闇を裂き、光を示す-1
ヴォルフガングは、新たな試練の場所を示すアプリの通知を見た後、短く息を吐いた。
剣の柄に触れる指先。戦場の血と泥にまみれた手が、確かな決意を宿している。
ヴォルフガングの視線は、冷静で鋭い。
その視線の先――魔物が低く唸る。闇の中で爪が光り、咆哮が静寂を断ち切る。
「時間は惜しい……だが、ここで背を向けるわけにはいかんな」
その声は迷いなく、戦場の空気を切り裂く。
「だよな……こんな奴らを野放しにしてくのは、ちょっと気分悪いし?」
エレーナの軽快な声が響く。
しかし、その言葉の奥には確かな闘志が滲んでいた。
エレーナが一歩前へと踏み出す。
黒く短い髪が軽やかに翻り、剣の刃が闇の中で瞬く。
その動きは、無駄がない。
迷いもない。
眼差しは鋭く、一切の恐怖も躊躇もなかった。
戦場は、次の瞬間――再び炎を上げる。
「シグルドとエレーナは、後方から支援を頼む。フレイヤ、右の群れを焼け、数が多い。ルガス、お前は左を抑えろ。俺は中央を抜く」
ヴォルフガングの声が戦場に鋭く響く。
その言葉が落ちた瞬間――
ブラッドレイヴンの面々は、一切の迷いなく動き出した。
磨き上げられた歯車が噛み合うように、流れるような連携。
無駄な動作は一切ない。
炎の軌跡が空を走り、矢が影を貫く。
剣が舞い、槍が唸る。
赤髪の魔術師フレイヤが微笑む。
「まとめて灰にしてあげるわ。」
その言葉は軽やかだが――
彼女の足元には、すでに赤黒い魔法陣が脈動していた。
不吉な光が戦場に染み渡り、空気がひどく重くなる。
魔物の数は二十を超える。
すべてが異形。腐肉を纏い、瘴気を撒き散らしながら暴れ狂っていた。
その存在だけで、常人ならば膝を折るだろう。
だが――ブラッドレイヴンの誰一人として、怯む者はいなかった。
「……灰に還れ」
燃え上がる呪文の詠唱とともに――
炎が唸りを上げる。灼熱の奔流が地を這い、戦場を覆い尽くす。
轟音とともに爆ぜる火柱。
炎の波が押し寄せ、魔物たちの咆哮が断末魔へと変わる。灼熱に焼かれながら、何匹かが崩れ落ちた。
それは、始まりに過ぎない。
その隙を縫って――
ルガスの槍が唸りを上げた。筋骨隆々としたその体は、揺るぎなく戦場にそびえ立つ。
鋼鉄の槍が空気を裂き、重厚な一撃が放たれる。突き出された刃は、寸分の迷いもなく魔物を貫いた。
骨を砕き、血飛沫が弧を描く。地面が沈み、魔物が断末魔の咆哮を上げる――
しかし、ルガスの瞳は何も変わらない。
無口な彼は、一言も発さず。感情を挟むことなく、ただヴォルフガングの視線に従い、次の動作へ移る。
戦場に響くのは、槍の唸りと、倒れゆく魔物の最後の声のみ。
後方から、シグルドの矢が放たれる。鋭く、しかし流れるように。
放たれた一本一本が、まるで呼吸するかのように滑らかに飛翔する。軌道は揺るぎなく、群れから突出しようとする獣の眉間を正確に射抜いていく。
狙いは狂わない。
刹那の間もなく、次の矢。弦が震え、再び矢が空を裂く。
彼の手元には迷いは一切なかった。
狩りはまだ続く。
エレーナは、戦線を維持するように、舞うような動きで群れを翻弄する。
黒髪が風を切り、短剣が銀の閃光を描く。その刃が一体の魔物を貫いた。
咆哮が断ち切られ、倒れる影。
だが――彼女は息を止めることなく、その手をかざす。
指先に魔力が滲み、鮮やかな光が瞬く。素早く味方へ回復の魔法を飛ばした。
その瞬間、戦場の流れがわずかに変わる。
ブラッドレイヴンの連携は、揺るぎなく――
鮮やかに戦場を刻んでいく。




