第一話 僕
「夢を映像で残せるTraumついに……発売!!超高性能AI Reaminが夢を貴方の要望に沿って編集し保存いたします。悪夢だってホラー映画に早替わり!ドラマや映画!コメディなんて古い古いッ!!これからは夢を映像する時代」
ーーピッ!!
「馬鹿馬鹿しい。」
何が夢を想像する時代だ……現実を見ろってんだ馬鹿野郎……と言ってテレビの電源を落としたもののその馬鹿馬鹿しさを支持する自分が別にいた。
「逃げたくもなるよな……こんな世界」
僕は宮本 成一 26歳独身。
医療系資格を取りなんとかこの先行き真っ暗な国でも暮らし過ごせている。唯一の趣味はバイクで綺麗な景色を見に行く事だったがここ一年動かしていない……一年前、妹を事故で亡くしたからだ。
妹は兄である僕の影響を受け二輪免許を取得。事故当時兄弟ツーリングを予定しておりその前に上手くなっていたかったのか練習を兼ねて自宅周辺を走行していた……しかし道路の溝にタイヤを取られ転倒しそのまま壁に衝突。
皮肉にも妹はそのまま帰らぬ人となり、乗車していたバイクは何の異常もなく帰ってきた。まるで僕の過ちを現しているかの様に
結局、兄弟ツーリングを予定していた日は妹の葬式となり、僕がバイクに乗っていなければ…あの日妹を制止していれば…免許を取らせなければ…そして……死の兆しを知っていながら……と溢れんばかりの後悔と自責を繰り返す事となる。
僕は妹が死ぬ事を知っていたといえば結果論的に知っていた。それが事故なのか病気なのか原因は様々だが生前から彼女の死を俺は何度も見てきた……夢の中で……。
これが何を現しているのかは正直俺にはわからない。ただ医学的に言えば夢なんてものは無数にある情報と記憶が組み合わせられ映し出されているだけだ。きっとそれ以上でもそれ以下でもないのだろう
そんな事を考えながら僕はいつも通り心の奥底に様々な思いを押し込めて仕事へ向かう。
「先生ッ!!今日俺の家にトラオムが届くんだよ!」
「トラオムってあの夢を映像にするとかってやつ?PS8の方が良くないかな?」
「わかってないなぁ先生は〜ゲーム機とトラオムの違いってのはね〜………」
待合室で待つ親を待つ子と空き時間を使って会話をしていると今朝のCMで丁度見ていたトラオムについての話題が出てきた。その子曰くゲームはルールもシナリオも世界観も体験するのに限界があるが、トラオムはシナリオもルールも世界も全て自分とAIが作成するのである意味限界がないのだそうだ。
今朝見た夢をホラーで体験したいと思えばホラーに、SFで体験したければSFにしてくれる。夢を保存するだけでないのがトラオムのすごい所らしい。
そう言われると元々ゲームや映画好きな自分にとってすこし興味が出てしまうが……夢が関わってくるとなるとやはり躊躇してしまうのだった。
『んで?……結局買っちゃったと』
『そうなんだよ。やっちゃった。貯金半分使っちゃった。今月小麦粉ともやし生活だよ』
『バカだねぇ〜……まぁ飽き性のお前だ。最悪また安くで買い取ってやるよ。』
親友の山田は俺の唯一心を許せる人間でこうして月に何度か連絡を取り合っている。比較的エリートな彼は度々、俺の趣味の道具を買い取ってくれており、俺がここまで立ち直れたのは彼の一言「気晴らしで色々始めてみたら?飽きたら俺が始めてみるから」の力が大きく、結局今でも趣味と呼べるものは見つかっていないが元気でやれている。
『釣り、キャンプ、ゴルフ、ボーリング、ヨガ、筋トレ、空手、剣道、居合道、色々やってきたが……次はトラオムねぇ……まぁ高い買い物だし、ハマるといいな!』
『うん。ありがとう!それじゃあそろそろ寝るよ。トラオムもセットして』
『良さげな夢が出来たらまた見せてくれよ。おやすみ』
頭にゴーグルをセットして寝るだけでいいんだからハマるもハマらんも無いとは思うんだけれど……こうして毎日トラオムをセットしてつけてりゃまぁ毎日見るものには困らないだろう。毎日見た事ない映画を見続けるみたいな感じか
「さっ……寝よ寝よ」
この時まで僕は思いもしなかった。いつもの様に思いつきで買ったこのトラオムが僕の人生も価値観も全て変えてしまう事を。