいつら、ただの刺客じゃない!」
カインが雷撃を放つが、敵の魔法障壁に阻まれる。
「防御術式も扱えるなんて、本気で仕留めに来てるね……!」
リリスが素早くナイフを投げるが、敵は軽やかにかわし、隙を見せない。
レオンは間合いを詰め、一撃を繰り出すが、敵は素早い動きで回避し、逆に剣の柄でカウンターを狙ってくる。
「エルザがいれば、この間合いを突破できたかもしれない……!」
戦力差を痛感しながら、レオンたちは防戦に回る。
「まずい……このままじゃ、ここで潰される……!」
「煙幕よ!」
リリスが煙玉を投げた。玉が爆ぜると白い煙が空間を埋め尽くし、一瞬で敵の視界を奪った。
「今のうちに!」
レオンたちは撤退し、書庫の奥から抜け出した。
敵が追いかけてくる気配はない。
「……なぜ、追ってこない?」
レオンは振り返る。
敵のリーダーらしき男が書庫の奥に佇み、闇に溶け込むように静かに呟いた。
「選別は、まだ終わっていない……」
その言葉の意味を理解する前に、レオンたちは重い足音を響かせながらギルドへと急ぎ戻った。その背後に、不気味な言葉の響きが尾を引いていた。
ただ一つ、確信したことがある。
「これは、ただのギルドの問題じゃない……」
レオンは拳を握りしめ、その手の中に次なる闘いへの覚悟を宿していた。
この戦いが、自分たちの力を試す序章に過ぎないことを痛感しながら。