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聖女は職場の老害に似てる、と元社畜転生者は言った

作者: 廃くじら

「……人目もはばからず、お盛んなことだ」


遠目に王立学園の中庭で繰り広げられる学生たちの茶番劇を見つめながら、俺は『こんなテンプレがあっていいのか』と自分が仕組んだことながら失笑を隠せずにいた。


物語の主要人物は三──いや、四人。


一人目はこのラザリアの第一王子、王太子アレン。

恐らく世の女性たちが“貴公子”と聞いて思い浮かべる理想を体現したような金髪碧眼の美男子。純粋培養で年相応にやや頼りないところはあるものの、周囲からは能力は優秀で善良な人物と評価を受けている。


二人目はエレナ・ラフォール侯爵令嬢、王太子の婚約者。

銀髪銀目の人形のような怜悧な美貌を持つ美女であり、神の現身たる精霊の加護を宿した聖女。本来なら王太子の側で交流を深めるべき人物だが、彼女は遠目に冷たい眼差しで王太子とその横で微笑む少女を見つめていた。


三人目はアナイス。ただのアナイスだ。

平民出身だが高い精霊への感応力を持ち、特待生として学園への入学を許された少女。エレナとは正反対のゆるふわ系。長い金髪と青い瞳の美しい容姿の持ち主で男たちからの人気も高い。一部には聖女エレナに劣らぬ資質を持つアナイスを、本来あり得ぬ“二人目の聖女”と呼ぶ者さえいる。


王太子アレンもアナイスを“聖女”と呼ぶ者の一人。

学園の中庭でアレンとアナイスが親し気に談笑する光景は見慣れたものであり、学内でアレンがアナイスに向ける寵を知らぬ者はいなかった。


同時にアレンの婚約者であるエレナには、同情、憐み、嘲笑、様々な感情が向けられることに。


そして四人目は留学生ラインハルト・ジュノー。

帝国の第三皇子であり、アレンたちより三歳年上。褐色肌で体格の良い色気溢れる美男子だが、今はエレナに意味ありげな視線を送っていた。


「ここまでは計画通り。だが本番はこれからだ」


物語のテンプレ通りなら貴族の聖女は王太子に婚約破棄され帝国の皇子がそれを掻っ攫っていくのだろうが、流石に王太子もそんな愚かな選択をするはずがない。


聖女の存在はこの国にとって絶対。代替品が現れようと婚約破棄なんてこの国が認めるはずがない。


「根回し十分、細工は流々、後は仕上げを御覧じろってな──神々よ、今こそ決別の時だ」


物語の始まりは今から十三年前に遡る。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「や、やめて、貴方──!」

「うるせぇ!! 疲れて帰ってきた亭主を出迎えもせず何寝てやがんだ! ひっく……っ!」

「悪阻なの! わ、私のお腹には赤ちゃんがいるのよ!?」

「妊娠は病気じゃねぇんだ! なに怠けてやが──ぐぉっ!?」


五歳。前世の知識と記憶を取り戻し、己の身に宿る力を自覚したタイミングで、俺は目の前で騒ぐ今世の父親を魔力を込めた足で蹴り飛ばした。


酔っぱらっていた父親は無様に転がり悲鳴を上げる。


「て、てめぇ、ラザロ! 父親に向かって何を──」


──ボゥッ!!


「──ヒゥッ!?」


振り返り文句を言おうとした父親は、俺が魔力で生み出した大人の頭ほどの大きさの【火球】を見て顔を引きつらせ息を呑んだ。


今世での俺は生まれながらに高い魔力を持って生まれたらしい。

普通は魔力があってもそれを魔術として行使するには相応の精神的成熟を必要とするそうだが、俺の場合は現代日本で生きた前世の記憶を引き継いだ影響か、誰に習うでもなく魔力を制御できていた。


ボンヤリと前世の記憶が戻り始めたのが約一年前。

半年ほど前からはある程度魔力を制御できるようになっていて、俺がこうして父親を叩きのめすのは初めてではない。


「ガタガタうるせぇ。戻ってきたなら飯作って便所掃除でもしてろ」

「はぁ!? お、俺は一日働いて疲れて──」

「疲労は病気じゃねぇだろ。怠けるな」

「な──!?」


妻への八つ当たりと同じセリフを子供に吐き捨てられて父親は絶句。


反論の言葉はあっただろうが、既に俺との力の差を理解している父親は「クソッ」と毒づいて言われた通り台所へとコソコソ消えていった。


「…………」


庇われた形の母親だが、彼女は彼女で俺の異常性に怯え、部屋の隅で毛布にくるまり身体を震わせている。


まあこれは仕方ない。

そもそも俺は別に母親を庇ったわけではなく、単に父親がムカついたので蹴り飛ばしただけなのだから。


ただの八つ当たりに過ぎないし、何なら父親が母親に当たっていたことさえ、同情はしないがやむを得ないことだと理解はできた。




最近ようやく理解したことだが、俺が生まれたこの世界はとても貧しい。


いや、正確には俺が住むこの土地が、と言うべきか。


俺たちが住む国は代々精霊の加護厚い聖女を輩出し、その恩恵を受けて繁栄する大陸屈指の大国ロザリア。


国力で言えば決して貧しいはずがないのだが、広い国土全てに聖女の恩恵が及ぶわけではない。むしろ国全体が聖女の恩恵に頼りきりな分、辺境の地の貧しさは他国よりも酷い。


そしてここまで言えば予想はつくだろうが、俺たちが住んでいるのはロザリアでも最辺境とされるコーラル男爵領。土地が荒れて農作物がまともに育たないだけでなく、凶悪な魔物が跋扈し、その被害は他領の比ではない。


俺の父親はその男爵家に仕える衛兵の一人だ。

任務中は常に死の危険が付きまとい、昨日酒を酌み交わした同僚が今日は冷たくなっていることなど日常茶飯事。同情はできないが、家族に八つ当たりをしてしまうその心境は理解できなくはない。


──全くクソみたいな環境だ。


俺がこの魔力を周囲のために使えば多少状況は改善するのかもしれないが、わざわざ異世界転生までして社畜よろしくただ周囲のために駆けずり回るのか。


それが自分勝手な発想であることは理解してる。


だが『仕方ない』『抗う手段があるだけ恵まれている』と自分に言い聞かせながら、俺は記憶を取り戻して以来ずっとイライラしていた。




「──なるほど、聞いていた通り面白い子供だね」


そんな言葉と共に、ノックもなく無遠慮に家の中に入り込んできたのは品の良さそうな老婦人だ。


俺は無言でギロリと彼女を睨みつけ、言葉の続きを待つ。


「おや? 驚かないのかい」

「……魔術でずっと見られてたことは気づいてた」


俺の言葉に老婦人は一瞬目を丸くし、そして面白そうに口元を緩める。


「ハハ……グレンの息子が幼いながら魔術を扱う麒麟児だと聞いて見に来たのだけれど、とんだ過小評価だったようだ」

「……回りくどい。何の用だ?」


非礼ともとれる俺の態度に、その老婦人は怒るどころか機嫌よく目を細めた。


「なに。今、うちの領は人手不足でね。子供だろうと優秀な魔導士なら使い道がないかと見に来たんだが……気が変わった」


うちの領? それはつまり──


「お前、私の息子になるつもりはないかい?」

「──領主様!?」


老婦人の言葉に、その時ようやく彼女の存在に気づいた母親の言葉が重なった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


翌日俺は一人で領主の館を訪れていた。


「悪いが茶菓子は切らしててね。これで我慢しておくれ」


そう言って老婦人は手ずからお茶を淹れ、干し葡萄の載った小皿を出してくれた。


「……どうも」


頭を下げてカップに口を付けながら、チラリと部屋の中を見回す。


質素で物のない応接室。掃除だけは行き届いているようだが、とても貴族の屋敷とは思えない。お茶も──何か野草を煎じたものなのか雑味が強い。個人的には嫌いではないが、間違っても貴族が飲むものではなかった。


「……ホントに貴族だったんですね」

「何だ。疑ってたのかい?」

「付き人も連れず平民の家に突然やってくる貴族なんて聞いたことありません」

「ククッ、そりゃそうだ」


俺の言葉に気を悪くした様子もなく、むしろ機嫌良さそうに笑う老婦人。


「だが見ての通り、付き人を雇うほどの余裕はうちには無くてね。お前の母親──ヒルダも昔はここで働いてもらってたんだが、今じゃ碌に働けない爺と婆しかいやしないよ」

「……なるほど」


母との関係、使用人を見かけなかった理由、領地の厳しい状況、様々な意味合いを込めて頷きを返す。


「それで、早速本題なんだが──」




老婦人はエルフリーデ・コーラル男爵夫人と名乗った。


彼女はこのコーラル男爵領の現領主であり、男爵家最後の血族。五〇歳を超えて未婚で、跡を継いでくれる子供もいないと自虐的に笑う。


元々彼女には兄がいて、そちらが男爵家を継ぐ予定だったそうだが、彼女が二〇歳の時に魔物災害が発生し、両親と兄が死亡。急遽唯一の血族である彼女が跡を継ぐことになった。


本来であるならばその後彼女は婿を取って跡取りを作らなければならなかったのだが、コーラル領の貧しさは王国内でも有名で、好き好んでこんなところに婿入りしてくる貴族などいやしない。ついでに言えば、当時の彼女が既に貴族としては嫁き遅れであったこともよくなかった。


貴族同士の伝手もない彼女では婿どころか貴族の養子を取ることさえままならない。


長年苦心して領地を維持してきたが、彼女の人生にも先が見え、もはや領地を王家に返還せざるを得ない状況に陥った。


しかし恥を忍んでその旨を王家に連絡したところ返ってきた返事は、


『返還は認めず。養子をとり次期コーラル男爵として育成せよ。なお、特例により後継者の血の色は問わぬものとする』




「要はこんな貧乏領地、王家どころかどこの貴族も欲しくないって言ってるのさ。平民でもいいからそいつに経営させろ。こっちに迷惑をかけるな、ってね」

「……そんなことあるんですか?」


男爵夫人の口から語られたコーラル領を取り巻く現状に、思わず呆気に取られる。


前世で読んだファンタジー小説のイメージだと、家を継ぐことができず平民落ちする貴族とか跡を継ぎたいと希望する者はいくらでもいそうなものだが……


「この国の貴族にとって領地ってのは『聖女の恩恵が及ぶ豊かな土地』のことだからね。赤字続きで危険なだけの領地経営なんて誰もやりたがりゃしないよ。実際、私の両親も兄も貧乏暮らしの働きづめで、最後は魔物と戦って命を落とした」


逆の立場なら私も死んでもこんなクソ領地関わりたくないね、と男爵夫人は肩を竦める。


想像していた以上にクソな環境だが、しかしなるほど。


「……事情は大体分かりました。要するにその厄介事の押し付け先として、俺に白羽の矢が立ったということですか」


言葉の内容は刺々しいが、俺は別に怒ってはいない。むしろ厄介事を押し付けるならもっと美辞麗句を並べて上手くやれと呆れているだけだ。


男爵夫人は自分もカップに口を付けて喉を潤しながら、どこか投げやりな態度で頷く。


「その通りだ。もちろんこれは強制じゃないから、断ってもらっても咎めはしない」

「……いいんですか?」


少し意外だ。他に後継者のアテがあるということだろうか?


「ああ。お前さんに声をかけたのは単に思い付きだ。後継ぎが見つからなかったところで困るのは私じゃなくて王都の連中だ。かまいやしないよ」


違ったらしい。しかし本当にどうでも良いと思っているなら、どうして態々俺に声をかけたのだろうか?


そんな疑問が表情に出ていたのか、男爵夫人は少し遠い目をして口を開いた。


「……その歳でそれだけの魔術が使える人間なんて大陸中探してもそうはいない。かの聖女の恩恵ほどじゃないにしろ、それを領地のために振るってもらえればこの不毛の地も少しはマシになるかもと思ったのさ」


仕方ないことと割り切ってはいても先祖代々、彼女自身が生涯を捧げてきた領地だ。思い入れがないはずがないし、少しでも希望が見えたなら、つい手を伸ばしてしまうのも道理だろう。


「だがそれはあくまで私の都合だ。それだけの才能があればこんな貧乏領地の領主になんざならなくたって、魔導士としていくらでも栄達の道はある。お前さんにとっちゃむしろ迷惑な話だろうし、強制する気はない」

「…………なるほど」


そう言った男爵夫人の表情には、精一杯の誠実さと僅かばかりの苦悩が滲んでいた。


事情と意図は理解した。

さて、その上で俺はどうしたものか──ふと、前世の会社員時代の嫌な記憶が頭をよぎり、溜息を吐く。同時に、この世界に転生して以降ずっとイラついている事柄とそれを覆すシナリオに思い至る。


「…………こういう星の下なのかね」

「ん? 何だって?」


漏れ出た呟きは男爵夫人には聞き取れなかったらしい。


「いえ……息子にならないかというお申し出、お受けします」

「……いいのかい?」


男爵夫人は自分から誘っておきながら、まさか本当に引き受けるとは思わなかったと言いたげに目を丸くする。まあ、あの誘い方ではそう思うのも仕方ないか。


「はい。ただし、条件が二つ」

「聞こう」

「一つは両親に相応の支度金と他領への移住許可を」

「当然だね」


男爵夫人は言われるまでもないと頷く。

別にこれは両親への恩返しでも疎んでいるからでもない。彼らが領内に留まっていれば、彼らの存在が利用され、あるいは不要な干渉を受けるリスクがある。領外への移住はいわば当然の措置だ。またそれは両親にとっても望むところだろう。


そしてこの時俺の頭の中には、男爵夫人が思い描いていたのとは違う一つの構想が浮かんでいた。


「もう一つ───俺は一生馬車馬のように働くつもりはありません。その為に男爵夫人にもご協力をお願いしますよ」


──その一月後、俺は正式に男爵家に養子入りし、ラザロ・コーラルとなった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


そして時は流れ現在。

王都ロザリアの王立学園では、俺と同世代の学生の卒業パーティーが盛大に執り行われようとしていた。


俺もパーティーの参加者ではあるが卒業生ではない。というかそもそも学園には通っていない。


貧乏僻地のコーラル領、しかも一〇年以上前から領地で働き詰めの俺がどうして優雅に王都の学園に通う余裕などあろうものか。


そんな俺がわざわざこうして学園を訪れているのは、表向き学園の卒業資格の認定のためだ。こういうと「ん?」と思われるかもしれないが、貴族が領主や武官・文官として働くためには原則として学園の卒業資格が必要となる。その為、ほとんどの貴族の子弟はこの王都の学園に通うことになるのだが、何らかの事情で学園に通えない者は当然にいる。そしてそれがやむを得ない事情によるものと判断された場合には、簡単な試験を受けたうえで卒業と同等の資格を得ることができた。


俺の場合は五年前に男爵夫人が倒れ、既に男爵位を引き継ぎ実務を行っていたことが“やむを得ない事情”に該当する。いや、男爵夫人は今もかくしゃくと働いているのだが、俺に学園に通っている余裕がなかったのでそういうことにした。


認定試験は形式的なものなので当然に合格。

別にパーティーになど参加せずこのまま自領に帰ってもよかったのだが、知人や近隣領主への挨拶のために参加することにした。


──とまあそれはただの建前で、実際はこれから起こるショーの結末を見届けるためだ。




「歓談中のところ申し訳ない。私から一つ、この場を借りて皆に発表したいことがある!」


パーティーの最中、壇上に登ったアレン王太子の声が会場に響いた。


何事か、と皆の注目が王太子に集まる中、彼は落ち着いた表情で話し始める。


「私は現在、今代の聖女であるラフォール侯爵令嬢と婚約を結んでいる。これは王家と聖女との繋がりを強め、より豊かな国づくりを目的とした古来からの慣習によるものだ」


──ザワ


日頃の王太子の行動と合わせて考えればやや不穏当な想像を掻き立てる出だしに、会場にいる者たちが僅かにざわめく。


視線は自然と名前の出たラフォール侯爵令嬢とその父親である侯爵に集まるが、彼らも王太子が何を言い出したのか寝耳に水といった表情だ。


「国家繁栄のための聖婚であると同時に、私自身、彼女を妻に迎えられることをとても嬉しく思っている」


そう口にした王太子の表情に嘘は見えない。


「半年後に予定された聖婚──私はここにもう一つ慶事を加えたい」


王太子は背後に控えていた女性──アナイスを左手で示し自分の横に並ばせた。


「学園に通う者ならば彼女のことは知っているだろう。平民の出でありながら精霊の加護厚く、第二の聖女とも呼ばれている女性だ」


皆が『まさか!?』という表情をする中、王太子は堂々と宣言した。


「私はここに、このアナイスを妻として王家に迎えることを発表する」


突然の発表に事態が掴めず皆が目を白黒させる中、王太子は穏やかな表情で続ける。


「アナイスの立場は側妃ということになるが、王家とこのロザリアに精霊の更なる加護を迎えられることを陛下もいたくお喜びであった。皆もどうかこの慶事を共に祝って欲しい」

『────』


会場にいた人間は、王太子の発言の意味を即座には理解できず、一瞬反応が遅れる。


まず『陛下もいたくお喜びであった』──つまりこれは王太子の独断でも暴走でもなく、王家が認めた婚約発表であるということ。


一方ラフォール侯爵令嬢たちは王太子の発言に驚愕している。王太子とアナイスの婚約が侯爵家に無断で結ばれたことは誰の目にも明らかだった。


だがこれがラフォール侯爵家を著しく蔑ろにした発表かというと……そうでもない。


そもそも王位継承者を確保するため、王あるいは王太子が複数の妻を娶ることはこの国では一般的であり、特に咎められるものではない。いずれアレン王太子が側妃を迎えることは正妃となる侯爵令嬢も当然に理解していたはずだ。


一般的には正妃の立場を尊重し、側妃を迎えるのは正妃との婚姻後、一年程度は時間を空けるものだが、同時に側妃を迎えた例が過去にないわけではない。


無論、正妃とその生家に事前に話が通っていなかったことは問題だが、王位継承者の婚姻に異議を唱えれば、侯爵家の方が『外戚の立場を利用して国政に口出ししようとしている』と非難を受けかねない。また婚姻時期をずらすよう願い出ても、王は『平民出の側妃が正妃の立場を脅かせようはずもない』と笑い飛ばして終わりだろう。


侯爵家としては平民出の女と一緒くたに扱われること自体不快だろうが、学園を卒業した平民には一代貴族としての地位が認められるため、形式的には妾ではなく側妃として迎えても支障はない。


一部の貴族は、王家がラフォール侯爵家の過度な勢力拡大を防ぐため、ワザと情報を伝えなかったのだと解釈した。


侯爵家を聖女──王太子妃の生家として尊重し、決して蔑ろにはしない。だが聖女というカードは絶対ではなく、その立場を利用して国政に口出しすることは許さないという意思表示だ。


このタイミングまで黙っていたのは、侯爵家の側からこの婚約を破談にすることを防ぐため。


聖女の婚姻は国家の大事であり、それに関する王命を拒否することは許されない。もし破談にしようというのなら王家に反逆するだけの覚悟が必要となる。事前に分かっていたならまだしも、そんなものが婚姻までのたった半年で準備できるはずがなかった。


つまり侯爵家としては屈辱こそあっても、この発表を粛々と受け入れざるを得ない状況と言える。


そして学園での王太子の振る舞いを知る者は同時に、ラフォール侯爵令嬢の心中に同情せざるを得なかった。


王太子は学園において決して節度のない振る舞いをしていたわけではない。アナイスとは親しくしていたが、ベタベタと触れ合ったり、男女の仲を匂わせるような行動にまでは出ていなかった。しかし一方で、傍目に侯爵令嬢よりアナイスを気に入っているように見えたことも確かだった。


ラフォール侯爵令嬢は一度だけそのことに苦言を呈したそうだが、


『王族として、本来あり得ない二人目の聖女と呼ばれる彼女の力に興味があってね』


と王太子に真面目な顔で返されそれっきり。

王族がアナイスの力に興味を持つのは立場的にも当然で、そこに過度に口出しすれば王太子からは醜い嫉妬に狂った女と映ってしまう。どうせ学生の間だけの浮気ですらない関係なのだからと、侯爵令嬢はこのことについて口を噤み、我慢すると決めた。


しかしアナイスが側妃となれば話は別。

否が応でも王太子からの寵を比較されることとなる。


何だかんだ最低限の節度はある王太子のこと、あからさまにアナイスだけを寵愛するようなことはあるまいが、どうしたって差は現れるものだ。


万が一にも側妃の方が先に子を産むようなことがあれば──


学生たちは侯爵令嬢が感情の読みにくい怜悧な美貌の下に抱く激情を予感し、静かに同情し、身を震わせた。



だが、そうした王家と侯爵家の思惑と立場を理解した上で、貴族の子弟たちは何が最善かを僅か一呼吸の間に判断する。


「──王太子殿下、万歳!」


最初にそう発言したのは、ラフォール侯爵令嬢とも親しかった伯爵家の令息。


そして最初の一声が上がると、旗色を鮮明にすべく皆堰を切ったように次々と声を上げていく。


「ご聖婚おめでとうございます、殿下!」

「殿下、聖女様、どうぞお幸せに!」

「ロザリア王家に栄光あれ!」


場の空気はあっという間に王太子支持で固まり、彼が片手を上げてそれに応えると、ワッと歓声があがる。


『…………』


──そんな中、俺は王太子たちへの歓声が鳴り響く会場で、冷ややかな目でそれを見つめている者たちを確認し、そっと会場を後にした。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


そして卒業パーティーから三か月後。

コーラル領の領主館で俺は王都に潜り込ませた協力者からの報告に目を通し、それを義母たる前男爵夫人にポンと投げ渡す。


彼女は老眼鏡をかけてその内容に目を通すと失笑を漏らした。


「何々……ロザリア王家、反逆者たるラフォール侯爵と手を結んだジュノー帝国に宣戦布告を行うも、貴族たちの足並みが揃わず、未だ開戦に踏み切れず──カカッ、お粗末なことだね」

「そう言わないでやってください。王家からすれば予想外の事態が二つ──いや、三つも続いたんだ。多少の手並みの悪さは仕方ありませんよ」


忠実な臣下として王家をフォローする俺に、義母は呆れたように失笑の色を深めた。


「はっ! その予想外を仕組んだ張本人がよく言うよ」




あの卒業パーティーの日から今日まで、何があったかを軽く説明しておこう。


簡単に言えば王家の娘に対する扱いに怒ったラフォール侯爵が、ロザリア王国から隣接するジュノー帝国に領地ごと乗り換えることを宣言。同時に聖女たる侯爵令嬢と留学生であった第三皇子ラインハルトとの婚約が発表された。


この間、僅か一月足らず。


こんな短期間でどうやって、と驚愕する王家だったが、侯爵家の寝返りは勿論、国家繁栄の要たる聖女を隣国に奪われて黙っているわけにはいかない。すぐさま帝国にラフォール侯爵家を即刻引き渡すよう抗議し、応じない場合は開戦に踏み切る旨を宣言した。


国力では帝国よりもロザリアの方が上。戦いになればロザリアが圧倒的に有利だ。


だがここで王家に二つ目の予想外が襲い掛かる。

いや、ある意味当然のことだったのだが──ロザリアから聖女の恩恵が失われたのだ。


聖女の恩恵により天候や豊作に恵まれ、魔物被害からも守られてきたロザリアは突然の環境変化に大きく混乱した。


何より王家にとってマズかったのは、期待していた平民の聖女──アナイスがこの事態に全く役に立たず、周囲のプレッシャーに耐えかねたのか行方をくらましてしまったことだ。


王家と王国に更なる繁栄をと言って平民の聖女を持ち上げた挙句、それが実際には役立たずで、しかも本命の聖女を失ったとあっては貴族や国民たちの王家に対する心証は最悪。王はこの状況を受け全ての罪を王太子に擦り付け、彼を廃嫡することで事態の鎮静化を図ろうとした。


その程度で王家への不満が解消されるはずもないが、皆この事態に『聖女を帝国から取り返さねばならない』という点では意見が一致しているはず。聖女を取り戻した上で、反逆したラフォール侯爵家を取り潰し、領地や権益を分け与えてやれば貴族たちの不満は収まるだろうと、王は予想していた。


だがそうはならなかった。


王家を襲った第三の予想外──それは、国内の三分の一近い数の貴族が、今は国内の安定に努めるべきと出兵に反対したことだ。


『仮に聖女を力ずくで取り戻しても、その恩恵がロザリアに戻るとは限らない』


それが彼らの主張。逆に聖女を取り戻してから考えればいいと主張する者も多かったが、今聖女の恩恵は帝国にある。取り戻しても無駄だったというだけならまだいいが、


『戦争に聖女の力が及び、我が国が敗北するようなことがあればどうする?』


と言われて、出兵を強硬に主張することは難しかった。


結局ロザリア王家は未だ宣戦布告を取り下げてこそいないものの、兵が集まらず宣言が宙に浮いた状態。恐らくはこのまま出兵もできないまま、口先だけの抗議で終わってしまうのだろう、というのが王都に潜り込ませた協力者の見方だ。




「ま、こちらにとっては概ね予定通りではあります」

「概ね? 何もかもの間違いだろう?」


皮肉気にこちらの顔を覗き込む義母に、俺は肩を竦めて言った。


「概ねですよ。俺もこんなに上手くいくとは予想していなかったので」

「カハッ」


悪人め、とでも言いたげに義母が嗤う。

他の人間に嗤われるならまだしも、共犯者である彼女に嗤われるのだけは心外だ。


何より今回は平和的にことを起こす唯一無二の機会。絶対に失敗できない以上、最悪を想定して手を打つのは当然のことではないか。


「王家もまるで想像できなかっただろうね。まさかこうまでして国から聖女を排除したがる貴族がいるなんて」


義母の言葉通り、今回の一件はこの国から聖女を追い出すために俺が裏で仕組んだこと。


そしてこれは同時に、俺がコーラル領の後継者となることを決めた際、義母に協力を要請したことでもある。


別に他所の領地がコーラル領と違って聖女の恩恵を受けていてムカつくとか、他所が弱ったこのタイミングで自領の勢力を拡大してやろうとか、そんなことを考えて実行したわけではない。


そもそもコーラル領を立て直すだけなら聖女の恩恵などなくとも何とかなる。というか何とかした。


これまで俺は魔術の才をフル活用して魔物を排除し、領内の治安を回復させ、他国まで行って傭兵まがいのことまでして金を稼ぎ、その金で人材を招聘、治水農業に始まり特別な個人に依存しない汎用的な技術を導入することで領地経営を安定させてきた。


コーラル領だけのことを考えるならそれで十分だっただろうが、国全体に目を向ければロザリアは依然巨大な爆弾を抱えた状態であり、いつそれが爆発しコーラル領にも影響を及ぼすか分からない。


俺がこの国で安心して暮らしていくためには、聖女を排除することが不可欠だった。


しかし聖女は強力な加護に護られているため、暗殺などの安易な手段はとれない。彼女に自発的にこの国から出て行ってもらうため、最初にその受け入れ先を探した。そして目を付けたのがラフォール侯爵領に隣接するジュノー帝国。その後何年もかけて王家、ラフォール侯爵家、ジュノー帝国に人を送り込み、金を握らせて情報を集め、今回の筋書きを作り上げた。


王家がラフォール侯爵家の勢力を抑え込もうとしたのも、ラフォール侯爵家と帝国に予めパイプが出来上がっていたことも、帝国に今回の王家の動きが事前に漏れていたことも、全てこちらが送り込んだ人間──または協力者の情報操作によるものだ。


そして当然──


「ああ、もう──つっかれた……っ」


ノックもなく無遠慮に領主の執務室に入ってきたのは俺と同年代の黒髪の少女。無礼極まりない態度ではあるが、俺も義母も咎めることなく彼女を出迎えた。


「やあ、随分お疲れだね」


少女はギロリと俺を睨み、不機嫌そうにドスッとソファーに腰掛けて愚痴を吐いた。


「あったり前でしょ。王都から追手を撒いて逃げ回って、足がつかないように他国を三つも経由して……あたしもう、一生旅行は御免だわ」

「それだけじゃない。長年の任務、苦労をかけたね──アナイス」


そう。この黒髪の少女こそが平民の聖女と呼ばれ王太子の側妃候補ともなったあのアナイス。


聖女追放計画の核であった彼女も当然俺の仕込みであり最も信頼のおける腹心の一人だ。学園に通わせていた時のゆるふわ金髪姿は変装で、今の素顔とは似ても似つかない。


ちなみに王家の事前調査をすり抜けられるよう、学園に通っていた時の戸籍や身分、アナイスという名前は偽造したものではなく本物だ。任務を終えた彼女には改めて家族と共に別の戸籍と名前が与えられることになっている。


聖女を偽装していたのは俺が自作した魔道具によるもの。といって、流石に俺でもゼロから聖女のごとき力を発揮する魔道具など作れよう筈もない。俺が作ったのは本物の聖女の力を借り受け利用する魔道具。例えるなら、隣の家の水道管から水をコッソリ抜き取るパイプのようなものとでも言えばいいか。


膨大な加護を常時受け続けている聖女は、多少その力を中抜きされたところで当人にはほとんど影響がないし、検針機があるわけではないので異常に気付く術もない。


聖女が近くにいる限りその力を使い放題という画期的な魔道具だが、当然寄生相手が他国に行けば役立たず。力を失った後、王家を騙したアナイスの逃亡はまさしく命がけのものだったろう。


それを理解しているからこそ俺も義母も彼女に最大限の感謝を抱き、義母は手ずから彼女にお茶を淹れてもてなした。


「はい。まぁ、一息つきな」

「……どうも」


アナイスは素直にカップに口をつけ、ホッと息を吐く。


そしてその後彼女は、しばし俺と義母に報告がてら逃亡時の苦労話をしていたのだが、それがひと段落したタイミングで、ふと思い出したように疑問を口にした。


「……そう言えば他の領地もいくつか通ってきたけど、意外と混乱は少なかったわ。聖女の恩恵が失われたとなったら、もっと酷いことになってるもんだと思ってたけど……」

「ま、何人かの領主には事前に今回の計画について話を通して、対策を取ってもらってたからね」


そしてそれこそが一部の国内貴族が出兵に反対していた本当の理由でもある。


事前に計画を知っていたのはごく一部だが、彼らは聖女を追放したいという俺たちの考えに最初から賛同していたのだ。


「それがよく分からないのよね。コーラル領みたいな聖女の恩恵のない僻地ならともかく、どうして今まで聖女の恩恵を受けて発展してきた領主が聖女を追放することに賛同するのかしら?」

「そりゃ聖女が替えのきかない存在になっていたからだよ」


不思議そうに首を傾げるアナイスに、俺はアッサリと答えた。


「? 替えがきかないのに……追放しちゃうの?」

「正確には替えのきかない存在“だった”。聖女の恩恵抜きでもそれなりにやっていけるってことはうちの領の発展が証明したからね。替えが見つかったから今のうちに交換しとこうって話さ」


俺の言葉にアナイスは余計意味が分からないと眉を顰める。


「どういうこと? 発展したって言っても、聖女の恩恵がある方が有利なことには変わりないでしょ?」

「便利なものに頼ってる限り結局切り替えが進まないからね」


俺は前世のサラリーマン時代を思い出しながら、彼女にも分かるよう説明を続けた。


「言うなれば聖女ってのは職場のお局様みたいなものさ。長年勤めてるから色んな仕事を知ってる。何かあればみんな彼女に頼るし、彼女しか知らない仕事もたくさんある」

「……いい人じゃん」

「同僚から見たらそうかもね。でも上司や経営者としてみれば、そういう替えのきかない人材ってのは厄介なんだよ。彼女に何かあれば途端に仕事が回らなくなるし、他の誰かに引き継がせようにも仕事を抱え込んで手放してくれない」


聖女の場合は決して自己保身や悪意からではないが、他者に仕事を引き継げないという点では共通している。


「その上便利なのが余計性質が悪い。人間、必要に迫られないと中々動けないからね。聖女がいる限り何もしなくたって国や領地の繁栄が約束されてるんだ。地味な治水だ農政改革だのと、わざわざ互換性があるだけの劣った施策に取り組もうなんて思わないだろう?」

「ん~……よく分かんないわね。いや、聖女がいる限り国内改革が進まないっていう理屈は分かるんだけど、将来が不安だからって、みすみす今の繁栄を手放すものかしら?」

「将来と言わず、領主である以上、皆不安は抱いていたんだと思うよ」

「何に対して?」

「自分の命運がたった一人の人間に握られていることに対して」


まともな領主であれば、たった一人の替えのきかない人間に国の命運を託すリスクは当然に理解していただろう。


当然、万一聖女がいなくなった場合に備えて対策を練ることも考えたはずだ。


だが聖女の恩恵はあまりに大きく、深くこの国に根付いている。例えば天候一つとっても、この国のほとんどの地域では数百年に渡って日照りも洪水も起きたことがない。他国では当然に行われている治水工事さえ、このロザリアでは無用の長物だった。


もし万一に備えて対策をとるとすれば、当然この治水工事を実施するということになるのだが、治水工事など軽い掛け捨ての保険感覚でどうにかできるものではない。そんなあるかどうかも分からない万一のために多大な負担を課すとなれば民の反発は必至。しかも自分たちには治水のノウハウなどなく、何から手を付けたらいいのかも定かではない。


これを治水に限らず、農業、治安対策など、聖女がカバーしてきた領域に対し一つ一つ対策をとっていかなければならないのだが、聖女の恩恵が失われた場合にどこまで影響が及ぶかなど、実際に聖女がいなくなってみなければ分からない部分が多い。


「皆対策は取りたかったけど、具体的にどうすればいいのか分からなかったわけね」

「ああ。だが今は違う。このコーラル領が聖女の恩恵抜きで領地運営を安定させたモデルケースになったからな」


そこまで説明してアナイスは得心した様子で頷いた。


「つまり、コーラル領はそのノウハウを餌に目端の利く領主を取り込んでいったわけね」

「そういうこと」


聖女の恩恵が失われたことで、国内の領主たちは今後の対策に追われている。そしてその対策を既に終えており、国内で一番のノウハウを持っているのがコーラル領。既に各地の領主たちから力を貸してほしいとの要請が山のように届いていた。


だが現実問題、我が領で対策に取り組んできた技術者や監督者の数は有限で、一度に支援できる領地は限られている。そして我が領の支援を優先的に受けられるのは事前に協力してくれた領主たち。彼らはこれを機に国内での勢力を拡大し、しかも早く対策を終えれば逆に自分たちが他領の支援に回って一儲けできると張り切っている。


当然、コーラル領の経済はこの特需で右肩上がり。

小心者で善人揃いの部下たちは儲けすぎて刺されるんじゃないかと怯えているが、前世でクソの役にも立たないノウハウと知見を売りつけて大儲けしていたコンサル会社に比べれば自分たちは何千倍も良心的だ。これからも胸を張って稼いでやる。


「でも大丈夫なの? 国内問題はそれで片付くかもしれないけど、聖女を得た帝国が弱ったロザリアに攻め込んでくる可能性もあるんじゃない? 聖女を粗雑に扱った報復だって言えば大義名分は立つし、帝国に統合されればまた聖女の恩恵にあずかれるって考える人間も出てくるだろうから、実際攻め込まれたら戦いにすらならないと思うけど」


アナイスの懸念は当然に俺達も考えたことだ。


「問題ない。これまでお前の安全のために情報は伏せてきたが、うちの王家だけじゃなく帝国やラフォール侯爵家、聖女の周辺にもうちの手の者はいる。こっちに手出しさせないよう対策はしてあるよ」

「具体的には?」

「帝国側に正しい情報を伝えてもらったりだな。例えば『聖女の恩恵はロザリア全土をカバーできていなかった』とか」


その言葉の意味をアナイスは一瞬考えこみ、そしてすぐに理解した様子で大きく頷いた。


「……なるほど。帝国の領土はロザリアより広い。帝国内で聖女の恩恵の引っ張り合いを誘発させて、これ以上領土を広げるのは好ましくないって考えを帝国に植え付けたわけね」

「その通り。ついでに言えば俺たちに協力してくれた貴族の一部は現在でもラフォール侯爵家や聖女との友好関係を維持してる。ロザリアと戦端を開くことは聖女の不興を買う恐れがあるって噂をそれとなく流してもらってるから、今すぐ帝国がロザリアに攻め込んでくることはないと思うよ」


また帝国には第三皇子を通じて、時間が経てば聖女の恩恵により帝国の国力は増し、逆にロザリアの国力はどんどん衰退するという考えを植え付けてある。帝国首脳陣は焦って攻め込まずとも、放っておけばロザリアが自滅し、頭を下げてくるのではと考えているはずだ。


ただこちらもロザリアの国内対策にはある程度目途を立てたうえで計画を実行に移しているし、聖女の周辺には様々な毒饅頭を仕込んでいるので帝国が思い通り発展するとも限らない。


「つまり、ここからは競争ってことさ」

「競争?」


聖女追放なんてのは手段であって目的ではない。


転生し、この世界の構造を知った時からずっと覆してやると決めていたこと。


その為に義母の申し出を受けて貧乏領地の立て直しに四苦八苦してきた。


「神々から決別した国と、神々と手を結んだ国の発展競争」


せっかく転生までしたのだ。これぐらいしなければ楽しくないだろ、と俺はこれから始まる神様を巻き込んだ戦いに我知らず頬を緩ませていた。

連載中の話のプロットに行き詰ったので、没ネタを投下。

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[良い点] 聖女に行き先があった点 [気になる点] 主人公が本人の言う「老害」である上、恐らく野心溢れるエネルギッシュなキャラにしたいんだろうけれど、実際は所々の物言いが上から目線で、相手を見下す嫌味…
[一言] 男爵領が豊かになるためには聖女排除が必須だものな。聖女が国にいたままでは力の限界を認められないから足りないところに援助もされないし他の方策をしても下手したら異端として排除されかねない。 今ま…
[良い点] 自分が客観的だと思い込んでる、傲慢主人公の自分語りはピエロである意味面白い。 [気になる点] 単純に自分が気に入らないだけならよかったんだが。穴だらけの理論言われても共感できない。 [一言…
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