2 故郷が燃えるとか復讐モノだけでやれ
食べかけの握り飯を食べきって、とりあえず歩く。
文句言ってても仕方ないし、とりあえず行動しよう。
目指すはレストラン。
今のところ、私が唯一頼れる場所だからだ。
私は家とかないし、住み込みで働くつもりだったし。
元より私、捨て子らしいからなー。
ちっちゃい頃は教会で育てられたけど、そこでの暮らしも割とアレだったし。
なんなら逃げて、そこら辺の店とかで日雇い暮らししてたからなー。
路地裏の石畳は寝辛いなんてもんじゃない。
不埒なおっさんが絡んできた数なんて両手じゃ数えきれない。
金的キックしてやって逃げてたけどな!
アテが無いなんてレベルじゃねー。
てなわけで、レストランへGO!
誰かがまだ居るかもしれないし。
生き残った先輩方がいれば、もうその人のヒモにでもなろうかしら。
荒廃した街で一人生きていく自信なんてないです、はい……
だってこの世界モンスターとか普通にいるし!
一般ピーポーである私が魔物とバトルなんてしたら、速攻死ぬ未来しか見えない。
逃げるコマンドオンリー。
いのちだいじに。
生きてるだけで丸儲けってね。
お前転生者だろって?
舐めとんちゃうぞゴラ!
スキルだのステータスだのがあるラノベじゃないんだよ!
転生者だからってチート無双私TUEEEEな環境を築けると思うなよアホが!!
こちとら捨て子で日雇い人だわボケが!!
ついでに私もう17だぞ!
この世界だったらそろそろいい旦那様を探してる年代だよ!
私なんかを欲しがる旦那様なんていないだろうがなァ!
と、なんとか独り言吐きつつたどり着きました。
なんだか涙が頬を流れてるけど、なんでだろうね?
さーて、人はいるかなー?
青い屋根のてっぺんに立てられていた、食堂を示す鍋の絵の旗。
それが、半壊した食堂の入り口に落ちている。
そっと中を覗いてみれば、しんと静まった空気が私を受け入れてくれた。
どう考えても人なんていないです対戦ありがとうございました!
まぁね、知ってたよ。
周りの建物が全部瓦礫になってるんだから。
レストランなんて残ってるわけないよねー。
はー。
どうしよ……
とりあえず、中に入ってみる。
こういうところで気を抜くと死ぬと、私の勘が告げている。
フラグ建築ダメ。
アンブッシュ警戒大事。
若干用心して歩き回ってみたけど、魔物も何もいないみたいで少しだけ安心。
人もいないのは嬉しくないんだけどね……
しかし、人がいないってことはここで何しようと私の勝手なわけだ。
ってことで、食料とかお金なんかをあらかた集めてみた。
え?空き巣?
何言ってるか分からないなー。
だってー、もうこの街誰もいないしー?
私だってこのままだと死んじゃうしー?
きっとこの物資は私へ託した物だったんだよ!
新人にとっても優しいレストランだったな……
ありがとう、先輩たち!
貴方たちの死は無駄にはしないぜ!!
……そういえばこの世界ってモンスターいるな。
悪霊とか怨霊とかっていたりする?
……すんません、マジ勘弁ッス。
塩撒いとくか、塩。
その後しばらくして。
リュックとベルトポーチ、その他旅用の色々をレストランから拝借した。
イヤー、一仕事したぜ!
思ったより、というかお金が全然なかったんだけど何故だろう……?
知らなかっただけで、この店潰れる寸前だったりしたのかな?
シケてやがるぜ。
食料に関しても同じく。
私だけなら数日は持つくらいあるけど、全部はリュックに入りきらないので断念。
後はバンダナとか替えの作業着とか、料理用のナイフなんかもリュックに詰める。
ここを拠点にしてしばらく過ごすってのも一応考えた。
けど、今この街って別に安全ではないんだよね。
ワイバーンくんのせいで戦士とかも居なくなっちゃったし、何より私一人で身を守れるとは思えない。
だったら、少しでも時間があるうちに他の街へ逃げようという判断なのです。
あ、この世界普通に戦士とか魔法使いいます。
ただ基本、才能がモノ言う職業だけどね……
私も魔法使いたいなーとか思ったよ。
無理でした。
まず魔力が感知できなきゃ話にならない。
感知できる才能があるところからスタート。
んなもんねーよボケが!
で、ここから一番近い街は、歩いて3日はかかる場所にある。
街が丸ごと全滅しちゃった以上、助けが来る可能性は捨てておいた方がよさそう。
さーて、そうと決まれば今日はここで過ごそうか。
今から出発してもすぐ日が暮れるだろうし、何より疲れた。
イヤ、改めてなんだけどさ?
いきなり故郷燃やされて生き残りは私一人とかどういう状況よ。
自身に振りかかるとトンデモ人生すぎる。
心労とストレスで死ぬわ。
……アカン、本気で考えすぎるとホントに死ぬ。
空元気でもいいからとりあえず動かなきゃ。
店の裏手に回る。
奥にあった調理師用の部屋のドアを開ければ、ちょっとした仮眠室があった。
幸い原型は留めてるし、一晩寝るだけならなんとかなりそう。
ちょこんと部屋の隅に置かれているベッドは、この世界じゃちょっと珍しい羊毛製だ。
わらのベットにシーツがこの世界のスタンダードなので、なかなか贅沢である。
店長が寝てたりしてたのかな?
……ちょっと嫌な想像してしもうた。
えーい、知ったことか!
頭を無にしてベットにダイブ。
若干ベッドに沈み込んだ後、素晴らしい包容感が私に襲い掛かる。
うっひょー!
石畳とはレベルが違うぜ!
もっふもふで気持ちいい。
寝がえりしても痛くないってのはいいもんだ。
あー、眠くなってきた。
リュックをまさぐって、適当に見つけていた干し肉を引っ張り出す。
そのまま口に放り込む。
もぐもぐ。
美味し。
何の肉かは知らんけど。
塩と若干炙られて干された肉の食感が素晴らしい。
何の肉かは知らんけど。
やっぱり塩って偉大だ。
ん、なんか顔がヒリヒリする。
顔、だけじゃないな?
なんか、上半身が若干ヒリヒリする。
この感触はアレか、食べ物で回復してる時の感触だ。
干し肉程度じゃ大した傷は治せないけどね。
けど私、別に怪我なんてしてないんだけどな?
えーと、鏡あったっけ?
たまたま傍の棚にかけてあった鏡を覗き込む。
ンブッ!?
口の右側から首にかけて、思いっきりやけど傷が伸びている。
慌てて服を脱ぐ。
上半身全裸になりつつ鏡を見れば、口から腰までやけど傷で真っ赤に覆われていた。
え、えぇ……?
うっそでしょ……?
一応よく見てみれば、そこまでひどいものじゃなく、ただ表面が赤くなっているだけだった。
今まで気付かなかったのは、既に傷自体は治癒していたからなのか。
こんな傷いつ作ったんだろ……?
んー……
あ、そうだ、瓦礫に埋もれてた時か。
しばらく気を失ってたっぽいし、その時に焼けちゃったのかも。
たまたま食べてたまかないである程度は回復したのかな。
なんたる偶然。
これもあの店長のおかげか。
ありがたやー。
私も早く一人前の治料理人にならないとなー。
こんな傷があったんじゃ、銭湯とかに入ってどんな目を向けられることか。
私は気にせず入るけども。
街へたどり着くまでは我慢だけどね。
考えたら眠くなってきた。
やけど傷もビックリしたけど、ただ赤いだけだし実害はない。
なんならちょっとオシャレな刺青だと思えばカッコよくない?
カッコよくはないか。
死ななきゃ安い。
とりあえず、寝よう。
寝なきゃ始まらん。
あ、もうちょっとだけ干し肉食べておこう。
もぐもぐ。
やはり美味し。
上半身がちょっとピリピリするけど、治ってる証拠だと思うことにする。
ふぁーぁ。
んー、眠い。
寝よう。
おやすみなさい。