地下書庫への道
レオンたちが所属する国は、アルヴァン王国。この王国は大陸の中央部に位置し、広大な草原と山脈に囲まれた地形を持つ。
アルヴァン王国の首都であるルミナスは、大陸でも有数の交易都市であり、多くの冒険者が集まる拠点となっている。その街並みには様々な文化が混ざり合い、市場には遠方から持ち込まれた珍しい品々が並び、冒険者たちの熱気と活気が溢れていた。
アルヴァン王国の冒険者ギルドの本部もこのルミナスに存在し、巨大な石造りの建物が堂々とその中心部にそびえ立っていた。広々とした前庭には見事な階段が設けられ、その堅牢な造りは見る者に深い印象を与える。また壁には王国の象徴である黄金の紋章が刻まれており、その威厳ある姿は冒険者たちの憧れの的だった。
ここはギルド全体の運営を担う重要な拠点であり、このため、冒険者に関する情報や依頼が集まり、ギルドの影響力は王国の政治にも関与するほど強大だった。
レオンたちはギルドの受付に向かい、地下書庫の閲覧許可を求めた。
「地下書庫に入るには、ギルドマスターの許可が必要なんだろ?」
リリスが退屈そうにしながらも、周囲をきょろきょろと見渡している。
「ええ。重要な文献が保管されている場所だから、無闇に出入りできるわけじゃないわ。」
カインが静かに答える。
受付の女性が申し訳なさそうに首を振った。
「申し訳ありませんが、ギルドマスターとの面会は基本的に事前の予約が必要です。」
「だよなぁ……どうする?」
レオンが困ったように考え込んでいると、後ろから落ち着いた声が聞こえた。
「話は聞かせてもらった。地下書庫の件なら、私が仲介しよう。」
振り向くと、そこには副ギルドマスターのエドモンド・ヴァイスが立っていた。知的な雰囲気を持つ中年の男で、物腰は柔らかく、穏やかな口調だった。
「君たちの調査は興味深い。確かに、アプリの全貌を知ることはギルドにとっても有益だろう。」
エドモンドがそう言うと、受付の女性も少し驚いた表情を見せた。
「副ギルドマスターが許可するのであれば……では、案内いたします。」
こうして、レオンたちはエドモンドの取りなしでギルドマスターとの面会を果たすことになった。
執務室の扉をノックすると、中から低く重厚な声が響いた。
「入れ」
扉を開けると、そこには威厳に満ちた壮年の男がいた。ガラハッド・ストラウスは鋭い眼光を持つ大柄な男で、かつて戦場を駆け巡っていたことが一目で分かる風格だった。
「レオン・アーデルか。話は聞いている」
「ギルドの地下書庫を閲覧させていただきたい。アプリ『マッチング・アドベンチャー』の詳細を知るために。」
レオンは単刀直入に要件を伝えた。
ガラハッドは腕を組みながら、じっとレオンたちを見つめる。その鋭い視線には、慎重さとわずかな疑念が宿っているようだった。
「地下書庫はギルドの秘匿情報が多く含まれている。軽々しく許可を出せる場所ではない」
「しかし、すでにギルドの公式支援ツールとして使われているアプリです。にも関わらず、その全貌が不透明なのは問題では?」
カインが冷静に言葉を継いだ。その声には冷静さの中に鋭い主張が込められていた。
ガラハッドは少し考え込むように目を閉じた。すると、エドモンドが口を開いた。
「……確かに、彼らの言い分は一理ある。ギルドとしても、このアプリの全貌を把握しておくべきではないか?」
その落ち着いた態度に、リリスは小さく「頼りになりそうな人だね」と呟いた。
「うむ……確かに。」
ガラハッドはしばしの沈黙の後、重い口を開いた。
「お前たちの熱意は分かった。だが、地下書庫の閲覧には、厳格な審査が必要だ。」
「……それはどれくらい時間がかかるんだ?」
レオンが問いかけると、ガラハッドは微かに笑った。
「少なくとも数日だな。だが、すぐに決定できる方法もある。」
「何ですか?」
レオンが即座に聞き返すと、ガラハッドは少し間を置いて答えた。
「ギルド内での信頼を示せばいい。たとえば、何か有益な貢献をするとか、問題を解決するとか……」
その言葉に、リリスが興味を引かれたように身を乗り出す。
「つまり、ギルドの依頼をこなせば、閲覧許可が下りる可能性が高くなるってこと?」
「そういうことだ。」
その瞬間、突如としてギルド内が騒然となった。
「なんだ!?」
廊下の向こうから悲鳴が聞こえ、レオンたちはすぐに駆け出した。
ギルドの広間では、数体の魔物が暴れ回っていた。巨大な体に赤く光る目、鋭い爪が床を深くえぐるたびに火花が散る。
「魔物!? ギルド内に!?」
その異様な光景に、セシリアが驚きの声を上げる。
「ギルドの結界があるはずなのに……まさか!」
カインが驚愕の表情を浮かべた。
「通常の結界なら魔物の侵入を防げるはず……これがアプリの異常と関係あるなら、ただ事じゃないな」
ガラハッドは低く唸りながら、魔物に鋭い視線を向けた。
「アプリが魔物の行動に影響を及ぼすなど、前例がない。しかし、この状況を見れば疑わざるを得んな」
その冷静な声が、場の緊張感をさらに高める。
リリスが素早く短剣を抜き、魔物に向かって飛びかかった。
「考えるのは後! まずはこいつらを倒す!」
レオンの叫びを合図に、彼らはギルド内での戦闘に突入した。
エルザ不在の影響で防御が手薄になり、リリスとカインがカバーに回るが、全体の連携が乱れて思うように戦えない。
果たして、この魔物の暴走の原因は何なのか。
その答えを求める戦いが、今、始まった。