9 もう大丈夫だ少年!
勝ったーッ!
私勝っちゃったよ!
リアルで、剣と盾で!
ゲームじゃない、本物のガチバトルしてスケルトン相手に勝っちゃったー!!
ひゃっほーい!!
私が主人公だー!
アイアムウィナーッ!!
って、そうだ少年!
あともう一体死にかけのスケルトンもいる!
慌てて辺りを見回すけれど、初擊でダウンしてたスケルトンはどこにもいなかった。
耐えきれずに塵になったのかな?
というか今さらながら、スケルトンって死ぬと塵になるのね。
ファンタジー小説なんかじゃよく見る設定だから違和感はないけど、やっぱり不思議と言えば不思議だよね。
魂が姿を保てなくなった~とか、そんな感じかな?
まぁ、ファンタジー特有の奇天烈現象の解明なんてしなくていいんだけど。
一応敵がいないことを確認して、剣を鞘に戻す。
そのまま、まだ倒れている少年の前に歩く。
最初も警戒してるみたいだったし、剣を構えて近付くのは失礼だしね。
ただ、まぁ、うん。
私が思うにこの少年、人間じゃなさそうなんだよねー。
多分。
おそらく。
「大丈夫か、少年?」
「※※※※※※※ッ!!」
手を差し出してみるけど、強い口調で何かを言われた。
言語はやっぱり分からん。
多分「近寄るな人間!」って感じのニュアンスでしょうねー。
まぁ、なんとなく読めてはいたけどね。
この子は、おそらくゴブリンだろう。
イヤ、確信があるわけじゃなくて、「ファンタジー世界で緑色の肌」はゴブリンかなー……って思っただけなんだけどね?
しかし、ゴブリンか。
前世じゃちびっちゃいゴブリンとか、割と人間に近い美男美女のゴブリンとか、色々な種類がゲームとかに登場してたっけ。
目の前の少年、いや、青年の方が正しいかな?
ともかく、目の前のゴブリンくんの見た目はかなり人間らしい。
彫りの深い顔に、深い緑色の長髪。
真っ赤な眼に若干尖った耳と、確かにゴブリンと言えばゴブリンっぽい。
めちゃくちゃイケメンだけどな。
ゴブリンがイケメンじゃないって言いたいんじゃないからね?
ゴブリンに対してのヘイトスピーチじゃないからな?
私にもその顔面偏差値よこしやがれ!
「※※※※※※※?※※※※※※※※※※※!?」
えーと、えーと?
うん、分からん。
誰か通訳プリーズ!
スマートな電話を持ってきてくれ!!
某ネット先生ならなんとか翻訳できたりしない?
異世界言語は対応してなさそうだなー。
とりあえず、敵意がないことをゴブリンくんに伝えなければ。
まず私を指差し、その次にゴブリンくんを指差す。
その後、服を捲ってお腹の包帯を見せる。
最後にゴブリンくんを指差す。
私、キミ、治療、したい。
オーケー?
「※※※※※※※※……!※※※※※※※※※※!!」
ダメか。
ええい、次だ!
ベルトポーチの剣を指差し、その後全力で首を振る。
剣、なーい。
キミ、斬らなーい。
どうだ!?
「……※※※※※※※※。※※※※※※※※※※※※※※※※※。」
うぐ、これでもダメか。
うーん、うーん……
よっしゃ、分かった。
ならこれならどうだ!
ベルトに吊るした剣を掴む。
ゴブリンくんが身構えるけど、私は反対の方向を向く。
「いやァーッ!!」
「……!?」
くるくると剣が飛んでいき、10メートルは離れた位置に落ちた。
ついでに左腕の円盾も同じように投げる。
おー、なんかフリスビーみたーい!
楽しーい!
やってる場合か。
改めて、ゴブリンくんに向き直る。
指を指し、再び私のお腹の包帯を見せる。
そして、そっと手を伸ばす。
「ダメかな?」
ゴブリンくんが下を向く。
数秒、何か考えるような間を置いて、
「……※※※※※」
明らかな、拒絶以外の反応。
なんとなく嬉しくて、ゴブリンくんの手を強く引っ張った。