ドラゴンの脅威
2人を置いたまま逃げるわけにはいかない。仲間を見捨てるなど、騎士として有り得ない行動だ。ジェイドとニコラは、このピンチを切り抜ける方法はないか必死で頭を巡らせた。
が、ドラゴンは待ってはくれない。
「痺れたぜ……よくもやってくれたなぁ」
と赤茶色のドラゴンは頭を振り、
「金色の髪は俺がやる、お前らは他の奴らを好きに喰え」
とジェイドに狙いを定めると、待ってましたとばかりに赤茶色のドラゴンの背後にいたドラゴン2体が赤茶色のドラゴンの前に出て、ニコラと腰を抜かした2人の友人に向かって火炎を吐いた。
「く……」
立ち竦むニコラ。
そのニコラに対し、ジェイドは、
「炎を弾く壁と成れ、断氷壁!」
とニコラに剣を向けると、ニコラの前に氷の壁が作られ、炎を防いだ。
「ニコラ! お前も戦え、俺の魔法だけでは、そんなに持たない!」
ニコラを叱咤するジェイド。
そんなジェイドに対し、赤茶色のドラゴンは、
「ふん、余所見とは、舐められたもんだ」
と、ジェイドに向かって尾を振り回すと、ジェイドは何とか飛びのいて直撃は避けたが、尾の風圧に吹き飛ばされ、大木の幹に激突した。
「くそ……くそっ!」
一方ニコラは、両手を目の前の氷の壁に向け、溶けかかっている氷の壁に再び冷気を浴びせて、再び頑強な氷の壁を作り上げた。
しかし、炎を吐いていたドラゴンの1体が跳び上がり、氷の壁に体当たりをすると、氷の壁は簡単に破壊され、その勢いでニコラとその友人たちは弾き飛ばされた。
話に聞くのと、実際に対峙するのでは大違いだ。ドラゴンは、人間が1人でどうにかできる相手ではない。
ジェイドは痛みを堪えながら立ち上がり、戦意を喪失し諦めかけているニコラらを見て、全員は助からないと覚悟した。
「……ニコラ」
「……なんだよ」
「お、俺が奴らを引き付ける。その間に……2人を引き摺ってでも、逃げろ」
「な……手前、何言ってやがる」
ニコラは驚きジェイドを見た。
「ふ、はは……キミらよりも俺の方が強いからな、足止めできるとしたら、俺だけだ」
ジェイドは無理やり笑顔を作った。口元が震えているのがニコラにも分かった。
その間にも、3体のドラゴンは1歩ずつジェイドらに近付いて来る。
迷っている時間はない。
「い、いいから行け! このままだと全員、死ぬ!」
ジェイドが必死の形相で叫ぶと、ニコラは舌打ちをして腰を抜かす友人に肩を貸して立ち上がらせた。
が、もはや遅かった。
赤茶色のドラゴンが大きく息を吸い込んだかと思うと、巨大な火球を放った。
かわすことのできる距離でも、防御ができる威力でもない。
全員が死を覚悟したとき――
ドオオオン!
ジェイドらに命中する前に火球が爆発した。
ジェイドらもドラゴンも爆風に眼を細め、予期せぬ事態の原因を探ろうと眼を凝らした。
「この状況は、さすがに放っておけませんね」
濃紺の髪に黒縁眼鏡、下級官吏のグレーの制服に、競技会スタッフの赤い腕章。
ジェイドらとドラゴンの間に立って、指で眼鏡の位置を直しながら、眼鏡の奥の黄土色の瞳でドラゴンたちを見ているのは、アルトであった。
「あ、あなたは……なぜここに」
ジェイドが茫然とアルトを見た。
アルトは顔をジェイドに向けて、笑みを浮かべた。
「僕も一応スタッフなんで、ここは僕が治めますから……」
そして、東の方向を指差した。
「皆さんは競技に戻ってください。速くしないとビリになっちゃいますよ」
「い、いや、何言ってんだよ、状況分かってんのか、手前!」
ニコラが苛立ちをぶつけるように怒声を上げたが、アルトはヘラヘラ笑ったまま。
「大丈夫ですって、ここはスタッフの僕に任せください。上手く治めて見せますから」
そう言いながら、アルトは胸を張って、ドンと胸を叩いた。
常識的に考えれば、騎士でもない下級官吏が1人で3体のドラゴンをどうにかできる筈がない。だがこのとき、ジェイドは気が動転してまともな思考ができる状態ではなく、その上で、アルトが微塵も不安な様子なく自信満々に言い放ったので、ジェイドは思わずアルトの指示に従ってしまった。
「わ、分かりました、ここはお願いします……ニコラ、行くぞ」
「お、おい、本当に良いのか? 大丈夫なのか?」
ニコラはアルトを残して行くことに躊躇いを感じながら、ジェイドとともに友人に肩を貸して立ち上がらせ、東に向かって移動を開始した。
「そう、それで良い、東に向かって真っすぐだ。振り向くなよ、速度が落ちる。振り向かずにひたすら進め」
4人の背中にアルトの声が聞こえた。その声は、さきほどまでの声とは違う雰囲気。しかし、4人はそんなことに気付く余裕などなく、ただひたすらにその声に従い、できる限りの速さで東に向かって進んだ。
「何者か知らんが、そう簡単に逃がすかよ!」
赤茶色のドラゴンはそう言うや、羽根を広げて、木々をなぎ倒しつつ、逃げる4人に向かって突進しようとした。が――
「行かせんよ、悪いが、俺の相手をしてもらおう」
アルトがドラゴンの行く手に立ち塞がり、ドラゴンの顎を蹴り上げ、ドラゴンをのけ反らせ、さらにドラゴンの身体に拳をめり込ませながら殴り飛ばした。




